第11話 長女の優莉と次女の愛莉
――ガチャ
扉が開く音が照麻の耳に聞こえてきた。
だが香莉はムキになっている為、音そのものに気が付いていない様子だ。
今も「いいですか? 私は……」と顔を近づけた姿勢のまま何かを言っているのだが、照麻の耳にはそんな事は一切入ってこない。
――ゴクリ
照麻と香莉を見て困惑の顔をした女性と冷たい視線をつきつけてくる女性が照麻の意識を全部持っていく。
「って、照麻さん私の話しをちゃんと聞いているのですか? 幾ら私でも視線を逸らして上の空を続けると言うなら本気で怒りますよ?」
「ち、違う。あ、あれ」
照麻は二人の女性に向かって指をさす。
するとようやく香莉が照麻の意識が何故違う方向にあったのかに気付く。
「あ、そういう事でしたか。二人共おかえりなさい」
香莉はいつもの表情に戻ると、まるで何事もなかったかのように挨拶を始めた。
「うん、ただいま。それでこの人は?」
「下着泥棒か何かなら警察に通報するけど?」
聞こえてくる声に照麻はゾッとした。
会って第一声が下着泥棒とは好感度としては他人以下と言った所なのだろうか。
冷静になって自分の好感度の低さを実感する照麻。
ゲームですらせめて知らない人扱いを最初はしてくれるのにそれ以下のスタートとは現実は難しい。
「実はこの人が昨日私を助けてくれた人です。ですから警察は呼ばなくていいですよ、愛莉」
香莉はそのまま本当に通報する気だった愛莉と呼ばれる女性からスマートフォンを取り上げて入力された番号を削除して再び愛莉に返した。
「へぇ~この人がねー」
今度はもう一人の女性が照麻に近づいて来て見てくる。
照麻は黙ってこの状況の理解に努める。
色々と聞きたい事はあるが、今は余計な口を開かない方がいいだろう。
でないとまた下着泥棒みたく変な誤解をされるかもしれない。
「君、名前は?」
そのまま質問をしてきた女性に照麻は答える。
「赤井照麻です」
「照麻ね、これからよろしく! 私は優莉。これからは優莉って呼んで」
「わかった」
優莉と名乗る女性は香莉と同じ制服に身を包み、紫色の髪は腰下まであり胸は香莉と同じぐらいに大きくて、目がまん丸としており、容姿が整っていた。
「私は……愛莉よ。アンタと仲良くするつもりはあまりないけど一応自己紹介はしておくわ」
今度はさっき照麻を下着泥棒と勘違いした愛莉が自己紹介をしてきた。
愛莉はピンク色で優莉と香莉の中間ぐらいの髪の長さである、胸も二人とあまり変わらないぐらい大きくて、少しプライドが高そうな印象を受けた。容姿はこれまた整っていた。
「そっかぁ……まぁ一応よろしく」
「ふん」
そう言って愛莉は腕を組んで、そっぽを向いてしまった。
そのまま照麻から見て三人が並んで座り、対面に来た。
「私達三姉妹なんです。だから今日から改めてよろしくお願いします」
「三姉妹……」
この時、照麻はある事を思い出した。
今朝のクラスでのやり取りの一部である。
「だから俺に藤原は止めて香莉って呼んでくれと言ってきたわけか」
「はい。それでですねお礼というわけではないですが、今日は私がご馳走を用意するので食べて行ってはくれませんか?」
「あら、照麻も一緒なの?」
「ダメですか?」
香莉が少し心配そうにして優莉に尋ねる。
「別に私はいいよ、皆がいいなら。だって皆で食べた方が美味しいし」
だけど優莉とは意見が違うらしく愛莉がすぐに反論した。
「いいわけないでしょ! 私は絶対に嫌!」
「なら愛莉の分は作らないので三人で食べます。愛莉は一人自分の部屋で好きな物でも食べていてください。それで構いませんか?」
「……嫌に決まってるでしょ、なんで私だけ仲間外れにされないといけないのよ」
「なら一緒に食べますか?」
「えっ……うぅ……わかった。皆で……食べたい……からアイツとも一緒に食べる」
「愛莉ってお姉ちゃんなのにたまにそうゆう我儘な所ありますよね。早く直さないとですよ。妹としてちょっと心配です」
「まぁまぁ、長女の私が言うのもなんだけど……そこは多めに見てあげなよ」
「ですね」
香莉は微笑みながら答えると、今度は照麻の方に視線を戻す。
「そうゆうわけで構いませんか?」
香莉と優莉から優しい視線を感じるが、愛莉からは怒っているのか鋭い視線が向けられた。敵対心を持っているのか、言葉と行動が反比例しているなと照麻は思いながらも、
「うん」
と頷き、一緒にご飯を食べる事を了承した。
三人の話しを聞いていた中で照麻は長女の優莉、次女の愛莉、三女の香莉と言う事が分かった。
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