9F 騎士の卵 5
「あぁ? なんだ急に姉ちゃん難癖付けやがって! レジの金は怪盗が盗んだって予告状置いてんじゃねえか!」
偽怪盗の正体はお前達だとギャル氏に突き付けられ、当然の如く
「はい
ねーじゃない。
「んだ兄ちゃんも難癖付けようってのか? 俺達がやった証拠でもあんのか? あぁッ‼︎」
うるせえ! 凄むんじゃない!
新たにテーブルの上のパンを掴んで千切りながら、食ってかかって来る偽怪盗の容疑者を横目に見る。証拠なんて特別ないから絡みたくなかったのにこの様だ。脊髄反射で動くギャル氏を誰かどうにかしてくれ。脊髄を摘出しなくていい範囲で頼む。
ずみー氏に助けを求める視線を送れば、明後日の方向に目をやり口笛を吹いて誤魔化しており、ブル氏を小さく見上げれば足を伸ばしながら腕を組み、壁と一体化するのに忙しいらしい。救いはないんですか? そうですか……。
「ブルヅの旦那が一緒だからっていい気になってんじゃねえぞ! ひ弱な人族が!」
「ブルっちは関係ねえし! ソレガシの方がアンタらよか頭回んから! メリーゴーランドだから!」
「なんだ喧嘩なら買うぜ姉ちゃん! 表に出ろや!」
「い、いやそれは……」
ずみー氏のいる場で空手の披露はNGだからか、助けを求める視線を突き刺してくるギャル氏と見つめ合い肩を
「あ、あーしはそうゆうんじゃなくて……」
髪色と同じような空気を纏って口を開こうとするギャル氏の口に、手に持つ千切ったパンをスープに
「……まあ、証拠どうこうはお主達を調べれば分かるのでは? 難癖だと言うなら多少調べさせてくれてもいいでしょうに」
「なんでやってもねえのに調べられなきゃいけねえんだよ!」
「やってないなら尚更疑いが晴れていいことしかないですな。ただ、あー、お主達が居た席からだとトイレに行く時にレジの前を通れるんですよなー。
だが、後ろめたさこそが答えに近付かせてくれる。誰もが瞬時に演技で取り
即答せずに
「ッ……喧嘩売ってんのか
「
ギャル氏の肩に手を置き、立ち上がると同時に入れ替わりようにギャル氏を
テーブルのない通路の方に足を向け、
床に背を着きながら容疑者である
床に付いた右手を支点に体を捻ってうつ伏せの形に移行しながら、伸ばす左手で
組み付いたままでは力で押さえつけられてしまうだけ。するりと倒れた
「痛ッ⁉︎ 鉄神の眷属は硬すぎますぞ! まあそれで倒れるか倒れないかは別ですがね」
騎士見習いよりも柔らかな感触でも硬いは硬く、蹴った足先を摩る先で、引っ掛けている
倒れている手近の
「こ、この紐の色うちのレジの金のじゃねえか! やっぱてめえらが盗りやがったのか採掘も鍛治もろくにしねえ穀潰し共が!
「あーなるほど、紐でどこのお金か分かるようにしてるんですな。知識がまた一つ増えましたぞ。しかし、やっぱりってお主らひょっとして常習犯? 最早存在が証拠ですぞそれなら」
「うるせえクソ! 剣だの盾だの打ったって、武器屋が他にも多過ぎて売れねえし、採掘だって同じだ!儲けてんなら分けやがれ!」
酷い言い掛かりを聞いた。鉄神の眷属だけあって頑丈だからか、すぐに盗っ人である
騎士見習いと違い素人相手ですっ転ばす事はできても、意識を刈り取るような事は無理。終わらない喧嘩は勘弁とばかりに元いたテーブルに寄り掛かれば、大きな笑い声が店を震わせ、立ち上がった
────ドゴンッ‼︎
座ったまま蹴り出されたブル氏の足裏が盗っ人二人に直撃し、吹っ飛んだ盗っ人達は壁にめり込みヒビを走らせる。威力がえげつねえわ。
「クカカカカッ! えぇ友よ? それが選んだ戦い方かよ! 初めて見たが笑えるなぁ! 正に愚者の御技だぜ!」
「やるじゃんソレガシ! 動きはちょいダサかったけど、あーしはやると思ってたって!ブレイクダンス的な?」
ダサいは余計だわ。そんなの
「どうだぁ友よ、地獄を知った先にあった景色は悪くねえか?」
「そうですなぁ、まあそこそこ。敢えて言うなら赤と黒だったと言っておきますぞ」
「……同志、それ今日のセイレーンとあちきの下着の色じゃね?」
「何とは
「ブルっちこの覗き魔も蹴ってくんね? あーしがドチャクソ許す」
あんな蹴り
「兄ちゃん達助かったぜ!ブルヅの旦那の知り合いなだけある! 今日は店の奢りだ! 食事の代金はいいから好きに食ってくれ!」
「それは嬉しいんですけどな。
「やったおじさんマジ優しみ深い! 良いことした後のご飯ほど美味しいご飯ないっしょ! ほらソレガシ座って座って! 特別に下着見たのも許してやんし! このお店で一番高いお肉持って来ちゃってー!」
持って来なくていいわ
肩を落とす
明日こそは一人だけでも
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