第28話 血の従属
「ロイと、そーいや、ユリウス・クラウザーって奴も酒飲むか?」
私がそう言うと、ゼノスが首を横に振る。
「ああ、あれは、多分誘ってもこない」
「なんで?」
「サイラス様にべったりだから。大抵護衛をしてる」
「サイラスに護衛? いるかな?」
あいつはもの凄く強いぞ? そう言うと、ゼノスが苦笑した。
「まぁ、俺もいらないとは思うけど、離れないんだ。忠誠心の塊なんだよ」
「ふうん?」
あ、そうだ。
「なぁ、血の従属ってお前、何のことか知ってるか?」
私がそう言うと、
「……知ってる」
ゼノスがそう答える。
「どういうもの?」
気になって仕方がない。あの自称
「
「じゃあ、お前達がサイラスに従属している、なんてことはないんだな?」
――血の従属で
だったら、あのアラクネとかいう魔物は何であんなことを言ったんだ? そう思うも、
「従属してる」
ゼノスの返答に仰天した。
「え?」
「俺達全員、いや、ヨアヒムを除いた全員が、サイラス様に従属しているよ」
「だって、今……」
「
「管理……」
「そうだ。勝手な振る舞いが出来ないよう、リーダーとなる
「じゃ、じゃあ、お前はサイラスに支配されている?」
「そうだ。でも、自由だ」
私が首を傾げると、
「サイラス様は俺達を縛らない。元々相争わないための苦肉の策だったんだ」
「相争わない為?」
「ネイサン・ビル、フェイ・アート、レイ・クラウド……彼らの身に起こった悲劇を繰り返さないためのな。サイラス様に従属した
「それって……」
「そうだ。同士討ちを避けられる。俺達が相争って死ぬことはない。もしかしたら、そう、こうやってサイラス様の元にいれば、俺達
何だか涙が出そうになる。嬉しくて……。
「は、はは。そっか、死なないんだ。いいな、それ……」
私が笑うと、
「……本当、お前は変わっている」
ゼノスにそう言われてしまう。
彼の手が私の頬に伸び、一粒こぼれ落ちた涙を指先で拭ってくれた。その指が掠めるように唇にも触れて、どきりとなる。その手つきがやけに柔らかくて、自分を見下ろす灰色の瞳がいつになく優しくて……。
「普通は死んで欲しい、そう思うもんだよ」
口調まで優しい。こんな奴だったっけ?
「私は思わない」
眉間に皺が寄ってしまう。私はあいつらに生きていて欲しかった。
「だから、変わってるんだ」
ゼノスの手が私の頬を包み込む。私はじっとゼノスの灰色の瞳を見返してしまった。彼の物言いたげな瞳が、どうしても気になってしまって……。
でも、ふいっとゼノスの視線は逸らされてしまう。なんだったんだろう?
離れていくゼノスの背を見やり、私はふと思いついた事を口した。
「あ、そういや、サイラスの狂気の暴走を止めた魔道士って誰だ?」
「自分自身」
ゼノスがソファに座ったので、私もその隣に腰を下ろす。
「サイラスが自分で?」
「そう、そういった魔術を使うんだ」
ふうん? ま、あいつを止められる魔道士なんかいそうにないから、そういう事になるのか。しかし、そうか……血の従属。でも、それで
「サイラスが
別に答えを期待していたわけじゃないけれど、
「ある」
なんて答えが返ってきて仰天した。
「どうやって!」
「
私が絶句していると、
「なんてのは夢物語だけどな」
ゼノスに笑われてしまった。え?
「だってよ、
あ、そうか、そういや、そうだよな。
私はほっと胸をなで下ろす。
戦争をやったって、勝てないなんて言っている相手の大将のところへどうやって辿り着くんだか……。無理だ。確かに実行不可能だろう。何だ、心配しなくて良かったのか。
あ、でも……。
「もし、サイラスが
「ん? ああ、そうかもな」
ゼノスはそう答えて笑い、ぐしゃぐしゃと私の頭を撫でた。この時の私は単純にそう考えたけれど、世の中、そううまくはいかないもので。
この時の私は思いもしなかった。
もし万が一にも、サイラスが
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