第356話 黄金帝国の新たなる旅立ち

 宇宙船村の志願者たちを連れて、黄金帝国にやって来た。

 石造りの伝統ある建物を見て、若者たちが「おー」と感嘆している。


 帝国の文化は、ハジメーノ王国のそれとは明らかに違っているものな。

 インカ帝国的と言うか、なんというか。


 帝国の人々は、新しくやって来た若者たちに戸惑っていたようである。

 だが、彼らがどういう存在なのかを皇帝が告げると、すぐに戸惑いは笑顔に変わった。


「帝国にようこそ、外の世界の人!」


「色々なことを教えてほしい!」


 若者たちも帝国人も、すぐに打ち解けていった。

 皇帝のお墨付きがあるので、これなら安心できると思ったのだろう。

 こういう時に権威は強いな。


 これは安心だろうと思ったので、俺は帰ることにする。


「では、これでな」


「神様、何もかもありがとうございます」


「困っている人を見たら放っておけないだけだ。これで帝国もどうにかなるといいな!」


「はい。せめてこちらで宴を用意しますので、楽しんでいかれては」


「夕方まで家を空けたので、そろそろ奥さんと娘が恋しい……」


「なるほど」


 皇帝が理解した顔になった。

 そういうことで、帰宅する俺である。


「おとたん、どーいってたのー」


 駆け寄ってきたマドカが、抱っこをせがみながら聞いてくる。


「ちょっとなー。森の中なー」


「もり? まれま? ぽらぽ?」


「フォレストマンの人たちがいるところよりもずーっと奥だなあ」


「おー」


 多分分かってないと思うんだが、マドカが納得の表情をする。

 いや、これはもしや分かっているのではないか……。

 子どもの理解力を甘く見てはいけない。


「ショートー! マドカー! ごはーん!」


「ほーい!」


「あーい!」


 今日一日、よく働いた。

 勇者村の食事で疲れを癒やすとしよう。


 それから数日後。

 勇者村に来ていた黄金帝国の人々を、元の国に帰す日になった。

 様々な技術や種芋を手にした帝国人たちは、ほくほく顔である。


「必ずや、この種芋を黄金帝国に芽吹かせて見せましょう!」


「がんばってくれ!」


 俺は彼らと握手して回る。

 そして、彼らを連れてまたダンガンバビュンで飛び上がるのである。

 今回はブレインもついてきたので、ダンガンバビュンの移動速度が二倍になった。


 この魔法、三人なら四倍、四人いれば十六倍の速度になるのである。

 元勇者パーティ勢揃いでセントラル帝国を救いに行った時が、この魔法の完全体だな。


 今回は午前中に出発し、昼過ぎに到着した。

 なお、移動中のトイレとかは魔法の結界からお尻とか出してやってもらうことにしている。

 短い時間で到着できるということは、こういうトイレ作業をあまりしなくていいということでもあるのだ。


 空から見下ろした帝国では、見覚えのあるものを作っていた。

 カヌーだ。


 そうか、船はまず、カヌーから作ることにしたんだなあ。

 降り立ち、カヌー作りを見学してみた。


 中心となっているのは、元々船大工見習いだったという宇宙船村の若者。

 彼が木をばりばりくり抜いていく。

 横では見様見真似で、黄金帝国の人々が木をくり抜いている。


「木は軽いから水に浮くもんな」


「あ、勇者様!」


「神様!」


 若者と帝国人が同時に声をあげて、「神様?」「勇者様?」と首をかしげあった。


「いいからいいから。時と場所によって、人の呼び名は変わるだろう。君らにはそう呼ばれている俺も、家に帰るとお父さんなのだ……」


 これでみんな納得した。


「神様の子ども今度連れてきてくださいよ。さぞかわいいんでしょうね」


「分かってしまうか……。宇宙一かわいいぞ……」


「神様宇宙って概念知ってるんですね!? さすが博識だなあ……」


「黄金帝国には宇宙の概念があるの!? すげえなあ」


 俺と同じく見物している帝国人のおっさんとお喋りしていたら、意外な事実を発見である。

 千年間くらい閉ざされていた黄金帝国は、内部で学問とかを発達させていったらしい。

 とにかく限られた空間でできる娯楽が無くてはならない。


 その一つが学問だった。

 ずっと空を見上げ続けていたやつがいて、こいつが地動説を発見。

 宇宙というもののは、神が空に貼り付けた黒い布ではなく、広大な空間であると想定したのだ。


 この説はとても刺激的だったため、娯楽に飢えていた帝国人たちに受け入れられ、瞬く間に広がった。


「何を隠そう、俺は宇宙にいけるのだ。帝国がもうちょっと発展したら連れて行ってあげる」


「本当ですか! さすが神様だなあ」


 おっさんは感激していた。

 後で聞いたんだが、このおっさんは帝国の学者だったらしい。

 その名をチョコバットと言う。


 美味しそうな名前だな。

 チョコバットと学問の論議……という名の趣味のお喋りをしていたら、カヌーが完成したようである。


「この辺りの樹木、油を含んでるから浮力が高いですね。簡単に浮きますよ」


 若者がそう言うので、どれどれと海まで持っていくことになった。

 みんなでワイワイ運ぶと、海が見えてくる。


 ここで水の上にカヌーを……。


「浮かんだ!」


 わーっと帝国の人々が沸いた。


「のりこめー!」

 

 若者と、帝国人の若者が乗り込んだ。

 宇宙船村の若者がオールをぐりぐり回すと、カヌーが進み始めた。


「そっちでもオールを使ってくれ! 俺の真似して!」


「は、はい!」


 船がちびちびと、やがて、潮に乗ってぐいぐいと進みだした。

 帝国側から歓声が上がった。

 帝国は、海を進むための手段を手に入れたのである。


 カヌーがやがて、大きなボートになり、外海に繰り出す船になっていくことだろう。

 帝国の新たな旅立ち、その一歩目である。


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