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建物の屋上に柊亜衣は潜伏し、洗濯物の隙間からスコープ越しにスーを捉えていた。
あちらもスコープ越しに索敵をしているが攻撃が効かない事を良い事に大通りのド真ん中を悠々と闊歩している。
高威力を誇るDMRライフルでさえかすり傷も負わせられない。
それでも、やつらをキルする方法は二つあった。
一つはナイフ。
これで相手の喉元を切り裂く事により一撃でキルできる。
ただし成功させるには相手に気づかれずに接近しなければならない。
「はあ、近接戦闘は得意じゃないんだけどなぁ……そうも言ってられないよね」
愚痴を溢してから再度集中力を研ぎ澄ます。
「彼我の距離51、50、49、48……えっ? なによ⁉」
柊を追っていたスーが砂埃を残して忽然と姿を消したと思った次の瞬間、目の前に――三階建てであるはずの屋上に姿を現したのだ。
「みつけましたよ!」
スーはスキルのブーストダッシュで水平方向に一瞬で距離を詰めたのち、ハイジャンプで垂直方向に一気に加速したのだ。
子供達からの情報でこの二つのスキルは把握していた。
誤算があったとすればサブマシンガンのMOD。熱源探知。
これは50mという制限はつくが薄い壁一枚程度なら対象を透見するほどの性能を持っていた。
見た目には反映されないMODだからこそ柊は見逃したのだ。
端の手すりに着地しながらサブマシンガンを構えるスー。
柊は咄嗟にスキル『クイック』を発動。
これによりメインとサブの武器を瞬時に変更。
柊のサブウェポンは――
「四連装ロケラン⁉ そんなものぶっ放したところで爆風であなたが自滅するだけですよ⁉ 大人しく死んでください!」
スーの放った弾丸の軌道は明らかに柊の軸を捉えていた。しかし――
「ロケランを盾に⁉」
四連装ロケットランチャーはロケランの中でもかなりでかくごつい。
それを肩に担ぐのではなく、体の前に縦に構えて銃弾を防いだ。
銃器にダメージ判定が無い事を利用した、小柄な柊だからこそ可能な戦法だった。
「ですが! リロードして的を絞れば!」
リロードを終え正面を向いた瞬間、視界に映ったのはロケランを振りかぶり飛びかかる怒れる女の姿だった。
「これは烈火の分だぁあああー!」
銃器による直接殴打。
もちろんダメージはない。
しかしノックバックは発生し、その衝撃でサブマシンガンが手から離れ、柊がそれをキャッチ。容赦なく銃口を向けた。
額に汗を流すも、スーはニヤリと笑って冷静さを取り繕ってみせた。
「なるほど。確かに強化した僕たちの銃なら有効なダメージを与えられる。でも、残念でした。絶望的なレベル差がありますから、その弾倉に込めた弾を全弾頭に打ち込まないとキルできませんよ?」
「知ってる」
「ははは。これだから素人は。そのサブマシはシカゴタイプライターと言って、いくつものパークを発動させてやっとまともに扱えるようなじゃじゃ馬。全弾命中なんて――」
「私に言わせれば――」
引き金を引き、撃ち尽くされた最後の薬莢が静寂な夜にカランと渇いた音を響かせた。
「――この距離で一発でも外す方が難しいのよ」
HPがゼロになり倒れ伏す敵。
戦闘が終わったかに見えたが、柊にはもう一つ誤算があった。
死体の陰から転がり出た焼夷弾。
死亡時に自動で発動するパッシブスキル『デスグレネード』。
咄嗟に飛びのいたが間に合いそうにない。
――先輩、ごめんなさい!
半径2mが爆炎に飲み込まれ、相討ちという形で柊は残機0となり退場した。
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