第63話 これは飲み物だっ!

 これがデートらしいデートのような気がするな。


 とても楽しいし、胸が高鳴るのがわかる。

 昨日も最初は楽しかったけどまた違う感じがする。


 まぁ、胸が高鳴るのはまともなデートした事がないからだけどなっ!


 しかし……金貨残り1枚しかないからなぁ……。


 アクセサリーもついでに買った(正確にはギルマスからおまけしてもらった)し──選択肢にアクセサリー屋さんはないだろう。


 飯屋ぐらいか? 丁度、昼時だしな。昨日みたいに少し誘導に挑戦しよう。


「俺、少しお腹減って来たんだけど──エリーはお腹減らない?」


 昨日の反省から行こうとは言わない。今日の俺は慎重だ。


「そっか、もう太陽が上にあるね。ご飯食べようか?」


 良しっ!


「俺あんまり店知らないんだけど──どこか良いお店知らないかな?」


 これなら、俺が無知な事をさりげなくスルー出来るか!?


「うーん、私も地元じゃないからなぁ〜。レンジ様には服屋さんぐらいしか聞けてなかったし……」


 うぐっ……ここに来て────あのメモの重要性が発覚するとは……。


「──ならどこか良さげな所に入ろうか?」


「そうだねっ!」


 俺達はしばらく歩くと、エリーが────


「あそこ──ご飯屋さんみたいだよ!? 入ろうか! 食欲をそそるスパイスの効いた匂いもするし美味しいんじゃないかな?」


「────!?」


 俺は目を疑った……。


 昨日のガリーのお店だった……。


 マジか……まさか数あるお店の中から────ここをチョイスしてくるとは……。


「あそこで良い?」


「エリー……世の中には食べてはいけない食べ物があるんだよ?」


「急にどうしたの??」


「あの店の料理名はガリー……女の子の食べる物じゃない……」


「へぇ〜ガリーってここでも食べれるのね。私食べた事あるから大丈夫よ? 見た目は慣れてないとキツいかもしれないけどね。コウキが苦手なら────」


「──行きますっ! 我が命──エリーと共にっ!」


 エリーが食べたいと言っているんだ……俺が逃げるわけにはいかないっ!


 ちなみにエリーが食ったガリーは俺の求めていた奴だっ! それは確信しているっ! 


 しかし、ここのガリーはエリーの予想を悪い方向で絶対に覆すだろう……。


「そんな大袈裟な……じゃぁ入るわよ?」


 やはり────主導権って大切だな……。


 俺は遠い目しながら店に入る。



「らっしゃい……」


 相変わらず無愛想だな……。


 俺は店主と目が合ったので手を挙げて挨拶する。


「店主────いつもの二つだ」


 昨日確認した限りではメニュー表とかはない。おそらくガリー一択……。


「あいよっ!」


 昨日より気合いの入った声で返事をする店主?


 俺達は空いてる席に座る────というか俺達以外に客はいない。


「コウキ? どうしてそんな決死の覚悟のような顔をしているの?」


「それはね……こらから起こる事が予想出来てるからだよ?」


「……予想?? ご飯食べるのに何かが起こるの?」


「あぁ、それはね……想像を絶する出来事が起こるよ?」


 本当に想像以上だと思うよ?


「へぇ〜楽しみね。コウキだけ知ってるなんてずるい〜、教えてよ!」


 全然、俺は楽しみじゃない……。


「それはね……さすがに店の中で言えないよ?」


 不味いなんて店の中で言えるわけがない。


「汗凄いわよ?」


 そりゃあ……まさか連日であれを食べるとなると冷や汗も出る。


「最悪──エリーの分も食べないといけないからね……」


 最悪、俺はあれを今日だけで2食食べなければならないんだ……。


「えっ!? 激辛なの? それなら私大丈────「ガリー2つお待ちっ!」──」


 激辛だったらどれだけ良いか……。


 ついに────来たか……。


「ありがとう」


 俺が礼を言うと店主はニカっと笑う。そのまま厨房に戻り────こちらを覗いている。


 目の前にはカレーの匂いをした物体が置いてある。


 俺は凝視する。


「ほらっ、食べよ?」


「お、おぅ……」


 エリーに促され────ガリーを口に運ぶ。


 ごふっ……直ぐにでも吐き出したい。

 これ──昨日よりパワーアップしてないか!?


 酷い味だ……これは進化する食べ物なのか!?


 俺は涙目になりながら飲み込む。


「私も食べよーっと────!? んぅぅぅぅっ────────」


 エリーは口に入れた瞬間に普段なら決して出す事のない声をあげる。最後は声にすらなっていなかった。


 やっぱり……そうなるよな……。


「大丈夫か?」


「なんでコウキは平気なのよ……」


 涙を流しながら俺にそう言う。



 もしかしたら異世界のガリーはこうなのかと思い、食べた事のあるエリーならば──と思ったが……。


 やはり──ここは俺が行くしかないか────


「エリー……大丈夫だ。俺に任せろっ!」


 俺は進化したガリーを頬張る。


 もはや噛んではいない。噛めば噛む程酷い味と臭いが広がる……なら────飲み込むしかないっ!


 ガリーは飲み物だっ!


 一気に2食分のガリーを流し込み────俺は最後の一口を口に運ぶ。


 もう、俺の目の前は涙で何も見えないぜ……。


 それに満腹感で更に気持ち悪い。


「店主──ここに金置いとくぜ」


 店主はサムズアップしたように微かに見えた気がした。


 俺達は足早に店を後にした。

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