第45話 これは予行練習じゃなく──本番だっ!?

「えーっと、クレアさん……俺好きな人いるんです。だから──」


「奪い取るっ!」


「…………」


 何この人!? 必死さが伝わり過ぎて怖いんですけど!?


 というか────異世界は略奪愛が常識なのか?!


「私に次はないっ!」


「いや、めっちゃ美人じゃないですか」


「私の好みの人は斬り伏せた」


 いや、何してるんですかね!? よく捕まらないな……揉み消してるのか!?


「いやいや、俺より強い人たくさんいますって!」


「好みじゃない! 君が欲しい」


 俺は絶句する。


 周りにまともな人が少ない気がする──


 ────いや、まだカミラさんがいるっ! 彼女はまとな人のはずっ!



「団長は……もう後がないんだ……諦めてくれ……」


 俺が心の中で癒しを探していると団員からの声が聞こえてきた。


 諦めてくれって言うより、もっと普通の手段とかあると思うんですけど!?


「団長は──普通じゃないんだっ!」


 心を読むなっ! そんなもん今実感しとるわっ!



「君の存在で起きてる時間が増えたんだ!」


「「「「そうだっ、そうだっ!」」」」


「いつも眠たくて、仕事を全然しないんだぞ!」


「「「「だから──諦めろっ!」」」」


 それ君達の願望だよね!?


 俺を巻き込むなよ!?


 そもそも、何で仕事しない人が団長してるんだよ!


 あれか!? 強いからか!?



 そんな事を思っていると──逃げ道は完全に封鎖されてしまった。


 騎士団員は大盾を構えて包囲している。


 真ん中には俺とクレアさんのみ。


 これは────逃げれないか?!



「見つけたにゃ〜〜っ!!!」


 この声はさっきのAランク冒険者っ!


 好機っ! よしっ! 巻き込もうっ!


「さっきのAランク冒険者の人っ! 俺はここだぞっ!」


 俺は声を張り上げ、居場所を伝える。


「私の名前は──リリーにゃ! とぅっ!」


 名乗りながら、大きくジャンプをしたリリーさんは俺とクレアさんの間に着地する。


「邪魔をする────なっ!」


 目を見開きリリーさんを睨むクレアさん、対するリリーさんも威圧がヤバい。


 威圧半端なくて、めっちゃ怖い。足がガクガク震えるよ?


 ラノベとかでチヤホヤされる主人公とか羨ましいとか思ったけど──


 ──これは想像と違うよ! もっと、緩い感じのチヤホヤを所望する!



 ────気が付いたら、目の前で激しい剣戟が繰り出されていた。



 何か────何か手はないか!?


 そうだっ! 大将のテクを意識していたからダメなんだ! なら、何か俺を諦めてくれる事を言えば良い!


 冴えてるぜ俺!


 目の前で凄まじい打ち合いをしている2人に俺は声を張り上げて告げる。


「聞けっ! 俺は────初めてを捧げるならお互いに初めてが良いっ!」


 2人とも美人(可愛い)だっ! まさか初めてなんて事はないだろ!?



「「処女だ(にゃ)!」」


 なっ、なんだと!? 俺の会心の一撃のカミングアウトは効果が無かった。


 というか──これ相手諸共自爆しただけじゃね? 


 傍観者の人達から凄いコソコソと「あいつ童貞なのかよ」とか聞こえてくるんだけど!?


 そして──俺、自分で逃げ場を塞いだんじゃね?



「いやいや、嘘でしょ? 君達凄い美人だよ?? 何で処女なのさ!?」


────リリーさんは……まぁ、まだ見た目年齢的に言われて納得出来るが、クレアさんとかめっちゃ美人だよ!?


「「えへへっ」」


 ……どうしよ?



「────覚悟を決めんかっ!!!」


 この声は大将か!? 


 俺は声の聞こえた方向を見ると家の屋根の上にいた。


 その顔はニヤニヤ笑いながら俺を見据える。


 覚悟を決めるも何も、あんたがこんな事しなけりゃ──こんな事態になってないからな!


「大将……このイベントで俺が逃げ切った時の報酬はあるんですか?」


「うむ、わしのお古だが剣をやろう。無事逃げ切れるといいがのう」


 プチンッ


 自信満々に言う大将の言葉を聞き、俺の中で何かが切れる音が聞こえた。


「絶対、吠え面かかせてやるっ! 報酬用意して待ってろやっ!」


「威勢が良いのう。出来ればいいがのう。そこの2人──争っておらんで早く捕まえんかっ! 別に2人とも嫁になったらええじゃろがっ!」


「「その手があったか!?」」


 ────ヤバい。2人の矛先が俺に向かった……。


 2人を争ってる間に逃げよう作戦は大将によって破られてしまう。


 1人でも逃げれるかわからないのに2人とか無理だろ!?


「待ちなさいん!」


 今度は誰だ!? ってか──この声……。


 声のする方を見ると────変態ギルマスだった。


「いや、何でいるの?」


 俺は心底思った事を口に出す。


「そんなのぉん、決まってるでしょ? 貴方を手に入れる為よん?」


 バチンッ


 割り箸が折れたようなウインクの音が響き渡る。


 俺は鳥肌がヤバくて震えが止まらない。


 ど、ど、ど、ど、ど、ど、ど、ど、ど、ど、ど、ど、ど、ど、ど、ど、ど、ど、ど、ど、ど、ど、ど、ど、ど、ど、ど、ど、ど、ど、ど、ど、ど、ど、ど、ど、ど、ど、ど、ど、ど、ど、ど、ど、ど──


 ──どうしよ!?


 真剣に俺の貞操がヤバい。


 クレアさんとリリーさんなら最悪、女性だからキスされても良いと思っていたが────こいつはダメだ!


 だって男じゃないか!


 2人はAランクだとしても────それだけでも十分キツいのに、ダリルさんと肩を並べるような変態に今の俺が逃げ切れるのか!?



「大将の自信はこれですか……」


 俺は先程までの威勢は無くなり──虚な目で大将に告げる。


「うむ、予行練習だと思って頑張るのじゃ! 大丈夫──キス以上の事をしそうになったら────首落とすわい」


 あんたも物騒だな……。


 予行練習って……明らかに本番だろ!


 ギルマスから逃げる為に訓練してるのに────いきなりとか心の準備も出来てねーよ!


 それに、今の俺ってBランク相当だろうに……。多少強くなって相手がどれぐらいの強さかわかるけど──どう考えても逃げれる気がしない。


 キス以上は阻止してくれると言ってくれてるが、そのキスが嫌だ……最悪、俺の心が死ぬ。


 本当に死ぬから!


 俺はクレアさんとリリーさんの2人を見詰め──言葉を紡ぎ出す。


「勝ってくれ……頼む──君達2人に俺の命運はかかっているんだ! リリーさん……君はAランク、クレアさん……君は団長だ……君達2人は間違いなく強い──だから、あの変態をぶっ倒してくれ!」



 俺は膝を付いて願う──


 ──2人ともマジで勝ってくれ……。



「任せるにゃ! この【瞬足】リリーが変態なんぞ蹴散らしてやるにゃ!」


「これは私の戦──【眠れる真紅】クレアに撤退の二文字はないっ!」


 なんか頼もしい二つ名が出たぞ!? マジお願いしますっ!


「あら〜ん? この【育む者】──「聞いてないからっ!」──んもう! つれないわねぇん!」


 俺は途中で変態ギルマスの声を遮る。

 そもそも育む者ってナニを育むんだよ!?

 聞きたくねぇよ!


「2人共──任せたっ! 俺に2人の凄さを見せてくれっ!」


 2人は俺の言葉に強く頷く。


 なんか、利用しているようで──というか利用した形になって、とても心が痛い……。


「お前、最低じゃのう……」


 うっさいわっ! 元々あんたのせいだろ!

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