私が愛した男《ひと》 19

 ここはどこかの部屋です。窓のない部屋。ベッドが置かれていて、その上に女性がうつぶせで寝てます。女性の服装はさきほどテレストリアルガードを襲った女エイリアンとまったく同じ。そう、この女はさっきの女エイリアンなのです。ただし、ヘルメットはありません。地球人だったらアラフォーくらいか。顔は地球人にそっくりですが、かなり性悪な人相です。

 ベッドの脇には若い男性が座ってて、女の首筋の後ろに氷嚢を当ててます。女は携帯電話のような無線機に出てます。

「ああ、わかった」

 女は無線機を切りました。その瞬間、首筋に痛みが走ったようです。思わず氷嚢近くの肌に手を当てました。

「あたた・・・」

 女は顔面(ヘルメットのシールド)に蹴りを入れる女神隊員を思い出し、

「くそーっ、あいつ、私の顔に蹴りを入れやがった・・・ どこまでも気分の悪い女!」

 どうやら女は女神隊員に顔面(ヘルメットのシールド)を蹴られたとき、首の後ろの部分にその力がかかってしまい、その部分を痛めてしまったようです。

 女はテレストリアルガード基地サブオペレーションルームに侵入した自分を思い浮かべ、

「しかし、なんでバレた? 綿密に計画したというのに・・・」

 女は氷嚢を持ってる男を見て、

「ねぇ、プランBはどうなってんの?」

「もう動いてますよ」

「ふふ、今度こそ、今度こそあの人の恨みを晴らしてやる!」


 隊長を乗せたタクシーは、雑木林の中の街道を順調に走ってました。が、赤信号で停車すると同時にゴトッという異音。どうやら後ろから来たバイクがぶつかったようです。いわゆるオカマを掘るというやつです。

「ち、やりやがったな」

 タクシーの運転士はそうつぶやくと、後部座席に座ってる隊長を見て、

「すみません。ちょっと待っててください」

 と言い、ドアを開けました。


 タクシーの運転士がアスファルト上で仁王立ち。そこにオカマを掘ったライダーが歩いてきました。運転士がきつい眼で言い放ちました。

「困りますねぇ!」

 この2人のやりとりを隊長が車内から見ています。ライダーはライダースーツにフルフェイスのヘルメットをかぶってます。突然そのライダーがタクシーの運転士の顔にスプレー缶を噴射しました。

「うわっ! な、何しやがる!・・・」

 と言い終わるや否や、タクシーの運転士は倒れ込んでしまいました。それを見た隊長は、身の危険を感じました。

「毒ガス? ちっ!」

 隊長は慌ててドアを開け、タクシーを降り、駆け始めました。けど、隊長のひざは芳しくなく、ロフストランドクラッチをついてるせいで、すぐにライダーに追いつかれてしまいました。ライダーは隊長にスプレー缶を向けました。

「させるか!」

 隊長は振り向きざまロフストランドクラッチを横真一文字に振り抜きました。その先っぽがスプレー缶に命中。スプレー缶はアスファルトを転がりました。さらに隊長はライダーのみぞおちをロフストランドクラッチで突きました。

「うぐっ!」

 ライダーの身体はエビのように丸くなり、そのまま尻もち。隊長はため息をつきました。

「ふ~」

 と、ここで突然ジャリという小さな異音が。隊長ははっとします。この音は隊長の背後、アスファルト近くから発生したようです。隊長は横目で後ろをにらみました。

「誰かいる?」

 けど、隊長の後ろには誰もいません。でも、隊長は知ってました。さきほどテレストリアルガード基地を襲った人物は、個人携帯用認識ステルス装置で身を透明にしてたことを。もしや・・・

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