第474話 北国温泉行

 さて、では……。


 フォールンの本来の権能である温度操作を使ってもらい、温泉を楽しもうではないか。


「では頼む……」


『はっ』


 完全に上下関係みたいになってしまっている。

 フォールン、もっと砕けた感じで接してくれてもいいんだぞ……。


『いやいや、我らが主神となるお方であり、星を守る存在であるあなたに温泉を献上するくらいはやらねば我の気持ちが収まりませぬ……。ではいざ、いざ』


「なんかすまんな。ありがとうな」


『もったいないお言葉。さて、こちらに海辺の温泉を用意しましたが。地熱をちょうどいい感じで活発化させ、地下水を温めましたぞ』


「ありがてえ」


 俺はスパーンと服を脱ぎ、できたてホヤホヤの温泉へ飛び込むのだった。

 うおーっ!

 ちょっと熱いが悪くない。


 我が家の風呂くらいだな。


「絶妙な塩梅だな……」


『お褒めに預かり恐悦至極。この地の民はサウナに入るそうですからな。その温度から逆算し、液体であればこのくらいがちょうどいいだろうというところを、少しぬるめに』


「賢い」


 俺は大変感心した。

 流石、長く悪側の神を勤め上げてきたフォールン。

 苦しめる対象だった人間のことをよく分かっている。


 ちなみにフォールンも小さいサイズになって、俺と一緒に温泉に浸かっている。

 そのタコ足は茹で上がったりしないのか?

 しないんだろうな、神だもんな。


『何かショート様が物言いたげに我の足を見ていますが』


「気にしないでくれ。ところでこの熱さは神的にはどうなんだ?」


『水と変わりませんな。凍てつく海底に永く封じられていた我ですぞ。灼熱も極寒も我にいささかの痛痒を与えることもできません』


「温度変化が権能だもんな。言われてみればそうか!」


『そういうことになります』


 その後、フォールンと雑談などして温泉を堪能した。

 この温度変化の力……どこかで活かせないもんかな。

 いや、下手にあちこちで活用して文明化したらよろしくない。


 急速な文明の発展は衰退もまた招いてしまう気がするからな……。

 人間が自力でフォールンの力を利用できるようになるまで見守ることにしよう。


 うーん、我ながら神視点。


 そして温泉が完成したということで、カトリナを呼びに。

 広いお風呂にはしゃぐマドカだったが、温泉が熱かったので「あちゅい!」と叫んですぐ飛び出してしまった。


 あー。

 まったりと温泉を楽しむカトリナ。

 横で俺はマドカとシーナ用にぬるめにした温泉を作って入ってもらった。


 しかし子どもは温泉でのんびりするのが性に合わないからな……。


「よし、俺が独自に作り上げたこのアヒルちゃんで遊ぶがいい。ダークマターでできているから簡単には壊れないぞ。荒っぽくしてもいいぞ!」


「わーい!」


「んまー!」


 二人でダークマターアヒルちゃんを水に浮かべたり沈めたり、岩場にガンガン叩きつけたりして遊んでいる。

 ははは、どうだ壊れまい。


 こうして温泉を堪能した俺たち。

 勇者村へと帰還する時がやって来た。


 その前に、現地の人々に温泉というものについてレクチャーしておく。


「この土地ではサウナがメインだろうから、なかなかこういう湯量がたっぷりしたところには入るまい」


「は、はい。なんという湯の量だ……! これが火を使わずにいつまでも熱いままでいるとは……」


「うむ。これがフォールンの権能だ。神からの贈り物と思い、活用するがいい。だが……こう野ざらしだと問題だと思わないか?」


「確かに」


 王が頷いた。


「温泉に入れる施設をここに作ることにしましょう。建物の中で休めるようにすれば、湯に入って温まっても簡単には冷めないでしょうから」


「いいないいな。まずは国の民が楽しめるように設備を整えてだな。余裕が出てきたら外の民を受け入れるようにして外貨を稼ぐのだ……」


「そ、その手が……!!」


「何もない北国に、人が来る意味ができる。人が集まれば、物も集まる。この土地で採れるものだけで養える人数なんてことを考えなくて良くなるぞ。そこを目指して頑張ってくれ」


「は、はい!! 我が国を栄えさせてみせます!!」


 王が燃えている!

 いいぞいいぞ。

 俺は北の王国のより一層の発展をお祈りしつつ、勇者村に戻ることにしたのだった。


「素朴でいいところだったねえ。勇者村の最初の頃を思い出しちゃった」


 カトリナがしみじみしている。

 そうだなあ。

 勇者村も最初はなんにもなかったもんなあ。


 それがじわじわ進歩して今のような形に……。

 俺の助力はあったものの、割と村の力でできる範囲で発展してきた。

 今はとりあえずこんなもんだろうという辺りで、落ち着いてきたところだ。


 次の発展は、今のベビーブームで育った子どもたちが育ってからのことになるだろう。


「つまり、次の勇者村の発展はマドカに掛かっているんだぞ」


「んおー? はてんー? なんそれー」


「まだマドカには難しいな」


 首を傾げるマドカ。

 すぐ横でシーナが真似をして、首をかくんと傾けるのだ。

 うーん、うちの子は宇宙一可愛いな。


「ショートは本当に二人に甘いわねえ」


 甘やかせるのは今のうちだけだからな……。

 子どもはなんか、すぐ大人になってしまいそうな気がする……。


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