第622話 とある乗り鉄の人5

賢島駅13時30分発名古屋行き特急に乗り。次は名古屋へと向かい移動を開始した僕。車内アナウンスがあってからすこしして、ゆっくりと電車が動きだした。ここから約2時間のまた楽しい楽しい電車移動だ。

今乗っている電車は行きに乗って来たノンストップの特急ではないので、この先の停車駅は鵜方、志摩磯部、鳥羽、五十鈴川、宇治山田、伊勢市、松阪、伊勢中川、津、白子、四日市、桑名の順に止まり名古屋へと向かう。ちなみに、僕が思うのと同じタイミングで車掌さんの声も車内には聞こえていた。特急の車内はあれから人が増えることなく。静かなまま。ゆっくりとした電車の走行音。ポイントの上を電車が通過する音が響いて……うんうん。のんびりとまた旅が始まっ――。


「——また前だったかー。がははははっ。今日はよく車内を歩くはめになるなー」

「……」


ちょっと待て、車掌さんの声が聞こえなくなった瞬間。今日よくよく。ホントよく聞く声が後ろから聞こえてきたのだった……マジか。である。さすがに振り向きはしないが――うん。この声は――である。


僕がまさかね。いや――もしかしたら全く別の人かもしれない。などと思っていると――。


「おうおう。ここかここか。よっこらせ。行きの電車よりはちょっと狭いが――テーブルもあるし。これも良い車両だ。がはははっ。急行が走ってないとは思わなかったな。がははははっ」

「……」


通路を挟んで隣の席に身体の大きな人が座ったのだった。うん。なんか荷物が多くなっている気がするが――って、いやいやこの電車名古屋行きですよ?大阪難波方面に乗るんじゃ――あっ、そっか。ちゃんと見なかったがこの電車鳥羽駅や宇治山田駅あたりで大阪方面の電車と連絡しているのか。なるほど、途中で乗り換えた方が早く帰れるから――この電車にこの人も乗って来たのか。うん。そういうことにしておこう。一瞬乗る電車間違ってません?と思った僕だったが――うん。乗り換えをするんだな。と思うことにして、車窓を見ることにした。いや、あまり見ていてもなんでね。今度は通路を挟んで隣だし。気にしない方がいいだろう。うん。


「おうおう。えっと――名古屋到着は――15時37分か。しばらく休めるな。がははっ。荷物が」

「……」


はい。僕の予想は外れたらしい。即外れたよ。何で――まさかこの人も僕と同じ名古屋経由で大阪に帰る?いやいや――えっ?それはないでしょ……なのだが――うん。再度になるがあまり隣を気にしていると……なのでいろいろ思ってたことを僕は頭の中から振り払い――外を見たのだった。うん。せっかくの電車移動。車内の事より車窓を楽しもう。


その後、時たま通路を挟んで隣から身体の大きな人の独り言があったのだが――うん。あったよ。突然なんか言い出すから車窓を見ていてもちょっとびっくりだよ。うん。幸いなのか被害者は僕だけらしいが……いや、偶然なのか僕と身体の大きな人の近くにはほかのお客さん居ないんだよね。多分既に売れていて―――途中の駅から乗って来るのだと思うが。今のところ被害者は僕だけ。身体の大きな人は全く気にしてないみたいだが……。


ちなみにその後の事を言うと。鳥羽駅と宇治山田駅。伊勢市駅でお客さんが増えて、僕の乗っている特急はそこそこの乗車率となったのだった。そして伊勢中川駅からは僕の隣にも人が乗ってくるという混雑状況になったのだった。

――余談だと思うが。身体の大きな人はまだ1人で座っている。


って、なんで僕は通路を挟んで隣に座っている人の実況をしているのだろうか――いやでもさ。行きも帰りも――というか。ずっと同じ車両でそれも席がずっと近いって――なかなかないことだからね。向こうはいまだに全く気が付いてないみたいだが。って、そうだよな。僕なんて普通の人だと思うから――記憶に残ろないよな。うん。でもこっちはかなり印象に残っているので、どうしても見てしまうのだった。


そういえば気が付くと外は――工業団地地帯とでもいえばいいのか。コンビナート?タンクのような建物が見えていた。どうやらもう近鉄四日市駅あたりまで電車は来ていたようだ。すると車内では降りる人が多いらしく。少しザワザワしだした。僕の隣に居た確か……伊勢中川駅から乗って来た人も降りる準備をしていた。

そして近鉄四日市駅に15時07分。定刻通り到着すると――結構な人が降りて……外。ホームには乗るために降りる人を待っている人が多数。うん。この駅もなかなかの乗降者がいる駅らしい。その後すぐに車内は先ほどと同じくらいの乗車率となったのだった。ちなみに僕の横は空いていたのだが――お隣で何かが起こっていた。


「——うん!?難波先輩!?」

「おっ?おお、なんだなんだ。白塚じゃないか。何してるんだ?」


近鉄四日市駅を発車すると同時くらいにそんな声が隣から聞こえてきたのだった。

お知り合いとでもあったんですかね?って――ホント目立つというか――今はさすがに周りの席にそこそこの人が座っているので――みんなが一瞬だけ身体の大きな人の声に反応したと思う。多分だがね。もしかしたら僕が敏感になってるだけかもしれないが――。

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