12-2

「そ、そうだわ。フォシア、お庭ばかりというのもつまらないでしょうから、部屋でカードでもしましょうよ」


 ふいにそう言われて、フォシアは少し意表を衝かれた。


「カード、ですか?」

「そ、そうなの。先日、教えてもらったばかりで……できれば、少人数でやりたいの。まだ不慣れで……フォシアさんが練習相手になってくれたら、嬉しいわ」


 相手は気恥ずかしそうに目を伏せていった。

 フォシアは少し考えた。


(……だから、なのかしら)


 先ほどから、相手がやけに落ち着かない様子であったのは。何か他のことに気を取られているようなのに、話を続けようとしていた。


 フォシアは、ルキアのほうを振り返った。他の令嬢と雑談しているようだった。

 ここには年の近しい令嬢しかいない上、ある程度見知った人間ばかりだから、ルキアを傷つけるような人物はいないはずだ。


 フォシアは目を戻した。


「私、カードはあまり得意ではありませんけれど……それでもよろしければ」

「と、得意でないほうがいいのよ! さあ、こちらへ……!」


 急いたように言われ、フォシアは面食らった。そんなにカードの練習をしたいという思いに駆られていたのだろうか。


 令嬢について館の中に入り、外の歓談の声を聞きながら空いた一室に案内される。

 いくつかの調度品の他に、テーブルと椅子がある。


「ここで、待っていてくださる? いま、持ってくるから……」


 フォシアは勧められるままに椅子に座った。

 そして急いだ様子で相手が部屋を出て行くのを、わずかな違和感を覚えなが見送った。

 ――なぜ使用人を呼ばず、自分でわざわざ取りに行くのだろう。




 なんとはなしに室内を眺めていると、間もなく扉が開いた。

 フォシアは目を向け、一瞬で頭の中が真っ白になった。


「お久しぶりですね、フォシア嬢」


 そう言って暗い笑みを浮かべたのは、傲岸な小太りの男――アイザックだった。

 捕食者に睨まれた小動物のごとく、フォシアは硬直した。


 アイザックがにやついた笑みを浮かべたまま後ろ手で扉を閉める。という音が、耳を穿つ。


 その音が、にわかにフォシアの正気を引き戻した。次にがたんと大きく響いた物音は、フォシアが立ち上がって椅子が倒れる音だった。


 ――なぜ。


 震える手でとっさに口元を抑えながら、フォシアは壁に向かって後退した。


「なぜ……ここに……っ」

「はは、あなたへの思いで夜も眠れないとここのご令嬢に相談したら、快く恋の天使を引き受けてくれましたよ。こうでもしなければ、あなたは頭の悪い保護者たちに閉じ込められたまま、会えなかったでしょうからねえ」


 アイザックが一歩踏み出す。獲物を前に舌なめずりするような顔は、フォシアの恐怖を呼び覚ました。


 ――どうして。

 どうして、どうして、と頭の中でその悲鳴ばかりが反響した。


 どこか不安げで急いたような、落ち着きを欠いていた相手の態度は、このせいだったのか。


 裏切られた。


 ふいにその答えにたどりつき、フォシアは胸をねじられるような痛みを覚えた。

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