第429話 挑んでこい! カッパずもう!
「よし来い」
俺は諸肌を脱ぎ、ズボンだけになってどっしり構えた。
「俺は魔法を使わない。力も人間サイズに抑えて行くぞ」
「おいおい、幾ら勇者様だからって、舐められちゃ困るぜ。こちらカッパだ。相撲は何千年も前から取ってるんだ!」
この世界の相撲、俺が知ってる相撲と一緒なんだろうか?
まあいい。
俺はこういう威勢のいい男が大好きだ。
「おう、舐めずにやってやる。俺の元いた世界も、相撲を千年以上取っててな!」
「そいつぁ面白え! いいぜいいぜ! お互い、最高の相撲ができそうだ!」
行事役のカッパが土俵にザバーンと上がってきた。
そして、俺たちの間に立つ。
「青龍の方角! 勇者、ショート!!」
俺の名を呼ぶ。
すると、カッパとうちの家族がうわーっと盛り上がった。
マドカは、きゅうりに味噌を付けたやつをカッパからもらい、ご機嫌でもきゅもきゅ食べている。
お父さんはマドカの声援がほしいなー。
チラッチラッと見ていたら、マドカと目が合った。
ハッとするマドカ。
「おとたーん!! がんばえー!!」
「よっしゃあー!!」
俺は塩をむんずと掴むと、土俵に撒いた。
うおおーっと盛り上がるカッパたち。
カトリナもなんか、手を叩いて喜んでいる。あれ? お酒飲んでる?
「白虎の方角! カッパのヨヘイ!」
「ふん!!」
ヨヘイと呼ばれた小柄なカッパは、両手を上げてアピール。
なんというか、日本の相撲よりもずっとラフで、娯楽なんだなこれは。
カッパたちからやんややんやと歓声が上がる。
「見せてやれヨヘイ!」
「世界を救った勇者がどれほどのもんだ!」
「いや、よく考えたらめちゃくちゃ分が悪いな!?」
「でもなんとかやっちまえ!」
「カッパ魂ー!!」
「任せろーっ!! うおおおーっ!!」
行司担当のカッパが、手にした木の枝を構えた。
「では両者、見合って見合って……。はっけよぉい……のこった!!」
その言葉とともに、ヨヘイが凄まじい速度で突っ込んできた。
遊びの一切ない相撲だ。
俺のまわし……ズボンをガッツリ掴んで、力任せに吊り上げようと……。
「!? う……動かねえ!!」
「気付かなかったようだな。俺の手が、既にお前のまわしをキャッチしている!!」
「なにぃっ!?」
こうなれば力比べである。
力が、そして技が物を言う。
だが!
しかし!
そのどちらも、俺の方が上だ!!
俺はちびの頃、ちびっこ相撲大会に出て決勝まで出たことがあってな。
バカでかいやつに負けてしまったが、土俵際で三十秒粘った。
そう、俺の中には相撲魂が眠っているのだ。
「ツアーッ!!」
「ぬわーっ!!」
ヨヘイの足が持ち上がる。
やつの踏ん張りごと持ち上げた俺は、そのまま土俵の外へと放り投げたのである。
「ウグワーッ!!」
土俵の外は、養老の淵。
ザブーンと沈んだヨヘイが、すぐに上がってきた。
「つえーっ!! 正面から力で負けて! まわしの取り合いで技でも負けた!!」
カーっと喉を鳴らし、ヨヘイはプカっと浮かんだ。
「勇者、ショートーっ!!」
カッパとうちの家族たちが、うわーっと盛り上がった。
これで、完全に俺たちとカッパは打ち解けたのである。
百言を弄するよりも、一番取った方が分かりあえる。
それがカッパなのだ。
その後、テンションが上ったカッパが次々挑んでくるのを、片っ端から押し出し、寄り切った。
全て正面から受け止め、土俵の外までふっ飛ばす!
横綱相撲である。
これが受けた。
とにかく、大受けに受けた。
カッパ、横綱相撲が大好きなのだ。
彼らが目指す、究極こそが横綱相撲なのだろう。
ついには、養老の滝の源流から光り輝くカッパまで現れた。
他のカッパたちが、腰を抜かさんばかりに驚き、「きゅ、九千坊様だあ!!」「九千坊様が復活なされたあ!」とか言っている。
九千坊と言えば、九州の球磨川か筑後川に住んでいて九千匹のカッパを部下に持つというあれか。
「わしがいた世界から来た勇者殿か! カッカッカッカッカ!! 外で魔将どもを相手に相撲を取るのにも飽いてきた頃合いよ!」
光るカッパ、豪快に言いながら土俵に上がってくる。
「魔将と相撲取ってたのか」
「おうさ! 転がしてやったわ! 魔王尊めもわしを恐れて、此方まではやって来なんだ! だが、魔王マドレノースめを相撲で転がしたところで、奴めに封じられて石にされてなあ!」
「おっ! マドレノースより相撲強いのか! じゃああんたは、世界最強の相撲取りかも知れんな。やるか!」
「やるぞ!」
「青龍の方角! 九千坊!! 白虎の方角! 勇者ショート!」
青龍の方角は、格上を現すようだ。
つまり、九千坊は相撲なら俺より上か!
これは面白い。
「はっけよぉい……!! のこったぁっ!!」
俺が飛び出す。
九千坊が飛び出す。
頭と頭がぶつかった。
衝撃波が広がる。
養老の淵に溜まった酒が、衝撃でまとめて空に吹き上がった。
それが、酒の雨になって降り注ぐ。
そんな中で、九千坊が猛烈な勢いでまわしを取りに来る。
なんの! 俺も九千坊のまわしに手を伸ばし……うおっ、切られた!
はげしいまわしの取り合いだ。
だが、俺の手は九千坊の技の前に阻まれる!
まわしが……遠い! まるで宇宙だ……!!
俺は無駄口を叩く余裕など無い。
どうにかして、まわしを……。
その瞬間、九千坊の片手が俺の腰に掛かる。
しまった、まわしを……!
「そおりゃ!!」
俺の視界が一回転した。
恐ろしく切れる上手投げ。
それが、俺を土俵の外までふっとばしたのである。
「うわーっ!! 負けたー!!」
俺、久方ぶりの敗北だ。
これは悔しい!
九千坊、汗びっしょりになりながらカラカラと笑った。
「いやあ、強かった! 勇者というのはおっそろしいのう! 一瞬、気がわしのまわしに向いたところに差し込まなければ、わしが投げられておったわ! 押し出すどころじゃないわい!」
「よく言うよ、化け物みたいに相撲が強いカッパだぜ」
九千坊と笑い合いながら、岸に戻るのである。
もちろん、カッパたちとは完全に打ち解けたのだった。
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