第二十一話『奥の手』
グラビティ・コア。
僕が作ったけど仕組みは知らない、とりあえず重力を味方に付ける物。
しかし使用者中心に発動するため、自分にも負荷はかかる。
獣は地にひれ伏した、押し潰され起き上がろうとしているが。重力は、強い。
「あれ、思ってたより、強いんだね」
想定外が起きた、獣が立ち上がろうとしている。
まずい、おかしい。普通の人間ならこの時点で死んでいてもおかしくは無い。普通じゃないのはわかってる、けど、起き上がる?ふざけてる。
僕でも、体制を保っているだけでやっとなのに。
「考察しようか、考えるのが好きなんだよ、僕は、そうだねまず腕が黒いね、黒灰かな?でも箱には執着するんだね、飼い慣らされてる?有り得ないね、ならなにかの能力?有り得るね、でもどうなんだろう?この箱の中に何が入ってるかは知らないけど、わざわざ君みたいなのを寄越すなんてね、それとも君を試すために箱をねらうのかな?そもそもの目的は箱じゃなくて、君を、君みたいな試作品?を試すためにかな?知らないけど、怖いね、力を手に入れる、けれどそれ以外を全て失う、哀れな話だよ」
抗おうとしている、けれど重力は重くのしかかる。
獣は、咆哮を上げる。
「可哀想にね、何も無いんだね、どこの組織かな、教団かな?それともヴァンガルかな?急に金にもならないのにスポンサーなんかしてさ、僕のおもちゃを奪ってさ臭いよね、教えてくれないかな、どこから来たの?僕はね、今は機嫌が悪いからさ」
視界にヒビが入った、僕の方にも限界が近づいてきているようだ。
もう少し、強くしないと、今にも飛び掛ってきそうだ。
「めんどくさいね、何を企んでるかは知らないし、君に話しても意味は無いけど」
獣の後ろに回り込む影を確認し、箱を地面に落とした。
「休む時間くらいにはなったかな」
獣は箱に必死に食らいつこうと、無理矢理に身体に力を入れ必死だ。
「解除」
空気が、一気に軽くなった。
「ばぁぁぁぁかっ!!」
そして後ろに回っていた猟銃をモルちゃんが、獣の頭に振り下ろした。
猟銃は、獣の頭蓋骨を砕いた。
〇
「遅いですね」
空が少しづつ青くなり始めた、太陽はまだ出ていないがそろそろ姿を現すだろう。
しかし、モルが一向に姿を表さない。
「大丈夫ですかね」
「大丈夫よ、ほら」
そう言ってウルラは、このご時世で持っていること自体が珍しいようなスマートフォンの画面を僕に向けた。
どうやらカラスとのやり取りが上に記載されているところを見るとメールアプリかなにからしい。
そしてつい最近に送られたらしい、そのスタンプ。
「いいですね、これ、僕も欲しいです」
スタンプは、デフォルメされた可愛いカラスが『任務完了、
「これ、カラスが作ったらしいわ」
「僕も何か作ってもらいましょうかね」
まあ、スマートフォンなんてものは持っていないが。
門の柱にもたれかかって、タバコにマッチで火をつけるハイハドは今にも寝てしまいそうな目をしていた。
「そういえば、ハイハド、タバコ吸うんですね」
「まあ、これタバコじゃなくてお菓子ですけど」
と言って、タバコ(風のお菓子)のパッケージを僕に放り投げた。
パッケージからしてもタバコにしか見えないが、匂いはやんわりと甘い。
「なぜ、お菓子に火を?」
「少し
いつだったが、タバコを食べていたあの男性。あれはタバコじゃなくて、タバコ風のお菓子だったのかもしれない。
そうだったところで、特に何かある訳でもないが。
「なるほど」
「志東さんも、いかがですか?」
「いや、遠慮しておきます」
もうすぐ、夜が開ける。
そういえば、受取人はどうやら、カラスとウルラだったらしい。
つまり僕達はここで仕事は終わりだが、2人はまだこれからが仕事らしい。
大変そうだ。
「ねぇ」
「なんですか」
なにか、出会ってからずっと何か言いたげな彼女。
何が言いたいのか、僕には想像もつかない。
「モルって、もしかして、まだあれのこと…」
「志東さーん!」
ウルラの言葉を遮って、僕の名前を叫んで飛びついてきたモルの頭を撫でる。
「箱!持ってきた!」
「みたいですね、じゃあ僕達は帰りますか」
ウルラはそんな僕達を見て言葉を飲み込み、カラスと雑談を始めたようだ。
箱はどうやら、既にカラスさんが持っているようだ。
「じゃあ、あとはお願いします」
2人は東門の外に出て、カラスは最後に大きくこちらに手を振った。それに、僕も軽く手を振り返して。
「帰りましょうか」
「うん、眠たい」
「今日泊めてくれませんか?」
任務完了、というより任務終了。
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