第五十四話『雪の街』
「え?」
「ミミの家だよぉ」
「雪だるま作った!見て!見て!」
雪国に着いた。
街に並ぶのは暖かみのあるログハウス、雪の道、ガス灯、そして大聖堂。聖堂と言うよりは大きな城にしか見えない。
そして、普通に宿に泊まろうとしていた僕たちをミミさんは引き止め、ミミさんの別荘に泊めてくれると言うのだ。
なんてお金持ち兼親切なんだろう。
しかし、ログハウスが並ぶ街並みから、勝手にミミさんの別荘もログハウス的なものだろうと想像していたのだが。
街よりも少し高い場所にある、大理石の洋風な家だった。
街を一望、とまではいかないが眺めを楽しむ分には申し分ない。
それもそこそこ大きく、筒型でガラス張りの離屋があり、そこに通ずる道もどうやらガラス張りらしい。
雪がきちんと除雪されている。
「モルはどうしますか、もうちょっと遊んでいきます?」
「うん!雪だるま作る!」
既に3つも雪だるまを作っているモルだが、3つでは到底足りないらしい。
自身の家の庭が、雪だるまだらけになったらミミさんは怒るだろうか。
いや、たぶん怒らないだろう。それどころかモルと一緒に街に雪だるまを溢れさせに行くだろう。
冷たい風が吹いて、体を震わせて。
ともかく僕は、これからしばらくの間お世話になるミミさんの家にお邪魔した。
〇
意外にも内装は綺麗だった。
どうせミミさんのことだろう、外観は良くとも中は汚部屋なのだと覚悟していたのだが。
「メイドさんが1人居るからぁ、挨拶してあげてよぉ?」
なるほど、お金持ちはメイドも雇うと。
それを考慮できていなかったのは、僕が生粋の貧乏のせいか。嫌な成果だな、おい。
こほん、えっと部屋はシャビーシックな趣だった。
全てに手入れが行き届いているため、逆に過ごしにくそうな感じだ。ホテルとか、綺麗すぎる場所で落ち着かなかったり、ぐうたらできなかったりする感じ。
「じゃぁ、ミミは調査してくるからぁ、ごゆっくりぃ」
「いや、あの、僕らも一応仕事しに来て…」
「ごゆっくりぃ」
「……はい」
パタンと、扉が閉じられ。静寂と僕だけが部屋に取り残された。
まぁ、ゆっくりするのに越したことはない。
僕は椅子に腰かけて、辺りを見回した。しかしテレビもラジオもなく、本棚があるばかりだ。
まあ、読書は好きな方だし、時間は潰せるかな。
僕が本棚に近づいて、何か適当に本を手にとろうとした時。
「初めまして」
鈴の音の様な声がした。
振り返ると、丈の長いメイド服を着た、白い長髪で糸目の獣人の少女がいた。
たぶん、フェネックとかそういう系統の獣人だ。
「ど、どうも」
「お客様、ご主人様は何処へ行かれましたか?」
「えっと、仕事にをしに外へ」
「はぁ、めんどくさい」
「……」
愚痴を零すメイドなんて、まあ、いても不思議じゃない。これくらいじゃ僕は動じないぞ。
「えっと、その、お客様は……、宿泊されます?」
「はい、一応その予定で」
「なるほど、では夜までにお部屋の方を用意しますので、お待ちください」
「どうも」
でも、まあ。まともな方のタイプの人かな。
一人でこの広さの家を手入れしている訳だし、愚痴の一つや二つ、仕方がない。
僕は、そう自分に言い聞かせながら、本を適当に手に取って、また椅子に腰かけた。
「ご主人様がご帰宅なさったら、こちらで一撃をお見舞い願います」
「……任せてください」
メイドさんは言いながら、厚紙のハリセンを差し出してきたので、とりあえず首を縦に降っておいた。
まあ、ミミさんはこれで懲らしめるとしよう。
「あ!それと!紅茶は飲まれます?」
「え、あー、飲みますね」
「ではでは!紅茶を淹れますので、是非とも!私、紅茶を淹れるのは得意なので」
「は、はぁ」
「では、少々お待ち下さい」
メイドさんがお辞儀をして、部屋を出ていった。
僕はしばらく、ハリセンを眺めて思考を放置していたが。気を取り直して。
庭が見えるガラス戸を開けて、庭で遊ぶモルに声をかけてみた。
モルはカバンに入っていた手袋、そして僕がこの前にモルに買ったマフラーと例のもふもふのコートを着て完全防寒だ。
「大家族ですね、雪だるま」
「志東さんも遊ぼー!」
「いやです」
「雪合戦だー!」
と、雪玉を僕の顔に投げつけたモルは「ヘッドショット!」と楽しそうに跳ねているが。
僕からすると、雪を投げつけられただけなので楽しくはない。
僕は次の雪玉を作るモルを眺めながら、ソッとガラス戸をそっと閉めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます