4F マシンダンサー 4
目下最大の問題は、引き受けてしまった
異世界での努力は無駄にならず、ブレイクダンスの技は
「はぁ?マジそれ? ソレガシウザ」
それに加えて教室の中、休憩時間中に偶に聞こえて来る女子の声。おそらくはダンス部の部員。
高校に入学し二年目、ギャル氏と共に登校した日以上に注目を集めているらしく嬉しい限りである。いや、嬉しくはない。黒マスクのを軽く引っ張り上げながらため息を吐いていると、不意に肩を叩かれた。
「ハロハロ〜同志〜、またまた時の人じゃん。シーズーに力貸す事にしたんだって? 聞いたぜ〜。んでなに落ち込んでんの? あちきが相談なら乗ってやんぜ?」
横を向けば癖の入った長い白髪。友人であるずみー氏の姿に肩から力が抜ける。教室では友達が多いらしくそこまで話し掛けてくれないギャル氏と違い、気を遣ってくれて感謝だ。至る所から向けられる冷たい視線から会話に逃げる事ができる。
「動きの元とでも言いますかな。城塞都市でもそこまで煮詰められなかったのですが、動きの元になるイメージが形にならなくて困ると言いますか、這いずる動きの中身となる源泉とでも言うべきか」
「あー……こっちでも変わんないね同志は。それって筋肉は張り付いてんのに骨がないみてえな感じ? 絵の構想はできてんのにそれを切り取る額縁がないぜ〜みてえな?」
ずみー氏の言葉にそれだ! と指を弾く。正にその通り。軟体動物宜しく、気概もあれば動きの形も頭の中にあるのに、芯だけ抜けている感覚。ブル氏と喧嘩した最後の方では何かが嵌った感じだったが、その時の感覚が今はない。動きの元となる芯が存在しない。『死』を感じられなければ芯を見つけられないなどお笑い草だ。どこの
「ふ〜ん、煮詰まってんなら今日の昼一緒に食おうぜ美術室で」
「キタコレ! いいんですかな⁉︎ 遂に
「同志ガッつき過ぎでしょ! まぁ、あちきもちょい煮詰まっててね。同志の意見が欲しいんだよ。セイレーン達は褒めてはくれんけど、ちっとね。逆にユンカーとかは評論が長くて……ん? 同志なんか見慣れないの持ってんね。なにそれ」
「三味線ですぞ。少しばかり音勘を取り戻そうかと」
「マジで? あちき聞きたいわ! 昼休みに弾いてよ!」
「えぇぇ……凄く怒られそうなのですが。ただでさえ学生服のおかげで教師からの評判も落ちてるのに?」
「どーせ美術室にゃあちきだけだしいーってば! それに評判は今更〜」
やめろそのマジレスは
胸を抑えて小さく呻けば笑いながらずみー氏は
教室の中でも今はもう一人ではない。おかげで気分が少し楽になる。何故だかダンス部関連のヘイトは
「随分と上手くやったじゃんか。なぁソレガシ」
────ドカッ‼︎
大きく目の前で鳴った椅子の
日本人離れした端正な顔。
「……誰でしたっけ?」
いかんな、まるで名前が出て来んぞ。これではギャル氏と五十歩百歩になってしまう。ずるっと
「……鈴木君?」
「誰だよそれ⁉︎ 俺のどの辺りに鈴木君要素があるんだコラッ!全国の鈴木君に謝れ!てかお前去年も同じクラスだっただろうが! 同じクラスの奴の名前くらい覚えとけ‼︎」
「ではここで第一問ですぞ! ズバリ、
「は? ソレガシだろ?」
「不正解だ阿呆が‼︎ 圧倒的ブーメランですな‼︎」
去年も同じクラスとか言いながら
「おし分かった。なら改めて自己紹介といこうぜ。俺は
「
「待て待て待った!落ち着け!こちとら周りにお前には関わんな的な事言ってきた友人振り切ってまで来てるんだ。話を聞け」
「それを聞いて
喜ぶどころかもう帰って欲しいわ。
「それでだソレガシ。お前一体どんな手練手管を使ったんだよ? 俺に教えろ」
「ほぅ、いくら払う?」
「ちぃ、足元見やがってッ、今月はまだバイト代がッ」
「マジかお主……ちょっと財布しまって貰えます?」
何の事かさっぱりだが、本当に支払おうとしてきやがった。なにそれこわい。この男には一体何が見えてるの?
「仏説摩訶般若波羅蜜多──」
「急に経を読むな。見れば分かるだろうが、俺の背後に何が見える?」
「いや、
「誰も背後霊の話とかしてねえ⁉︎ 物理的に俺の背後だ‼︎」
「黒板」
「人だ人‼︎ 見えるだろうが髪色の目立つ子が‼︎」
何とも注文の多い男である。髪色の目立つ者など一人だけ。机の上に座っているギャル氏しか見えないのだが。
「それが何か?」
「ここまで言ったら察してくれ。お前最近何だかあの子らと仲良いんだろ? こう橋渡し的な? 仲良くなる方法とか教えてくれよ。頼むぜ
拝んで来る男の視線を追って背後を見るが、そこには誰の姿もない。
「目を覚ませお主。あれは見た目がいいだけでふとした拍子に蹴って来ますぞ。サンドバッグにはなりたくあるまい」
「えぇ、そ、そんななの? 見た目によらずか? いや、過激なのも悪くはないか? ギャップで萌える」
「よぉマゾヒスト殿」
「そこを頼むぜ
「ほぼ初対面でどうしろと?これは大草原」
首に腕を回して来る男が鬱陶しい。寄り掛かって来るんじゃないッ。周囲の目を見ろ‼︎ クラスの人気者が
「お主、協力するなら何でもすると言いましたな?」
「いやそんなことは言ってないけど、ある程度の頼みなら聞くぞ?」
「ダンスは得意ですかなお主?」
「体を動かす事で苦手な事はないな。それがどうした?」
「四人目決定」
契約成立ッ。
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