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 フォシアは、見た目に恵まれているとと言われ続けてきた。

 蜂蜜色の瞳、白い陶器のような滑らかな肌、明るい金色の髪。薄く美しい色素で彩られた姿形は見る者に明るい陽射しを思わせるようで、“太陽”という単語を使って賞賛される。


 太陽という言葉から連想されるのは、正しさ、善、光、輝き――そういった華やかなものばかりだった。

 ――フォシア自身がどれだけそれに困惑し、厭い、重荷に感じても周りはそれをやめない。


 軽薄に見える金の髪も甘ったるすぎる色の瞳も、血色のない肌も顔の造作も、すべてフォシアが望んだものではない。

 なのに、それらは勝手に周囲の人間に人物像をばらまく。

 太陽のような人、輝ける笑顔、淑やかで理想そのものの令嬢、淑女の模範、社交界の華――。


 目を上げて太陽を見ようとすれば目を焼かれる。人は太陽という強烈な光源を直視できない。なのに、その太陽になぞらえたフォシアには異様な熱をこめた眼差しを向ける。


 あの婚約者だった男も同じだ。ぎらぎらした目で、身勝手な期待と理想の目で自分を見つめる。そして期待と理想が裏切られると勝手に失望し、責めるような目を自分に向けていた。


 知らず、フォシアは胸を抑えた。


「……フォシア、大丈夫か?」


 ヴィートがまた、気遣わしげな声をかけてくる。フォシアはなんとか微笑をつくり、大丈夫、と答えた。


 ――周りの勝手な期待と視線のことを考えると、いつも息苦しくなる。

 だから、考えてはいけない。


 突き刺さるような視線のことをなんとか頭から追い出して、目の前の相手――ヴィートだけに意識を集中させる。


 ヴィートは、他の異性のような目でフォシアを見ない。

 息苦さが和らいでいく。


(……みんな、ヴィートのような人ならいいのに)


 フォシアはひとり心中でつぶやく。ヴィートは一緒にいて苦しくない。はっきりと真正面から見つめられてもおそろしくない。


 ヴィートなら――長く一緒の時間を過ごしても、苦痛ではない。


 ぼんやりとそんなことを思って赤毛の青年を見つめていると、彼はどことなく気恥ずかしそうに身動ぎした。


「それで、その……ルキアの好みについてなんだが……」


 ぽつりとそう切り出されたとき、フォシアはなぜか小さく頬をはたかれたような衝撃を受けた。

 それからかあっと頬が熱くなり、とっさに目を伏せた。


(……何を考えているのかしら)


 一瞬でも、なにか不埒な考えを思い浮かべてしまった。そんなことを考えないようにしていたのに。

 ヴィートのことは好きだ。だがそれは親族や友人に向ける親愛であって、それ以上のものではない。それ以上のものであってはならないのだ。


 ヴィートは、ルキアの婚約者だった。

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