タイムマシン

石濱ウミ

プロローグ



 「エラー!! エラー出てます! 制御不能ッ! 繰り返します! 制御不能ッ!!」


 いくつもの管制コンソールの並んだ、コントロールルーム。

 突然、管制室中に警告ブザーが響き渡り、前方にある巨大なスクリーンいっぱいにエラーメッセージが点灯し、そこにある全てを赤く染めた。


「内部モニターは?! 誰か見てた? ちょっと何なの!! あの煙は何?!」


 赤く点滅するスクリーンには、煙りを上げる宇宙船のようなものが映し出されている。

 その形は計器ユニットからなる機械船と、人が乗り込むカプセルの組み合わせで出来ており、世界初の有人宇宙船ボストーク一号によく似ていたため、開発者達は成功をあやかろうと『ユーリイ』と呼び名を付けていた。

 いま、スクリーンではその『ユーリイ』の機械船の部分から白い煙が濛々と立ち昇っているのが見える。


「切り替えます! 内部モニター……映りません」


 手元のコンソールを、覗き込んでいたひとりが悲痛な声を上げる。


「生体反応……ありません……」


 またひとり、絶望的な声。


「……?! 何ですって? ……ハッチを開けて!! 開けなさい!! いいから早くッ!」


「でも、今開けたら……?」


「開けるのよッ!!!」


 スクリーンにそのカプセルの扉が開く瞬間が映し出される前に、ひとりの人物が管制室を飛び出していく。

 その人物は、コントロールルームの扉の自動ドアが開くのももどかしく、両手でこじ開けるようにして部屋を飛び出すと、実験棟まで全速力で走った。


「開けて!」

 

 声紋認証により実験棟の扉が開く。

 扉の向こうは吐き出される白い煙に覆われ、中がよく見えない。


 管制室前方、巨大スクリーンには立ち込める煙の中、カプセルと、それに近づく人物が映し出されている。

 腕を曲げて、煙をなるべく吸い込まないように口元を押さえたその人物は、カプセルの扉を開けるよう再度スクリーンの向こうから指示を出す。


 カプセルの前に立つ人物は、機械の焦げつく臭いの中に、人体が焼けたり溶けたりしたものと思われる臭いがないかと、嗅ぎ分けようと息をしようとする。しかし、鼻の奥に刺さるような刺激臭が邪魔をしてよく分からない。


 気圧の抜ける音と共に、ようやくハッチが開けられた。

 扉に駆け寄り、内部を覗き込む。

 煙の中、目を凝らした。


「……まさか!!」


 焼け爛れた肉片も、組織液の一滴も、そこには見当たらない。

 カプセル内部に乗組員の姿は、なかった。


 ざわめく管制室でも、次第に煙のなくなった実験棟が鮮明に映し出されると共に、やがて水をうったような静寂が訪れる。

 スクリーンには『ユーリイ』と、その傍に唖然と立ち竦む人物の姿。

 カプセル内部は陰になり、見えない。

 

 管制室で大型スクリーンを息を呑んで見つめていたひとりが、カプセルの前で佇むその人物の唇の動きを読んだ……。


「Oh my gosh.……Where’v you gone?」


 

 

 


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