第476話 勇者村ちびっこ男子によるむしゃしゅ行

「むしゃしゅ行をしようとおもうんです!!」


「カールくん!」


 突然現れて宣言するカールくん。

 心なしか、いつもはひらがなばかりだったセリフに漢字が混じっている気がする。

 ちょっと成長したんだろうなあ。


 感慨深い。


「どこに修行しに行くの?」


「フォレストマンたちのところに……」


「あ、ホームステイみたいな感じね」


「そんなかんじ……」


 あー、ちょっとしょんぼりしてしまった。


「まあまあ、頑張ってな。怪我をしないようにな。パワーアップ期待しているからな」


「はい、がんばってきます!!」


 ということで、カールくんが旅立って行った。

 ブルストのとこのバインも一緒だ。


 二人のちびっこがフォレストマンのところで何をやろうと言うのだろうか。

 興味があったので、髪の毛を引き抜いて超小型の分身を作り出し、見に行かせた。


「よろしくおねがいします!」


「ます!」


 カールくんとバインの元気な挨拶が響く。

 フォレストマンたちがニコニコしながら二人を迎え入れる。

 元気なちびっこは、種族が変わっても可愛いものなのだ。


 今回の二人は遊びに行ったわけではなく、フォレストマンの生活を経験してみて、採取とか狩りを体験、一回り大きな男になるための特訓にやって来たのだ。

 さて、まずはフォレストマンの朝の日課に付き合ってもらおう。


 フォレストマンの朝は早い。

 だが今回はちびっこが来るのに合わせて、日課を遅めにやってくれている。

 昔だったらジャバウォックが出たので大変危険な時間だったのだが、今はそうでもない。


 以前トリマルがジャバウォックをジェノサイして回ったからだ。

 武者修行だったんだろうがやりすぎだぞ。

 しばらくジャバウォックの個体数回復を待つ段階に入っている。


 ということで、巨大な木の実の殻を加工した桶を用意。

 これを天秤棒の両端に蔓草のロープでぶら下げたら出発だ。


 ちょっと離れた水場まではおよそ十分。

 バインが楽しそうに歌っている。

 フォレストマンたちはこの姿が大変好ましいようで、みんなニコニコしている。


 そう、こいつらいい人たちなんだよなあ。


「そこ、水をくむ。こう。桶二つに同じくらい水を入れる。天秤棒を使うと運べる」


「なるほどー!」


「ほどー」


 バインは言葉で言ってもよく分からないので、フォレストマンとカールくんの実践を見てから真似している。

 とは言っても、オーガのブルストとミノタウロスのパメラの子どもだ。

 パワーだけは凄い。


 自分の頭よりも大きな桶に水をなみなみと汲み、これを天秤棒でひょいっと担ぎ上げた。

 なかなかのパワー!

 分身の俺も感心だ。


「おっとっと……! 力じゃバインにはかなわないなあ」


 カールくんはここで魔法を使うことにしたようだ。

 俺の使う念動魔法を彼なりにカスタムしたもので、いわば彼のオリジナルに近い。

 名付けて、作業補助魔法の……。


「パワーアシスト!」


 見えない力場が、桶を下から持ち上げてくれる状態になる。

 恐らく重さは半分以下になり、しかも全く揺れなくなったようだ。


 フォレストマンたちがおおーっとどよめいた。

 こうして水汲みはクリア。


 次は苔の採集に移る。

 これは、フォレストマンたちが苔を栽培している岩場があり、ここで石の道具を使って苔をそぎ取ってくるのだ。

 フォレストマンたちはこれを火で調理し、粉末状にして加工に用いる。


 苔でパンみたいなのができるのは俺も感動したもんだ。


 苔を食べに動物がやってくるので、そいつらを狩ってさらにおかずを増やす。

 これが狩り。

 今回は、六本足の鹿が出た。しかも外骨格。


 俺たちが知らない種で、どうやら昆虫から収斂進化した鹿らしい。

 フォレストマンたちが槍を使って、外骨格の周囲から抑え込む。

 一人がナイフで鹿のはしご状神経を切り裂くと、動かなくなった。


 狩り成功だ。

 これはちょっとカールくんもバインもびっくり。

 うむうむ、生き物を狩るのは抵抗があるもんだよな。


 だが、これが生きるということなのだ。

 ホームステイの間に、色々覚えて欲しい。


 狩られた鹿を解体する。

 外骨格を剥がせば、内側が全部筋肉……つまり食べられるところである。

 つまりこの鹿はとても食べ甲斐がある。


「おなかがすいてきたかも」


「おー、おなかすいた」


 男子二名が空腹を訴える。

 すると、年頃の近いフォレストマンの子どもたちがわーっとやって来て、おやつを分けてくれるのだ。

 これは苔の粉で作ったおまんじゅうだな。

 花の蜜をたっぷり使って甘くしてある。


「あまーい」


「んむー!」


 俺も食べたい。

 だが分身は監視機能しかないので見ているだけである。


 おお、パンと焼肉が出来上がったようだ。

 鹿肉が美味しそうな匂いを放ちながら運ばれてくる。

 これを苔のパンに挟んで食うわけだな。


 材料が特殊なのに、完成するのはサンドイッチだ。

 不思議なもんだなあ……。


 こうしてちびっこたちの修行の日々が始まった。

 頑張れよ……。

 俺も陰ながら応援しているからな。


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