第433話 やって来たカッパ

 ヒノモト土産の漬物を村人全員に配り、じゃあ食べようかという話になったので、みんなで食堂に集まったのである。

 ここでパンに載せたり米に載せたり、コーリャンのおかゆに入れたりして食う。

 美味い。


 複数の料理を同時に調理できるよう、パワーアップした勇者村の台所である。

 どんな種族の郷土料理でも作ってのけるぞ!


 みんなで美味い美味いと漬物を食っていると、クロロックがトコトコとやって来た。


「おやクロロックどうしたんだ」


「ああショートさん。コルセンターを通じて、カッパの里とやり取りをしていたのですが」


「おお、そう言えばカッパはクロロックに任せきりだった」


「九千坊氏が遊びに来たんですよ」


「マジか! フットワーク軽いなあ!」


 クロロックは大きな葉っぱを日傘にして歩いてくるのだが、その後ろを、やはり葉っぱの日傘を持った威厳あるカッパが歩いてくるではないか。


「やあやあ! やって来たぞショート殿。こりゃあ、ずいぶん暑いところじゃなあ……。まるで夏じゃわい」


「常夏だぞ。梅雨と真夏だけを交互に繰り返す場所だ」


「なんと!? そりゃあ、わしらカッパは干上がってしまうわい! いや、梅雨の時期に来たら極楽か!」


「おう。乾季と雨季ってのがあってな。雨季はカッパの天国かもな! うちは両生種の爬虫人がいるんだが、そいつらも雨季はあちこち練り歩いてる。乾季は川の周りにいるなあ。そこにいると暑いだろ。こっち来い来い」


 九千坊を食堂に招き入れる。

 うちの食堂は、柱が何本も立っている上に屋根だけが載っている構造だ。

 床はちょっと盛り上がった石畳で、水が来ないようにしている。


 ペタペタ上がってきた九千坊が、ほどよく冷えた石畳で「ほうー」とため息をついた。


「ホッとするのう」


 そこへ、ちびっこたちがわいわい集まってくる。

 バインはのしのし来て、むっと九千坊を見上げた。


「ん!」


「おお! お主、鬼と牛鬼の子か!! ほんに人ではないものが人の中に混じって当たり前に暮らしておるのじゃなあ!」


「そもそもカエルのクロロックがうちで一番の知恵者だぞ。うちにそういう偏見は一切ない……」


「うむ。勇者であるショート殿なら、おなごなどよりどりみどりであろう。じゃが、お主は鬼の嫁を選んだ。そんなお主が作り上げた里ならば、さもありなん」


 うんうん頷く九千坊。

 バインが何か差し出してきたので、それを受け取った。

 これは、子どものオヤツであるチーズだ。


 九千坊はこれを眺めて、「乳腐かのう? 丸くコロコロとかためてある。どーれ」と口に放り込んだ。


「おほー! こりゃあ濃厚じゃな! 美味い! ありがとうな、坊!」


 バインの頭をナデナデした。

 バインはむふーっと鼻息を荒くし、のしのしと帰っていった。

 彼を迎えたちびっこ軍団が、わあわあきゃあきゃあ言っている。


 これは、ちびたちが九千坊に色々おかずをあげるイベントが発生したな。

 九千坊も、子どもは大好きらしい。

 わーっとやってきたちびっこ軍団に囲まれ、ニコニコしている。


「子どもが明るいのう! こりゃあいい村じゃ!」


「そうだろうそうだろう」


「お主、本当に理想郷を作っておったんじゃなあ……。こりゃあとんでもないことじゃあ……」


 勇者村が誇る多様性を前に、感嘆する九千坊。

 だが、彼の度肝を抜く展開はこれからなのだった。


『おっと、お食事中でしたか』


『我々』

『ガンロックスさんに』

『食事を持っていくためにやって来たのです……私だけ喋る量が多くありませんか? なんで1は我々しか言ってないんですか』


 おお、二等兵とゴーレムたちがやって来た。

 ゴーレム3がゴーレム1にツッコミを入れているな。

 4と5は肥溜めで働いているから、本来分割されるはずの言葉は3にしわ寄せが行くのである。


 わあわあ言いながら争い始めるゴーレム1と3。

 こいつら、ゴーレムのくせに最近まあまあ血の気が多い気がする。


「待て待て。今度はな、3から逆に話すというのはどうだ。それで行こう、な」


『村長がそう』

『仰るのでしたら』

『。』


 今度は1にセリフを残さなかったな!?


『ゴーレムさんたちは仕方ありませんな。どれ、私が食事を持っていきましょう。上に載せて下さい。そして私は大きな凸凹が苦手です。さあゴーレムさんたち、私を持っていってください』


 ゴーレム三人に担ぎ上げられる二等兵。

 喋るお盆じゃん。


 わっせわっせと運ばれていってしまった。

 これを、九千坊がポカーンとして見ている。


「ほわー……。なんじゃあれ。命が無いものが喋っとったぞ」


「そうだな、ヒノモト風に言うなら付喪神みたいなものでな」


「それは……彼岸の世界である概念じゃな。ヒノモトには無い」


「あ、そうか。というか、九千坊、あんたが言う彼岸ってあれだろ。日本だろ?」


「おう、そうじゃ! カッパの里は、ヒノモトと彼岸の世界を繋いでおる」


 思わぬところに、世界をつなぐ場所があったな!


「まあ、うちはこういう感じで、あらゆる種族だけでなく無生物も分け隔てなく仲良く暮らしているんだ」


「わはは! とんでもないところじゃのう! こりゃあ凄い! 他のカッパどもも連れてきたくなったわい!」


「おう、来るがいい。食い物は大量にあるしな。だが、そっちからも色々持ってきてくれ。物々交換しよう」


「おうおう、いいぞいいぞ! わはははは! こりゃあ楽しみになって来たわい!」


 ご機嫌に笑う九千坊。

 彼の前に、ブルストが現れた。

 そして、自ら作った酒をドンッと置く。


「それじゃあお客人。ご機嫌ついでにうちで作った酒を一献どうだい?」


「いただこうかい!」


 こうして、カッパを迎える会が酒飲みタイムへと突入していくのだ。



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