第37話 調子に乗ってはいかん!

「コウキ──あれで良かったのか?」


 俺が俯いていると声がかかる。


「大将……覗きとか趣味悪いですよ……。いいんですよ……今言ったら理解はしてくれるでしょう……だけど──感情とはまた別です。それにエリーさんみたいに一緒に行動しているわけじゃないんですから……」


「あいつはお前の力に気付いておった……誤解ぐらい解いても問題なかったんじゃないかのぉ?」


「そう……ですね。ただ、出会いは一目惚れです。過去の話をしても信じてもらえないでしょうし、楽しかった日々の記憶はないです。誤解が解けても好き合っていた時に戻れるわけじゃありません。────次に会った時に惚れてもらえるように……頑張ります」


「……そうか……今日はゆっくり休め。明日から励むが良い」


「そういえば────ティナは何であそこにいたんですか?」


「巣の討伐依頼だな……最近ゴブリンの数が異常だったからギルドも本腰入れて討伐依頼を出したんだろう……」


「なるほど……ありがとうございます」


 軽く話をした後、大将は部屋を後にする。



 俺はダリルさん達を探す為に宿の中を歩く。


「おっ、やっぱり起きてたか。赤髪鬼が殺気を出しながら──鬼のような顔して帰って行ったからな」


 ──え?! ティナそんなに怒ってたの!?


「ダリルさん──ティナは何でそんなに怒ってたんです?」


「さぁな〜女心は俺にはわからん。ただ、丸一日寝てたお前をずっと優しい目で見詰めていたのは確かだな……」


「そうですか……」


 ──ちゃんと言えば良かったのかもしれない……。


 次に会う時のハードルが上がった気がした……。



「エリーも怒ってるから叱られて来い。あそこの部屋にいる」


「わかりました。──その前に助けた彼女達はどうなったんですか?」


「お前のお陰で心の傷は心配なさそうだ……しばらくはギルドで保護してもらう事になっている。無事だった子は────また機会があれば話す。とりあえず今はエリーの所に行け」


「そうですか……良かったです。じゃぁ、行ってきます」


 俺は頷き、エリーさんの部屋に向かう。



 コンッコンッ


「エリーさん、入りますね?」


 俺は扉を開けると──


 ────少し疲れた様子のエリーさんを発見する。


 姿を確認し、声をかけてくる。


「──コウキ……もう少しで死ぬとこだったんだよ?」


 ゴブリンキングとの戦闘の事を言われているようだ。


「ごめん……でも──あの時は助ける為に行かないといけないと思ったんだ……それに俺は生きているよ?」


「そんなのティナって人がいなかったら死んでたじゃない!」


 うっ……痛い所を突いて来たな……確かにそうなんだが……。


「…………」


 俺は返す言葉が思い付かず黙る。


「……それに──記憶だって……消す必要なんかなかったじゃない……辛い記憶だったんでしょ? わかってるのになんでしたのよ!?」


「…………それが俺にとって最善だったから……かな?」


 それしか俺には言葉が見つからない。なんか以前も似たような事を言った気がするな。


「……それでコウキは何を得たのよ……」


「──笑顔かな?」


「そんな──「エリー」──何よ?!」


 俺は有無を言わさないように強く──そして敬称を付けずに呼び捨てにし、話を止めて優しく声をかける。


「俺は……辛い思いはしたが、後悔はしていない……彼女達が辛い目にあったのは事実。せめて記憶だけでも消せて、普通の生活が出来るなら──それで、いいんじゃないかな? 女の子は笑顔が良く似合う……もちろんエリーもね?」


 自分で言いながらとても臭い台詞だと思うが────正直な気持ちだ。


「────っ!?」


「さぁ、俺はもう行くよ……」


 振り向き──部屋を出ようと歩き出すと────


「待ってっ! あのティナっ人はコウキの何なの!?」


 ────呼び止められる。その答えを振り向かずに答える。


「──結婚する約束をした──元恋人かな……」


「それって……記憶がなくなったからじゃないの?」


「……そう……だね……」


 本当、酷い力だ……。


「彼女……きっと──コウキの事好きだよ……」


 だといいな……。


「酷い扱いされたよ?」


 あんまり良いイメージなさそうなんだけど……。


「彼女がコウキの力を知ったのって──あの時でしょ? それから見る目が変わったよ?」


「そうか……」


 なら──少しだけ救われた気がする。


「私──傷付くコウキは見たくない……」


「……ありがとう……」


 なんか、少し前と比べるとエリーの物腰が柔らかくなった気がするな。


「抱きしめて……」


「……ん?」


 ──?? どうしてそうなる!?


「だから、抱きしめてっ!」


「なんで?」


「──いいからっ!」


 何で俺が抱きしめる展開になるんだ……。


「えっと……──えっ?」


 気付いたら俺はエリーに抱きしめられていた。


 ってか、早くね?!


 俺反応出来なかったんだけど!?


「うぅ……」


 エリーの泣き声が部屋に響き渡る。


 そんなに心配させてしまっていたのか……。


 というか────これって俺に惚れてね? いや、勘違いって事もあるかもしれない……調子に乗ってはいかん。


 けど、記憶を失っても、こうやって心配とかしてもらえるもんなんだな……。


 まぁ、出会って間もない頃にキスしたから思い出なんて無いけど。


 俺は絆というものが──また紡ぎ出す事が出来るという事がわかり、気持ちが軽くなる。


 いつか──ティナと……恋人じゃなくても──こうなれたらいいな……。


 俺はエリーの背中をトントンッと優しく叩く。



 エリーを慰めた後、ダリルさんとテレサさんと合流して食事をし──寝た────






 そして1週間後──



 俺はひたすら逃げている──


 どこって?


 それは街の中だ……。変態ギルマスから逃げているわけじゃない。


 じゃぁ、何からって?


 それは────


「「「「待ちやがれっ!」」」」


「コウキく〜ん、こっちおいでぇ〜」


「お姉さんの所へいらっしゃいっ」


 男女問わず────色々な人に追い掛けられている。冒険者が1番多いが、街の人も俺を捕まえようと躍起になっている。



「嫌だっ!」


 俺は追い掛けて来る人達を拒絶する。



 なんでこんな事になっているかと言うと──

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