第77話 図書館出来!
仮完成だが、図書館らしきものができた。
太い板で囲んで、屋根を乗っけただけだ。
それでも、備え付けの本棚はなかなかのものである。
雨季でちょうど仕事がなくなった、俺、ブルスト、ブレイン、フック、クロロックの5人が集まり、わいわいと作業を行ったのである。
本棚には、魔本がピシッと収まっている。
既にこれだけで、濃厚な魔力を発しており、図書館の構造を強固にしていっているのが分かる。
『うひょお、新鮮な空気じゃあ』
『こりゃあ気を抜いていたら劣化しちまうね。気合が入るよ!』
『新品の本棚もいいもんだなあ』
魔本がワイワイ騒いでいる。
ずっと、魔道士ヨーゼフの地下書庫にいた彼らだ。
半開放式の図書館は新鮮で楽しいらしい。
「いやあ、素晴らしいです。私は今日からここで寝泊まりできるのですね。魔本の皆さん、よろしくお願いします」
『おうおう、お主がわしらの管理者か』
『よろしく頼むぞー』
ブレインと魔本との関係も良好なようだな。
賢者であるブレインなら、魔本の扱いも心得ているだろうし、負けないだけの魔力を持っているし。
完璧である。
ブレインがいそいそと、寝袋を持ち込んできた。
そうかー。
図書館の床で寝袋で寝るのかー。
今度ベッドも作ってやるからな……。
図書館ができたということで、翌日は村人全員が集まってきた。
まあ全員と言っても、昨日いた、俺とブルストとブレインとフックとクロロックの他は、カトリナとヒロイナとミ―とリタとピアとパメラと赤ちゃんのビンだけだ。
むむっ、こうして見ると、男女比が近くなってきているな。
最初は男ばかり増えるかと思っていたが。
『ほう、子どももおるのか! よし、わしが自らを朗読してやろう。こっちに来るのじゃ』
「はーい!」
「よろしくお願いしまあす」
リタとピアが座ると、その目の前に魔本が浮かび、ぱかりとページが開く。
物語の魔本のようだな。
自ら、書かれた物語を読み上げるという便利機能だ。
あっ、登場人物の台詞ごとに声色が変わる!!
凄い!!
俺も思わずその場に座り込み、物語一つを語り終えるまで聞き入ってしまった。
これは凄い。
現代日本だったら、オーディオブックみたいなものだ。
魔本、侮れんなあ……。
壁際では、農学の本とクロロックが激論を交わしている。
過去の知識の蓄積が農学の魔本なら、クロロックは最新の知見の結晶である。
「なるほど、そのような知識もあるのですね。今ではすっかり見られなくなってしまいましたが」
『ふむむ、さらに知識が検証されたのだね。ちょっと明日にでも実証して見せてくれ。僕のページを追加しておきたい』
魔本って自ら、後からページを追加できるのか!
回収してきた魔本の一部は、こういう
うちの村人が一気に何千人も増えたような気分だ。
もっとも、表に出しているのは穏健な魔本だけだ。
強烈なのはアイテムボクースに詰め込んでいる。
これも、図書館が増築したら設置していかねばな。
『オーガである貴方と人間である勇者の子どもですか? 人とオーガの混血は今までにもよくありましたが、あの勇者の子どもとなるとどうなるかは全く分かりませんね』
「魔本さんにも分からないんだ」
ほえー、とか言っているカトリナ。
目の前に置いてあるのは、婦人読本の魔本のようだ。
ヨーゼフ、お前何でもかんでも集めてたんだなあ。
『一番近いのは、神と人との間に生まれた神の子というものですね。この村にはそれに近い子どもが一人いるようですが』
「ビンだな」
「きゃっ、ショートいつの間に」
「おお、悪い悪い。びっくりさせてしまった。どれどれ、ビンを調べてみるか。フック、ミー、ビンを貸してくれ」
夫妻から、ビンを借り受ける。
というか、呼んだらビンが自分からやって来た。
「あぶー!」
「よう、ビン! 今日もぷくぷくしたほっぺだなあ」
抱き上げて膝の上に載せて、婦人読本に見せた。
『少し毛色の違うタイプの子どもですね。生まれそのものは凡庸ですが、誕生の瞬間に強い神格を持った存在が手を貸したことで、神に関わる運命を得たようです』
「だとさ。ビン、お前は凄いなあ」
「ばうー」
「あー、ビンちゃん、指を全部いっぺんにしゃぶったらだめだよー」
『やがて成長した時、この子は人類の導き手として新しい歴史を紡ぐことになるでしょう。過去に生まれた神の子にもそういうパターンがあります』
「婦人読本がカバーしてる範囲広いなあ!」
俺は感心してしまった。
しかし、ビンはともかく、俺とカトリナの子どもが神の子とか意味が分からんぞ。
「うちの子はそこまで凄いことにはならんのでは?」
『もっと凄いことになります。ここから先は私の力では予測もできません。歴史読本と宇宙への考察を呼びたいので、収納魔法を展開して下さい』
「専門分野の魔本がいるんだな……。よし、出てこい」
『うむ、娑婆の空気は美味いのう!』
『僕はじめっとした暗がりの中でも良かったんだがね……』
濃いのが出てきた。
この二冊と、婦人読本で、わいわいと論を戦わせている。
彼らの有り様を、魔本たちのまとめ役らしい、魔本目録が解説してくれた。
『我々は、地下書庫にて半分死んだような状態だったのです。訪れる人はなく、故に変化もなく。ただいたずらに、我らの魔力で維持されるだけの地下書庫で、永遠の時を過ごす。いつしか我々は考える事をやめて、ただの本のように黙り込んでいました。それが新しい風を受け、こうして千年分のお喋りをしている。喜ばしいことです。ありがとうございます、ショート様』
「いやいや。図書館の本で、傷まない本が無いかな―って探してただけなんだよ」
『それでもです。今後、魔本のご用命は、ワタクシ、魔本目録にお伝えくださいませ。目的に最適な魔本をご紹介致しましょう。ああ、そうそう』
魔本目録はそう言うと、ドロンと音を立てた。
なんてクラシックな音だ。
煙が上がり、その中から燕尾服にシルクハット、片眼鏡の紳士が姿を現す。
「ショート様のお助けをするために、ワタクシはこの姿で村にお邪魔することに致しましょう。今後、ワタクシはカタローグとお呼び下さい」
どさくさに紛れて、新しい住人が増えたぞ……!
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