何も起こらなかった山小屋の怪談

律角夢双

カルト君の怖くない話☆

 とある日の通学路、俺がいつも通り眠たい頭で学校までへの道をダラダラと一人で歩いていると、突然背後から肩を叩かれた。ビクッとして振り返ると、そこには俺と同じ学校の制服を着た奴が立っていた――でも、わかるのはそこまで。恥ずかしい話だが俺はあまり付き合いの良い方じゃないため、目の前のそいつにあまり見覚えがなかった。おそらくクラスメイトだとは思うんだが。


「やっ、おはよう。ひょっとしてボーっとしてる?」


「あぁ、そうなんだよ。昨日もゲームで徹夜して……じゃない。誰だオマエ」


「ヒドイなぁ、刈人だよ、カ・ル・ト! 一応クラスメイトでしょ?」


 あぁ、言われてみればそんな奴もいた気がする。そうそう、こいつは刈人だ……苗字は思い出せないけど。ま、本人に訊かれなきゃ問題ないか。


「ねぇねぇ聞いてよー。この前の日曜なんだけどさぁ、スッゴイ怖い目に遭ったんだよ。ねぇってばー!」


「あぁそうかそうか。怖かったなぁ、よーしよし」


 正直どうでもよかった。見ず知らず(?)の奴の恐怖体験なんて別段聞きたいモンでもないし。それよりなんつーかコイツの話は、多分絶対怖くないだろうって直感があった。だいたい本当に背筋も凍るような話だったとしても、こんな甲高い可愛らしい感じの声で喋られたら逆に笑っちまうだろうよ。


「キミ、馬鹿にしてるだろ! 本当に怖かったんだからなっ⁉」


「ほぉ、そこまで言うんだったら話してみろよ。その怖かった体験とやらを」


「言ったなぁ⁉ じゃあ話してやるよ。あまりに怖くて漏らしたって知らないからな?」


 いや、漏らすって……その時点でもう吹き出しそうなんだが。あ、もちろん吹き出すのは口からな? ――まぁ、馬鹿な冗談は置いておくとして。


「じゃあ始めるよ? 途中で待ったはナシだからね?」


「あーわかった、わかったってば! いーから勿体付けずにとっとと喋れ」


「――これは先週の日曜日の話。ボクが友達と一緒にハイキングに出かけた先で起こった出来事なんだけど……」


 燦燦と降り注ぐ太陽の光の下、刈人は滑稽なぐらい静かに語りだした――




***




 僕は一か月前くらいから、気心の知れた仲間と一緒にハイキングに行く計画を立ててたんだ。とは言ってもそんなに本格的な登山コースとかを巡るわけじゃなくて、感覚的にはピクニックに近い感じかな……ってよく考えたらまんまピクニックじゃん! アハハ、まぁ細かいコトはあんまり気にしないでよ。


 メンバーは「杉谷・相馬・藤木・ボク」で、朝の十時頃には麓を出発したんだ。皆でまったりと談笑しながら、周りの自然や小鳥たちを観察しながらゆっくりと進んで……っていうのは、ちょっとだけウソかも。だって花より団子な連中ばっかだったから。皆口々に、「腹減った~」とか「早くメシにしようぜ~」とかしか言ってなかった気もするし、ひょっとしたら景色なんてまったく目に入ってなかったかもね――ボク? ボクのコトはどうだっていいじゃん、アッハッハ♪


 それで正午をすぎた辺りで休憩所みたいな場所で一休みしてさ、皆で持ち寄った弁当に舌鼓を打ったわけ。おかずの取り換えっこしたりしてさ……って、何かまるで女子みたいだね、これじゃ♪ ボクたち皆、ムサイ男ばっかなんだけどね、ナハハ――え、これは笑うとこじゃないの?


 ところが午後になって小雨が降りだして、そこからが問題だったんだよ。とりあえず雨が酷くなる前に急いで戻ろうってなったんだけど、そのタイミングで藤木が苦しそうにしだしてさ。最初は弁当食べすぎたんじゃないってくらいに軽く見てたんだけど、どうも様子がおかしくてさ。とうとうそのまま地べたに突っ伏しちゃって――雨は上がったものの、まさか藤木を置いてはいけないから、彼が回復するまで待つことにしたんだ。そしたら夕方になっちゃって。


 ――で、何となくもう予想ついてるとは思うけど。見事にボクたちは道に迷っちゃったわけね。こんな暗くなるなんて思ってなかったモンだから、誰も懐中電灯とか持ってなくてさ。仕方なくスマホのバックライトを頼りに進んだんだ――アプリの地図? それが無線の電波が通ってない場所みたいで使えなかったんだよ、お約束みたいにさ……はは、ははは。そうして皆で山を彷徨っていると――怪しい山小屋を見つけたんだ。


 だって仕方ないじゃん! 誰だってこんなあからさまに怪しい建物に入りたいとは思わなかったけど……最悪野宿かもしれないんだよ? だから気は進まなかったけど、ボクが先陣を切ってその山小屋の扉を開けたんだ。すると中から――この世を呪う悪魔のような声が聞こえてきたのさ……。




***




〈フハハハハ、迷える子羊の諸君。恐怖の小屋へようこそ……おっと、そこを動くなよ。キミ達がこの小屋の正面にやってきた時点で、もうすでには始まっている。勝手な振る舞いは自分の首を絞めるかもしれんぞ?〉


 その声に皆ビックリして止まっちゃったんだ。その隙に扉が勝手に閉まっちゃって、杉谷が開けようとしたけど無理だったみたい。だからボクらはもう、この声の主が言うところの「ゲーム」とやらに参加するしかなくなっちゃったんだよ。ボクらはどこからともなく聞こえてくる謎の声に集中した――


〈ではルールを説明しよう。キミ達が今いる部屋の床に一枚の紙が落ちているはずだ。それがこの小屋の見取り図となる。なお裏面には今から説明するルールも記載されているのだが、念には念を入れて口頭でも説明をしようではないか……フハハ、どうだ。私は優しいだろう?〉


 もう誰もそんな冗談には耳を貸さず、さっそくボクらは床の見取り図を拾って確かめだした。どうやらこの小屋は縦横2×2の四部屋の構成になっていて、それぞれの部屋には「青龍・朱雀・白虎・玄武」という名前が付けられていた。そして各部屋には隣り合う部屋同士を行き来できる扉が二つあるという、非常にシンプルなものだね。ちなみにボクらが入ってきたのは、「玄武の間」だよ。そして見取り図の裏面には、このゲームのルールが書かれていたんだけど……こんな感じだったかな。




***




(ルール)


・第一段階として、まずはすべての部屋に人を配置しなさい。できたら第二段階に進みます。


・第二段階は、「玄武の間」からスタートします。その部屋の人は隣の部屋に移動し、その部屋のの人の肩を叩きなさい。


・肩を叩かれた人は、前の人と同じ要領で次の部屋に進み――以下繰り返しです。


・最後に「玄武の間」の人の肩を叩いたら、ゲームクリアです。キミ達は無事に解放されます。


・注意! 後戻りは不可とします。特に第二段階に入ったらゲーム終了までは、一人一部屋しか移動できないものとします。決してズルが出来ないように、開けた扉は必ず閉めるようにしなさい。また言うまでもないことですが、第一段階・第二段階ともに、一人につき開けていい扉は一つまでです。


・ゲームクリアに失敗した場合、キミ達全員の存在はこの世から抹消されます。またそれとは別にルール違反をした者については、個別に存在を抹消されますのでそのつもりで――では、グッドラック☆




***




 ルールを確認し終わって、ボクらは安心したよ。だってそこまで難しいゲームじゃないことがわかったからね。すぐに藤木の指示のもと、準備に取り掛かることにしたんだ。


 まず「玄武の間」には、杉谷が残ることになったよ。そして二つの扉を相馬・藤木が開けて、「白虎の間」には相馬が、「青龍の間」には藤木がついた。そして残るボクが一番奥の「朱雀の間」に移動した――これで第一段階は終わり。第二段階の始まりだね。


 まずは杉谷が「青龍の間」に移動して、藤木の肩にタッチ。次に藤木が「朱雀の間」のボクにタッチ。当然ボクは、「白虎の間」の相馬にタッチ。そしてもちろん……最後に相馬が「玄武の間」に残った杉谷にタッチして、見事ゲームクリアとなったわけだけど――するとさっきの謎の声がまた響きだしたんだ。


〈おめでとう。ゲームクリアだ……キミ達はなかなか優秀なようだな。恐れ入ったよ。ここから帰ってよし!〉


すると入口を含むすべての扉がひとりでに開いたんだ。四人とも一刻も早くこんな薄気味悪い場所からは立ち去りたかったし、一目散に外へと駆け出した――また扉が閉まって鍵でもかかったら最悪だからね。それはもう、凄い勢いだったさ。


 で、外に出てみると――何故か無線の電波が復活してて。すぐさま相馬がアプリの地図で現在地を確認したんだけど、何とそこは最初の麓からたった百メートルしか離れていない場所だったみたい。なぁんだってなってしばらく歩くと、確かに見覚えのある場所に出た。時間は夜の九時で大分遅くはなったけど、おかげさまで無事に家に帰り着くことができた、ってわけさ――




***




「――ということがあったんだけど。どう、怖かった?」


 聞いて損した。やっぱり全然怖くなかったし。欠伸が出そうだ、ふわぁ……


「……ねぇ、ちゃんと真面目に聞いてた?」


「ああ聞いてたよ――お前これ、作り話だろ」


「ハァ⁉ 作り話じゃないし、ちゃんとした実体験だし!」


「だいたいこれ、有名な怪談話のだろ。どう考えてもじゃねぇか。もう一人はどこから湧いてきたんだよ?」


 そう、「山小屋の怪談」という有名な話があって、刈人の話と似たような状況になるのだが――この話のオチはこうだ。実はよく考えるとわかるのだが、最後の一人の肩を叩くことはだ……だってそいつはもう、のだから。この話が成立するには、謎の「五人目」の人物が必要なわけで――


「ぷ、ぷぷっ……アハハ! やーいやーい、引っかかったね♪」


 刈人が俺を指差してさも楽しそうに大笑いしてやがる、ムカつく。


「引っかかったって……何がだよ」


「ヘッヘッヘ、キミには特別に答えを教えてあげるよ。実は……杉谷はだったのさ♪」


「――は?」


 俺は一瞬、頭が真っ白になる。そして次の瞬間――激怒した。この話のあまりにもしょうもない「オチ」に気づいて。


 要するにこういうことだ。「藤木にタッチした杉谷」と「最後にタッチされた杉谷」はだったということ。こいつらは最初からだったわけだ。それをあたかも怪談話かのように脚色して、刈人の奴が面白おかしく語って聞かせただけっていう、そういうオチ。


「てめぇふざけんなよ! 紛らわしい言い方をしやがって!」


「へーんだ! ボクはウソはついてないもんね。四人で出かけたなんてひとことも言ってないし♪」


「ち、畜生。卑怯者め……」


「ボクが卑怯者? ――ふふっ、どの口が言うんだろう。そんなこと……」


「――?」


 さっきまで笑い転げていた刈人の雰囲気が変わった気がしたが、すぐにその気配は霧散する。誰かの呼ぶ声がした。


「お~い、忌和いみわ。こっち来いよ~!」


「あ、おっはよ~……じゃ、また会おうね――次会えるのがいつかは知らないけどさ♪」


 そんな意味深なことを言い残して、刈人は呼んだ奴のいる方へと走っていった……そこでようやく俺は思い出した。そう、あいつの名前は「忌和いみわ 刈人かると」。何で今まで忘れてたのかは、よくわからんけど――ウ~ン、徹夜明けのせいでまだ頭がボケてんのかな、俺?


 ま、そんなこんなで。今日もまた普段と変わり映えしない学園生活が始まるってことで……え、俺の名前? あ、言ってなかったっけか。えっと、俺の名前は――いや、別にそんなのどうでもいいだろ。これ以上話してると遅刻すっから、俺もう行くな? じゃ、どこかでまた会おうぜ。

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