第475話 フーのお手伝い募集

「うーん」


 ピアが大きくなってきたお腹をさすりながら、考え事をして歩いていた。


「なんだなんだ」


 こう言う時に首を突っ込むのが俺である。


「あっ、村長! やっぱり困ったときに来てくれるのは村長だなあ~」


「おう、村長だからな。で、何を悩んでいるんだ。過剰なストレスはお腹の子によくないぞ……」


「えへへ、ごめんなさい。あのねえ」


 ピアが話してくれた内容はと言うと……。

 彼女が妊娠して、激しい仕事をさせられなくなってしまった。

 その分を、張り切ったフーが一人で補おうと奮戦している。

 だが、やっぱり一人だと手が回らない……。


 という話なのだった。

 ピアはフーが体を壊してしまうのではないかと心配しているらしい。

 グーは年も年で、だんだん動けなくなってきているからな。


 虎人であるこの親子だが、人間よりちょっと寿命が短いようなのだ。

 つまり、グーもいつ召されるか分からん。

 孫を見るまでは生き延びると息巻いているようだが。


「ということで! うちは心配がたくさんなんだよー! お願い村長! 働いてくれる人を探して……!」


「よしきた」


 村の困りごとを一手に引き受けるのが俺の仕事だ。

 さて、働き手を探すという話だがどうしよう。


 ピアに子が生まれるまでの僅かな間だろうからな。

 短期でちょっと働きに来てくれる奴がいるのがいい。


 今度が俺が考え事をしながら村を歩いていると、向こうから容器に入れた炭を運ぶゴーレムどもがやって来た。


「おや、これは」

「村長では」

「ありませんか」


 1と2と3か。

 4と5は肥溜めのところで仕事してるもんな。


「炭の配達か。お疲れお疲れ」


「いえいえ!」

「煮炊きにはどうしても」

「必要ですからね!」


 各家庭用の炭を運んでいるわけだ。

 勇者村は南国なので、寒くなることはない。

 だが、各家庭でちょっと料理をするときに、煮炊きで火を使うことに代わりはないのだ。


 普通に火を起こすより、炭は随分楽だしな。

 山奥でドワーフのガンロックスが作ってくれる炭を、村はありがたく使っているのだ。


 その容器は、雨で炭をやられないためだな。

 普通なら熱くて持つのも大変だが、こいつらはゴーレムなのだ。

 全く問題がない。


 そしてこいつら、勇者村の土で作られたゴーレムなので、こうして当たり前みたいに自律意志を持っている。


「それで村長の」

「困りごとはなんですか?」

「~~~」


 3がセリフを全部言われて、口をパクパクさせた。

 その後、無言で2をどつく。


「うわーっ、な、何をする3~」


「セリフ残しておいてやれよ……」


「我々、このセリフは」

「アドリブです「からね」」


 今度は3が2に被せてきた。

 やるなあ。

 そうか、打ち合わせしてないから、誰がどこまで喋るかは裁量なんだな。


「いや、それはどうでもいいんだ。あのな、ピアが嫁入りしたフーの家あるだろ」


「あり」

「ます」

「ね」


「短文喋るの難しそうだなあ……。それでな、労働力を探しているんだが……」


「なるほど、では」

「我々の兄弟を」

「新たに作ってはどうでしょう?」


「なーるほど!」


 今度は3がたくさん喋れて機嫌が良い。

 俺もそのアイデアがあったなと手を打った。


 なんかこいつら、五体セットで完成している気分だったもんな。

 六体目、作るかあ……!


 そして最後の一体はこういう手が足りなくなったところを次々手助けする役割にしておこう。

 手が必要ない時は……ホロロッホー鳥の世話でもさせておくか。


 こうして、三体を見送った後、俺は新たなゴーレムの錬成に取り掛かった。

 その辺の土を掘り返して、人間一人分くらいの体積を確保する。

 これに魔法をつるっと使う。


 すると、土くれはもりもりと組み合わさって立ち上がり……。


「新たに命を賜りました、6でございます。はて、どうして生まれた瞬間から私は6なのですか?」


「お前の先には、一つのセリフを分割して喋る五人の兄がいるのだ……」


「なるほどー」


 6は手を打った。

 言葉遣いも発生も、大変人間っぽい。

 ゴーレム五兄弟は長い日にちを掛けて喋りが人間っぽくなってきたのだが、こいつはいきなりだ。


 どうしてだろう。

 もしかして、勇者村の土に含まれた神性みたいなのが増している?

 ありうる……。


 それでいきなり完成形みたいなのが生まれたのだ。


「造物主よ。私を放置して物思いにふけらないでもらえると」


「あ、悪い悪い。あのな、6。お前に頼みたい仕事は、勇者村のピンチヒッターだ」


「ピンチヒッター……ですか?」


「そうだ。子どもが生まれそうな家とか、誰かが病気になった家とかな。そこの手伝いに行って欲しい」


「なるほど。重要な仕事ですねそれは」


「重要なんだ。今は特にな。我が勇者村はベビーブームが続いていてな……。6の活躍が必要な状況になっている。じゃあ、今回の仕事はここ。フーの家な。色々野菜を作っているからこいつを手伝ってやってくれ」


「了解しました。行ってまいります!」


 6はいい返事をすると、人間みたいなフォームでフーの家まで走って行ってしまった。

 頼むぞ6よ……!


 恐らくピアの子どもが生まれるのが、順調ならあと三ヶ月後。

 それまでは6が助けになってくれるはずだ。

 そして俺が睨むところ……次はアムトとリタ夫妻のところで活躍することになるだろうな。


 まだ全くお腹が大きくなっていないし、つわりも来てないから誰も気づかないが……。

 俺はリタのお腹の中に新しい命が宿ったのを感じ取ったのである。

 なんで分かるようになってるんだ……?


 俺も順調に神様化が進んでいるみたいだな。


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