2F マシンダンサー 2
「これまでになにかさぁ、習い事とかやってたりしたの?」
「武芸十八般を少々」
「……特技は?」
「三味線ですな」
「…………趣味は?」
「最近は蒸気機関を弄るのにハマってますぞ」
「うん、きみクビ」
ふざけんじゃねえぞ、正直に話したのに入部する以前にクビ宣告されたんですけど。
ダンス部などと言いながら部室はないのか知らないが、各階の廊下に幾枚か貼られている大きな鏡。二学年の教室がある四階建て校舎の三階の隅、鏡の前で近くの教室から持って来たらしい椅子に座っている大変スタイルの良い女子高生。
ギャル氏のダチコである修羅の住人仲間の一人。ずみー氏曰く読者モデルをやっているらしい。細く締まった長い手足に凹凸がはっきり分かる肢体。長い茶髪は癖なく真っ直ぐで
親指で
「ではギャル氏そういう事で。残念、面接で落ちてしまいましたな。お祈りはいりませんぞ。もうダンス部には金輪際近寄らないのであしからず」
「ソレガシステイッ! ちょい待ってってばしずぽよー! こう見えてソレガシ結構使えんから!困ってんでしょ? ソレガシ貸してやんからさ」
なのにギャル氏に顔を向けた途端に切れ長の眉毛をハの字に曲げやがる。鉄仮面標準装備はどうやら
「でもさレンレン、手を貸してくれるのはありがたいけど、なんでソレガシなわけ? 急につるみ出しちゃって、趣味や特技までヤバいんだけど? なんなのきみ、そんなわざわざ『
「これですよこれ。急にだのなんだのぽさだのと。原因と仮定があって結果があるのでしょうが。爺様や親父殿に『お前は侍になるのだ』と言い聞かされ育った
「それ一つでもうアウトだって言ってんの。ってか侍ってなに? 意味不過ぎ。蒸気機関ってきみいつの時代の人って感じだし、不思議ちゃんのずみーと気が合うのは分かるけど、レンレンと仲良さげなのはマジで謎。なにきみ詐欺師?」
言い掛かりがマジで酷い。ギャル氏と仲良さげだと詐欺師になるのか初耳だわ。その理論で言うと椅子の上で踏ん反り返ってる女王様も詐欺師になるのだがいいのだろうか。ギャル氏と友達になってからずみー氏とはすぐに打ち解けたが、もう一人のご友人とは全く打ち解けられる気がしない。冷え冷えだわ。溶ける気配がないもん。
「とりま試してみなって。微妙に頼りになるから」
「微妙ぐらいなら他の奴頼れ常考」
「うっさいソレガシ!」
ギャル氏が角を生やし始めたので口を閉じる。下手に口を開けばまた蹴りが飛んで来そうだ。一般人の蹴りならまだしも、武神の眷属である空手ガールの蹴りとか当たったら死ねる。
やたら食い下がるギャル氏のおかげか、ため息を吐いて椅子からクララが立ってしまった。立たないで座っててクララ。ここはアルプスじゃないのよ。
「ブレイクダンスがやりたいんだっけ? 全然見えないけど、じゃあ『二歩』やって」
「二歩ってなんですかな? 二歩歩けと?」
「はい終了っ! トーシロじゃんか‼︎ それでよくブレイキンやりたいって言えたねきみは‼︎」
だってやりたいって言ってないもの。専門用語出されても
怒れるしずぽよ氏を前に首を傾げていると、慌ててギャル氏が『ブレイクダンス、二歩』でググったらしいスマホを伸ばして来る。再生される動画を
舐められてばかりも嫌だ。ギャル氏にスマホを避けて貰い、マスクを口元からズラし、「プシィッ」と鋭く小さく息を吐いて廊下に両手をつける。
ブレイクダンスの基礎、『
膝を曲げて座った状態で右足を前に出し、左足の脛に当てるように振ると同時に左足で軽く跳ぶ。足と腰を捻って身を回転。両手をついて着地。片腕は遠心力のまま回転方向に流すと。
避けながら足払いを当てる為に似たような動きを何度かやった。蹴りを避けられても
「ほらねしずぽよ!」
「……なんか荒くない?」
なんだその納得いってないような顔は。
「……じゃあ次『バレル』」
「まだやれと? ギャル氏動画を」
「映像見なきゃできないの?」
「専門用語出されても分からない定期。あぁっと……はいはい、第一〇四回模擬戦ですな」
腕で輪を作った状態で背と肩を支点に、開き回転させる両脚の遠心力で回ればいいと。細かなバランスは二の腕で取り、手は床に触れない。足を振り回してこっち来んなという気でやってみたが、普通に隙を突かれてベビィ殿に踏まれた。
「ほらほらねしずぽよ!」
「……なんか荒いんだよね。喧嘩してるみたい」
だから戦闘用にしか鍛えてないんだよ。と、しずぽよ氏に言っても仕方ない事。
「……じゃあ最後に『チェアー』」
まだあるのか……。ギャル氏に動画を見せて貰い眉を
ブレイクダンスの基本、『チェアー』。
床についた片腕の肘を脇腹に付け、もう片方の手と側頭部を床に付けてバランスを取りながら、椅子に座るような形で両足を持ち上げ腰を捻って停止……停止……停止ィィィィッ、ツライッ⁉︎ だって戦闘中長時間止まったりしねえもんよッ⁉︎
背中が
だが、そうか、これを練習すれば止まる技術を磨く事はできそうだ。身を起こし親指の爪を噛んでいると、隣で両手でもって顔を覆っているギャル氏。
落ち込まれても
「きみさ、踊るの好き?」
「……音楽は嫌いじゃないですけどな。三味線が一応持ち芸ですし」
「ふぅん……本気でやるなら、組んでもいいよ。動き荒いけど鍛えればやれそう」
「本気でと言われても……」
生憎と急に予定を組まれただけで、
ただ、しずぽよ氏の背後で、言葉を口にする事なくで頭を下げ両手を合わせているギャル氏が目に映る。
無茶振りでの
ならば
どうせやるのならば────本気でやるから面白い。
異世界で戦う事を選んだ
難しそうな顔で見つめて来るしずぽよ氏の青色のカラコンに染められた双眸を見据え小さく笑う。
「やってみましょうかね本気で。
「じゃあ決まり。ただ私のことしずぽよってソレガシは呼ばないできしょい。一先ず一時的にでも入部届け書いて欲しいんだけど、レンレンはいいとしてソレガシって名前なに?」
「お主マジか⁉︎ それでよく
「ソレガシでいいじゃん別に」
ギャル氏はいい加減
「あのぉ、クララ氏?」
「クララって呼ばないで、私自分の名前嫌いだから」
「我儘な女王様ですな⁉︎ はい、もうクララ氏に決定! 寧ろ嫌いなら逆に決定‼︎ 異論は認めんぞ! はい決定‼︎」
「はぁ? なにきみマジで⁉︎ ムカつくわぁ‼︎ そぉれぇなぁらぁ? ダンスバトルで決めるとしようじゃないの! ダンスは心の声の発露だよ? 私の心の声がきみに聞こえるかね? 私が勝ったら様付け決定!」
「やらいでか!
人の足元見やがって、素人に得意技ぶつけて全力で潰しに来るってどうよ。よって負けた瞬間から『クララ様』と呼ぶ事に決めた。これもせめてもの抵抗だ。「クララ様」と呼べば周囲から冷たい目が突き刺さるが知ったこっちゃない。
どうせ
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