第102話 お米商人来たる!
大変なイベント目白押しの勇者村であるが、日常的な作業もせねばならない。
むしろ、そっちがメインとも言えるだろう。
ある日のこと。
手前村から大変な情報がもたらされた。
『はるか東方より、お米商人がやって来た』
これは大変な情報である。
俺は早速、手前村に向かうことにした。
こういった買付や仕入れは、お金が必要な場合、俺の資産を使うことになっている。
これは王国に預けてあって、エンサーツが運用しているな。
買付見習いとして、フォスを連れて行く。
「フォス! 行くぞ!」
「はい!」
二人でシュンッを使い、一瞬で手前村へ。
「あっという間に到着してしまいました……!!」
「うむ。米は生物。どんどん食味が落ちるからな。今回はお試しでお米を仕入れると同時に、米の苗の産地を聞くことが目的だ」
「産地を……?」
「ああ。うちの村で米を育てるんだ」
「お米……。あれに、ショートさんがそこまで執着する理由は一体……!?」
「うむ。俺は地球の日本という世界から召喚されたんだが、そこの住人はメインで米を食う」
「お米を……。あれって野菜じゃないんですか」
「野菜ではない。主食だ。この世界の麦や芋と一緒だな」
「へえー!」
フォスが好奇心で目をキラキラさせている。
こういう正直なところは彼の魅力だな。
ブレインやクロロックやカタローグに近い学者タイプではあるのだが、まだまだ未熟ゆえ、色々な人の弟子みたいなポジションに落ち着いている。
最近では、パワースが武器の扱い方を教えているらしいではないか。
人に可愛がられる才能を持っているのかも知れない。
今も、俺の話をメモしている。
「それじゃあ、ショートさん。お米を仕入れて、村の主食にしようと思っているんですか?」
「ああ。だが、みんな慣れていないものを食うとビックリするし、ストレスを感じるかもしれない。少しずつ慣らしていく。そのために、まずはお米そのものを買うんだ」
「なるほど!」
フォスに話していると気持ちがいいな!
いちいち相槌を打ってくれるし感心してくれる。
可愛いやつめ!
手前村は今日も活気に満ちている。
元々、ハジメーノ王国と南部の国々を結ぶ中継地点にある村なのだ。
勇者饅頭とか言う銘菓を売り出して、これもバカ当たりしてるらしい。
景気がいいことだ。
「よう、米商人が来てると聞いたんだが」
俺が取引所に顔を出すと、そこの顔役になっているおばちゃんがハッとした。
「ゆ、勇者様!! ようこそー!!」
「なんだって、勇者様だって!?」
「勇者様がいらっしゃったぞー!!」
いかん!
おばちゃんのでっかい声によって、この辺りの人間がみんな集まってきた!
「うおお! ショートさん、凄い求心力ですね!!」
「うむ……。こいつら、俺の名声で食っていっているからな。かつて俺が村ごと焼き尽くそうとしたことを忘れているんじゃないか」
「焼き尽く……?」
「なんでもないぞ」
いかんいかん。
いたいけな若者にいらぬ知識を与えるところだった。
今の俺は父親にもなり、すっかり落ち着いている。
失礼なことを言った貴族を、三日三晩悪夢に閉じ込めて白髪にしたりなんか……あまりしないぞ。
「落ち着け、皆の衆!!」
俺は両手を広げ、声を張り上げた。
みんなそこそこ静かになった。
「お米を買いに来ました」
「米……?」
「南東の国から来た商人がいただろ」
「ああ、あいつか」
「俺、勇者村に連絡送ったんですよ。勇者様から米の話が出たら教えてくれって言われてたんで」
市場の若者が手を振っている。
「おお、君か連絡をくれたのは! こっち来い、こっち。よーしよし、よく連絡くれたな。これ、俺が海の国で買って来た干物。ぜひ食ってくれ」
「あざっす!!」
「これからも頼むぞ……」
「うっす!」
持つべきものは連絡員である。
そしてすぐに、俺たちは米商人のところまで案内された。
浅黒い肌をした、ニコニコした男がいる。
ちょっとフックに似てるな?
「お米欲しいですか!」
「お米欲しいです!」
米商人と、一瞬で分かり合う俺。
互いに満面の笑みで、がっちりと握手を交わした。
「商品を見せてもらおうじゃない」
「これですよー」
それは、まだ籾殻に覆われたお米である。
脱穀すると、その瞬間から品が悪くなっていくからね。
俺は万感の思いを込めて、米を手のひらに転がしてみる。
「……おや? 細長くない?」
「お米、細長いの普通ねー」
「長粒種か。あー、でも、パラパラっとした米は麦に近いかもしれないな。いけるな!」
俺は決断した。
「くれ!!」
「ありがとうございますよー!」
「……ところで……米の苗とか手に入ったりしない?」
「苗? それはこっちまで運んでこれないねー」
「そうかそうか。あんたの住んでるところ行けば手に入る?」
「うんうん。買えるよー。ただ、通貨が違うねー」
「そこはなんとでもする。あとな、もっとこう、短くて粘っこい米を知らないか」
「短いお米知ってるよー! あのねえ、もっと東の方の国で作ってるんですよー」
「ほうほう……。そっちにもつてを作っておかねばならんな」
「ショートさん……お米を作るためにそこまで壮大な計画を……!」
フォスが驚きに目を見開いている。
「無論だ。米作りは、勇者村が目指す一つの到達点なのだ」
あそこは南国だし、米作りには気候的に合ってるからな。
むしろ麦を作るほうが向いてないかもしれない、まである。
俺はその場にある限りの長粒種の米を買い付けた。
魚の干物も山程あるから、パエリアと洒落込むのもいいな。
しかし、ここでタイカレーを作るのもいい。
グフフフフ……野望が広がっていく。
「そう言えば、フォス。米を野菜って言ってたが、この長い米のこと?」
「ああ、はい、そうです! お城でもたまに食べられるんですよ、お米のサラダ」
「米サラダかあ」
米の可能性は無限大だな。
かくして、希望を胸に、俺は帰還するのであった。
ちなみに。
フォスを背負ってゆったり空を遊覧飛行しながら帰ったのだが。
「で、フォス、ヒロイナとは最近どうなんだね」
「あー、その、あの……。ヒロイナ様はちょこちょこボディタッチしてくるんですが、僕、そこでなんかムラムラしちゃったりして、うう……あの英雄ヒロイナ様相手に欲情するなんて、僕は……僕はダメなやつです」
「あー。君みたいな少年、ヒロイナは好きそうだなあ……」
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