12-1

「グレイか? 少し調べたいことがあると言っていた」


 しばらく来られないとのことだ――ヴィートの口からそう聞かされたとき、フォシアは自分でも不思議なほどに落胆してしまった。


 応接間のソファで、いまグレイの代わりに座っているのはヴィートだった。

 それに向き合うようにして座るフォシアの隣には、ルキアもいた。


 家を連れ出されたあの日から、グレイはあまり訪れなくなった。それを不安に思って聞いたところへの、ヴィートの答えだった。


「状況が悪くなっているわけではないし、あいつがああやって考え込んだり、ふらっといなくなるのはいいことだから、大丈夫だ」

「そう……なの?」


 ヴィートは、手のかかる弟を語るような顔で笑った。


「昔からそうなんだ。考えが浮かぶと、あいつはそれに没頭して、結果が出るまで人に言わないし経過も教えてくれない。周りが見えなくなると言っていた。でもそうなったあと、状況は好転することが多かった」


 だから大丈夫だ、とヴィートはうなずく。

 フォシアの傍らで、ルキアもまた励ますような言葉をかける。

 それにうなずきながら、フォシアはにわかに頬が熱くなるのを感じた。

 ――グレイの姿が見えないことで、エイブラたちへのおそれや不安がかきたてられているのだと、ルキアやヴィートは思っているらしい。


 だがフォシアは、グレイの姿が見えないことが気になっただけだった。

 ただ単純に――少し寂しいというような気持ちだけで。そんな自分が恥ずかしい。


「そうだ、あいつから伝言がある」


 ヴィートが言って、フォシアは慌てて意識を引き戻した。


「あまり閉じこもっているのもよくないから、誰かと一緒に出かけるといいと。ただ、遠くへは行くなということだ」


 フォシアは目を丸くした。それから曖昧に微笑する。


(……なら、ジョーンズさんが連れて行ってくれたらよかったのに)


 半ば無意識に、そんなことを思った。


(いま、何をしているの? 何を考えているの……?)


 頭に思い浮かんだ青年の姿に向かって、言った。考えの読めぬ相手に対しての、怯えの気持ちから来るものではない。

 ただ、相手を知りたかった。グレイがいま何を考えて、どんな行動を起こしているのかを知りたいと思った。




 折良くして、知人の誘いがあったのは数日後のことだった。

 先日も誘ってくれた同年代の令嬢で、そのときは姉とヴィートの話を出されてやや不自然に辞去してしまった負い目からも、フォシアは出かけることを決めた。


 場所も前回と同じ相手の邸だった。

 ルキアが同行者になることを申し出てくれ、フォシアは久々に姉妹で外出した。

 空は穏やかな曇りで、明るすぎず暗すぎることもない。


 馬車を降りて邸に迎え入れられると、開かれた庭へと促された。他にも招かれた顔見知りたちがやってきてにこやかに挨拶をしてくる。

 だがその笑顔が、いつもよりどことなくぎこちないように感じられた。


(……気を悪くさせたかしら)


 フォシアは胸のうちでそっと溜め息をついた。さすがに前回の去り方は礼を欠いていたし、友好的な態度とは言えなかっただろう。自分に非があるというのはわかった。

 それでもこうして声をかけてくれたのだから、前回の償いの機会を与えてくれたのかもしれない。


 言葉にせずとも空気を敏感に感じ取ってか、ルキアがよく言葉をかけ、相手とフォシアの会話の架け橋を作ってくれた。

 フォシアは心の中でルキアに感謝した。自分から話しかけるのが得意ではないことをルキアはよく知っていて、自分も口上手というわけではないのに、気を遣ってくれている。

 その配慮を無駄にしたくないと思い、フォシアは精一杯、ぎこちない雰囲気を修復しようと努めた。

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