第96話 カピバラ楓くん ~23時16分発伊勢中川行き普通~

――ピンポン。


海織の家のインターホンが鳴る。


「誰……だろう?こんな時間に」


海織が俺をもふもふするのをやめて固まる。なんかずっともふもふされていた気がするので……助かった。にしても――。


「今……23時40分……宅配とかではないよな……」

「うん。違うと思う」


ピンポン。


「とりあえず……楓君行こう」

「……俺強くないよ?」

「大丈夫チェーンあるから」

「ははは……ってこの姿で?」


俺。カピバラなんですが――。


「逆に効果あるかもね」

「いや……どうだろう」


海織は俺の腕に捕まりながら玄関に進んでいく。


「……はい」


海織が外に向かって声をかける。


「あっ。よかったー。海織ちゃん!入れてー」


外から声がした瞬間俺と海織は顔を見合わせて「うん?」という顔をした。


「えっ――?沙夜ちゃんだよね?」

「斎宮さんと思う……って待って俺の姿—―」

「まあまあ」

「ちょ、海織タイム」


俺が言っている間に海織はドアを開けている。そしてドアが開くとまあ声の主。斎宮さんが登場。


「海織ちゃん!ふ……ふが――!カピバラ……うん!?楓くん!?」

「……恥ずかしながら……」


海織に抱きついた斎宮さんがすぐに隣に居たカピバラに気が付き変な声出して……でもすぐに俺と変わったらしく……。


「やばっ。かわいい!」


テンションがおかしい方が2人になりました。どうしましょうか……。


「斎宮さん。とりあえず……ドア閉めようか。ご近所さんの……」

「あっ。そうだね。お邪魔しまーす」


俺は何とかカピバラのまま行動する。うん。ご近所さんにご迷惑はダメです。はい。特に今、誰かが声でここに来たら……うん。さらに悲鳴か。最悪—―警察呼ばれるかもしれない。


斎宮さんが海織の家に入ってくる――?って、なんかお出かけ?みたいに荷物持っている斎宮さんがすごく気になるのですが……。


海織と斎宮さんそのまま話しながらリビングへ。カピバラは一応付いていきます。


それからリビングに3人。ちょっと初めに「本当に付き合ったんだよね!?」と、斎宮さんの取り調べがあったが……ってなんでこっちが取り調べされているのだろうか。こんな時間にやって来た斎宮さんの方を取り調べする必要があるのでは?と思っていたら。すぐに話は変わり。斎宮さんは先ほどまでに何があったか話してくれた。


……そして斎宮さんが荒れはじめました。言葉にすると。大変なことが起こりそうなので。時間を飛ばします。はい。壮大なことがありました。と言っておこう。放送禁止用語?っていうのかな?とりあえず。カットしよう。うん。


「というわけ。どう思う?あの顔絶対、俺が別れる。言ったから。いい驚いた顔してる。ちょっと楽しむか。いつ謝って来るかなー。って顔だったもん。ありえない」


斎宮さんから何があったのか聞くと……うん。まあ、柊がケーキを勝手に食べたことから始まり。いつも斎宮さんが揉めると別れる。という言葉を使っていたから。あれは柊がたまにはやり返してやる。ってことで、別れると言って部屋を出ていったが。あの顔は。さあ、どう出るか楽しみ楽しみ。という顔だったとか。


まあ、全部斎宮さんの考えであっているのか。と、俺が聞きつつ考えていると。


♪♪


俺のスマホが鳴る。誰かからメッセージ――ってここに俺の連絡先を知っている人が2人も居て。親とかがこの時間には……はあまり考えられないので……柊か。と思いつつ開くと――あたり。だった。


「噂をすれば……か」

「柊!?」


俺がつぶやいたからか斎宮さんがすぐ反応した。


「—―う、うん」


すぐに斎宮さんがのぞき込んできた。反対側からは海織。なんか……すごい2人に挟まれつつメッセージを開いてみると……。


「おつー。ちょっと沙夜に対していたずら思いついたんだが、なんか種明かし?するの忘れたかもで。沙夜が激怒しているかもだから。乗り込んだらいつものようによろしく」


――どうしようかな。とりあえず……いや……すごいな斎宮さん。ほぼ読み通り。今はお隣で「キー!」ってなっています。やばいぞ……なんか俺の着ている着ぐるみ?パジャマ?のフード?カピバラの頭が握りつぶされてます。斎宮さん抑えて。フードだけで抑えてね?人にしちゃだめだから。とか思いつつ。これは早めに海織に助けをと思いながら海織を見ると……あれ?なんでニヤニヤ悪い顔しているんだろうか。なんでこの状況で、その――俺が困るようなことを言い出す前みたいな顔なのだろうか……。


あっ、斎宮さん斎宮さん。フード引っ張らないで。俺の首がやられますから。ホントお願い。気が付いてマジでお願いします。俺の首が――。


ホントこのままでは斎宮さんにやられる……と思った時だった。俺の隣に居た海織が。


「沙夜ちゃん。沙夜ちゃん」

「うん?」


海織に呼ばれたからか。斎宮さんの手が緩んだ。

あっ、よかったフードが解放された。首絞められなくて済んだのだが……もう1人のお方がすぐになんかおかしな言葉を発しました。


「沙夜ちゃんこういう時は」

「こういう時は?」

「遊びに行こう!」

「うん――?あっ!うん!いいかも!行こう!」

「じゃ、私の彼氏。カピバラ楓君も巻き込もう!」

「おぉ。いいねいいねー!」

「—―はい!?」

「沙夜ちゃんカピバラ楓君はいつでも使っていいからね」

「いいの?やったー!」

「やったー!?ってちょっと?お2人さん?」


――俺……話についていけないな……おかしいな。国語のお勉強が足りなかったのだろうか……。


これはこのあとどうなるのかな?

……すごく。すごく嫌な予感が今しています。やっと4日間のお出かけから帰ってきた気がするのですが……誰か。助けて。早めに言っておこう。誰にも聞こえないと思うけど――すると。


「海織ちゃん!まずカピバラ楓くんをもふもふするのはありですか?」

「あり!」

「やったー!」

「ちょちょちょちょー。海織!?」

「ニヤニヤー」

「ニヤニヤするなー」

「てへ?」

「突撃!」


女の子が2人になると大変です……誰かホント助けて。


「私も楓君もふもふしようかなー」

「海織!?」

「ハーレム楓くんだね!」

「斎宮さん!?」


うん。何がどうなって――こんなことに――俺の平和な日常――どこ行った……。





(いつもの?日常編おわり)

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