前方の敵後方の敵 20(終了)

 と、怪しい女の子の身体は衣服ごと微粒子になり、そのまま風に流されるように消えてしまいました。

「隊長! しっかりして! 隊長ーっ!」

 女神隊員がはっとして振り向くと、海老名隊員は隊長の身体の前で両ひざをついてました。隊長の意識は消え消えです。

「ああ・・・」

 隊長の胸に刺さってた矢が、やはり微粒子のようになり、そのまま消え去ってしまいました。

 隊長は海老名隊員を見て、なんとか口を開きました。

「えびちゃん、悪いがテーブルの上にある石・・・」

 海老名隊員がテーブルの上を見ると、そこには小石が転がってました。

「その石を大事に保管しておいてくれ・・・

 それから、2人とも、今見た怪人は絶対口外しないでくれ。頼む・・・」

 隊長の首がガクンと落ちました。それを見て海老名隊員と女神隊員は愕然としてしまいました。

「隊長ーっ!」

 海老名隊員は涙声で思いっきり叫びました。

 自動ドアが開き、上溝隊員が入ってきました。上溝隊員は今の海老名隊員の悲鳴を聞いてたようで、すでに慌てた状態です。

「い、いったい、何があったの!」

 海老名隊員は上溝隊員を見て、

「お願い、救急車を呼んで!」


 夕焼けの道路を1台の救急車が走ってます。中には隊長が寝かされていて、その傍らで海老名隊員が隊長の手を握ってます。海老名隊員は大泣きしてます。

「隊長・・・ 隊長・・・ お願い、こんなことで死なないでよ・・・」

 救急車の後ろを1台のセダンと1台の4WDが走ってます。両車ともテレストリアルガードの車両で、両車ともパトロールランプを点灯させ、サイレンを鳴らしてます。

 セダンの運転席には寒川隊員、助手席には倉見隊員、後部座席には女神隊員が座ってます。女神隊員はフルフェイスのヘルメットをかぶってます。4WDの運転席には橋本隊員、助手席には倉見隊員が座ってます。5人ともかなり深刻な顔をしてます。


 病院の処置室の前の廊下です。ストレッチャーで隊長の身体が運ばれてきました。さっそく医師がスタッフに命令です。

「胸部レントゲン撮影を!」

 隊長の身体はさらに奥に運ばれていきました。そこに6人のテレストリアルガードの隊員が駆け付けました。橋本隊員がその医師に質問です。

「どんな状況なんですか?」

「たぶん心臓の疾患でしょう。心筋梗塞か狭心症か・・・ すぐに手術に入ります」

 その後隊長の病気は急性心筋梗塞とわかり、直ちにカテーテル手術となりました。右手首からカテーテルと呼ばれる管を入れ、それを心臓まで挿入。狭窄してる冠動脈を治療して終了。手術そのものは30分程度で終わりました。


 それからしばらくして、隊長は目覚めました。

「は・・・

 オレはまだ生きてる・・・のか?」

 隊長はベッドに寝かされてました。どうやら病室のようです。胸には複数の心電図の電極が取りつけられてます。左腕には点滴の針が刺さってます。窓にはカーテンがかかってますが、隙間から見える外はとっぷりと夜です。

 だれかが立ち上がったような気配。と同時に、

「隊長」

 の声が。隊長が振り返ると、そこにはヘルメット姿の女神隊員が立ってました。隊長は女神隊員に話しかけました。

「ふっ、あんたか・・・

 帰って来てしまったようだな。なんか、恥ずかしいなあ・・・」

「ほんとうはテレストリアルガードの隊員みんな、この病室にいたんですが、先生がもう大丈夫だと言ったから帰りました。

 海老名さんは私と一緒に残ると言ってましたが、明日学校があるからって、みんなに説得されて帰りました」

「あは、そっか。で、あんたはなんで残った?」

「またあの赤い女の子が襲って来るといけないと思って、私は残ることにしました。あ、赤い女の子のことはみんなに話してませんから、安心してください」

「そっか、ありがと・・・」

「あの女の子はなんなんですか?」

「たぶん・・・ いや、またあとで話そう。悪い、今はともかく眠いわ」

「はい」

 隊長は再び深い眠りにつきました。しかし、またあの赤い女の子が襲って来るかもしれません。別の怪人が襲ってくる可能性もあります。女神隊員はイスに座ると、寝ずの番を決め込みました。

 でも、翌朝陽が昇る時刻に隊長が目覚めると、女神隊員はイスに座ったまま、眠ってました。隊長はそんな女神隊員を見て、こう言いました。

「ふっ、ありがとうな」

 今日も窓の外は晴れのようです。

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