第34話 人気職種の使用人(メイド視点)

 辺境スートレナでは、少し前から領民の生活が劇的に改善された。

 特に顕著なのが、食糧事情だ。

 これには、王都から追放されてきた、新しい領主夫妻が大きく関わっている。

 彼らの屋敷にメイドとして採用されたマリリンは、買い出しのついでに街の様子を少し見て回る。

 

 かつて、この辺りには、いつも暗い雰囲気が漂っていた。

 魔獣の被害、重税、領主の横暴……人々は終わらない苦難の日々にただ耐え続けていた。

 それは、マリリンも一緒だ。

 壊れかけの木造家屋とも呼べない小屋で幼子を抱え、酒場の給仕として毎晩安い賃金で働いていたが、とうとうクビになった。

 いつも馴れ馴れしかった酒場の主人が、一向になびかないマリリンに腹を立て、店を追い出したのだ。

 

 夫は蒸発してしまい、子供と二人の極貧生活。

 そんな中、藁をも掴む気持ちで「領主の屋敷でのメイド募集」の面接に参加した。

 かつての酒場の同僚に子供を預けて向かったものの、条件面で圧倒的に不利だという現実はわかっていた。なのに……

 

「合格だなんて」

 

 しかも、家賃を払わずに、子供共々屋敷で生活することが許された。

 休憩時間には、子供と一緒に過ごすこともできる。

 

 現在は侍女頭のケリーに教えを請いながら、メイドの仕事を覚えている最中だ。

 マリリンが最初に任された仕事は、食材の買い出しと、料理人のメイーザの補助、そして食事の際の給仕係だ。

 毎日、一生懸命働いている。ここを追い出されたら行く場所がない。

 

 それにしても、どうして自分が採用されたのだろうかと思う。もっと若く、子連れではない子もいたというのに。

 同僚のローリーも同じ疑問を持っていたようだ。彼女も既婚者で子供がいるし、一度職を辞して家庭に入っているので。

 ローリーは「行き場のない人間から引き取ってくださったのでは……?」と、話している。彼女の言葉を聞いたマリリンも、そんな気がしてきた。

 

 マリリンが買い物をしていると、店の人が気さくに声をかけてくれる。

 

「おや、新しいメイドさんだね。仕事は大丈夫かい? 他の子たちは平気と言うけれど、前の領主の件もあって心配で……」

 

 行く先々で、同じことを尋ねられるので不思議だ。

 だから、マリリンは、いつも笑顔で答えるようにしている。

 

「大丈夫。旦那様も奥様もお優しいし、侍女頭も公正な方なの。お給料もいいし、こんな素敵な職場、他にはないわ」

 

 その後、領主の屋敷の使用人は大人気職種になるのだが、それはまた別の話。

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