第254話 祭りの終わり

『おおおお、力がどんどこ湧いて来ます! やはり祭りは素晴らしいいいい!』


『うむ、失われていた神らの神格が、一時的にであろうが戻ってくるのを感じる。祭りを世界に取り戻さねばならない』


 ユイーツ神に鍛冶神もテンションが上がっている。

 彼らが放つ輝きは確かに強くなっており、きっと魔王大戦が始まる前は、こうだったのだろうという神々しさを纏っていた。


 お祭りは、人も喜び、神も喜び、いい事づくしだな!

 俺は満足しながら、太鼓を叩き続けた。

 ちなみに足元で、マドカが真似して太鼓を手のひらでぺちんぺちんしていたのである。


 恐らく、時間にすると十五分くらいだったと思う。

 俺の太鼓が終わると、芸人たちも客も、みんなへなへなと地面に崩れ落ちた。

 体力を使い切ったのだ。


 しかしみんな、いい汗をかき、実に楽しそうに笑っている。


「お楽しみいただけただろうか!」


 俺は大声を張り上げた。

 拡声魔法も用いているから、村中に声が響き渡る。

 マドカがビクッとした。


 ごめんな!


「これが迎肉祭! 勇者村の神事である、神聖にして季節の変わり目を告げる楽しい祭りだ!」


 みんな俺に注目している。

 よく俺を見ろ。

 そして俺の声を聞け。


「魔王マドレノースが倒されてから、世界は失っていた日常を取り戻そうとしている! 壊されてしまったもの、失ってしまったものを立て直す、あるいは再び手に入れようとすることで必死かも知れない! だが! お前たちの暮らす場所で、今祭りがなくなっているなら! 我が村の祭りを持ち帰って欲しい! そしてお前たちのための祭りを開いて欲しい!」


 ここまで告げてから、あっ、祭りの様子は世界中に中継しとけばよかったな、と気付く。

 だが、過ぎてしまったものは仕方ない。


 勇者村の迎肉祭がいかに凄いもので、そして楽しかったか。

 ここにやって来た者たちが自分の土地に持ち帰り、そして広めてもらえばいい。


 少しずつ、ゆっくりと、ワールディアに祭りが戻っていくのだ。


「以上、終わり! みんな、夜も楽しんでいってくれよな!」


 俺が祭壇から降りると、わーっと拍手が巻き起こった。


「いいぞ、勇者ショートー!」


「村長かっこいー!」


「ちょーとー!」

 

 ビンが混じってたな。

 その後、屋台総出で料理を作って、作り置きとして大量に並べ、好きなだけ取って食えるようになった。

 そしてあるだけの酒が並べられ、好きなだけ掬って飲めるように。


 そう、ここからは、作っていた奴も一緒になって楽しむ時間だ。

 村のあちこちに篝火が焚かれ、煌々と夜闇を照らし出す。


 勇者村の夜は終わらない。

 一人残らず酔いつぶれて寝てしまうまで、楽しい宴が続くのだ。


 向こうでは、旅芸人に笛を教わっているのがいる。

 フックとアキムとアムトではないか。


「俺らもさ、出店以外で祭りに加わりたくてさ。あの笛とか太鼓とか、すげえかっこよかったじゃないすか」


 フックが目をきらきらさせている。

 アキムはうんうんと頷き、


「砂漠の民の祭りは、もっとこう、楽器が難しくてさ。俺はできなかったんだよね。だけど笛か太鼓ならどうにか行けそうだから……」


「俺、かっこよく笛吹きたい!」


 三者三様だが、自ら率先して祭りに加わってくれるのはありがたい。


「よーし、収穫祭では期待してるぞ!」


「おう!」


 三人から頼もしい返事が返ってきた。

 戻ってくると、カトリナの膝の上でマドカが目をぱちくりさせている。


「なんだ、マドカまだ寝てないのか」


「ねうくない!」


「ショートー。マドカをたっぷりお昼寝させちゃったでしょー」


「させてしまった」


 お祭りでお腹いっぱいになったマドカは、夕方近くまで寝ていたのだった!

 カトリナが抗議してくる。


「私は眠いんですう! いっぱいお料理作ったんだからね? そしてお酒で……ほわほわほわ」


 大あくびをした。


「よしよし、カトリナは寝るのだ。マドカは俺が見よう……」


「うん、ごめんね、お願い……」


 そう言うと、カトリナはバターンと背中を倒して寝てしまった。

 よっぽど疲れていたらしい。 

 それが、たくさん料理を食べて満腹になり、ついに睡魔に勝てなくなったというわけだ。


「よーしマドカ。眠くなるまでお父さんと一緒だなー」


「おとたんと! あ、じーじ! ばーば! みおい!」


「なにっ」


 振り返るとうちの実家の家族。

 父はすっかり酒でぐでんぐでんだ。

 愛娘が結婚します宣言だからなあ。そりゃなあ。


「前々から知らされてたんだけどねー」


 母は平然としたものである。

 海乃莉は未成年なので、お酒はいかん。

 あと来年は飲めるな。


「俺的には大変なサプライズだったわけですが」


「ごめんね! でもね、こういう晴れ舞台で発表したくて! パワースはこっちだと有名人なんでしょ? それに農協の人たちもいたし、ちょうどいいかなーって」


 まさかパワース、それを狙って……!?

 なんて頭が回る男だ。

 俺は感嘆した。


「ここで撤回なんてしたら、海乃莉に恥をかかせちゃうしな。俺は認めるぞ……! 幸せになるのだ……。でも早すぎない……?」


「ショートくんだってカトリナさんと結婚した時、カトリナさん幾つよ」


「地球とこっちだと成人年齢が違いますので……」


 今でもカトリナは海乃莉よりも年下ですね!!

 何も言えなくなった。


 その後、話題はマドカがいかに可愛いかという話になり、海乃莉も「私も子ども欲しい!」とか言ったので、両親が相好を崩して次なる孫について語り合い始めた。


「うちも負けないぞ。マドカの弟か妹を作る」


 どよめく両親。


「こんな幸福があろうか」


「あー、生きてて良かったわー」


 両親二人で、お酒をかぱかぱやり始めた。

 さぞや酒が美味かろう。


 こうして勇者村の夜は更け、日が昇ってくる頃合い。

 マドカは随分前に爆睡しており、俺の腹に頭を預けて、ぷうぷうと寝息を立てている。


 海乃莉も両親もその場で転がって熟睡。

 俺ばかりが、ゆっくりと上ってくる太陽を見ているのだ。


 うーむ、これにて祭りは終わりだ。

 いやあ、いい祭りだったなあ……。



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