第35話 後始末──

「ここ……は?」


「馬鹿ぁぁぁっ!!! 行かないって約束したじゃないっ!!! なんで──なんで行ったのよ……うぅ……」


 目が覚め、痛む体を起こすと、エリーさんが泣きながら俺を抱きしめてきた。


 俺はエリーさんの背中を叩きながら、視線を周りに移す。


 ────ここは──さっき俺が戦っていたゴブリンの集落だな……。


 大将、ダリルさん、テレサさんの顔が視界に入る。


 皆、俺が気が付いた為、様子を伺うように見ている。


「テレサは向こうを頼む。エリーも一緒に行ってくれ……」


「わかったわ……」


「はい……コウキ無理したらダメよ?」


 テレサさんとエリーさんはダリルさん達から離れてどこかへ行く。



 そうか……俺──助かったのか……。


 最後にティナの後ろ姿が見えた気がしたが、あれは幻だったのだろうか?


「コウキ……無事で何よりだ……」


 ダリルさんは心配した意を俺に伝えてくれる。


「中々、良い心構えだったぞ? 後で褒美をくれてやる」


 大将は俺を褒めてくれる。


「……死ぬ寸前だったはずですが、どうやら運良く生き残れましたね……」



「【赤髪鬼】が居合わせたお陰で助かったようじゃな……後で例を言っておけよ?」


 大将の言葉の中にある赤髪鬼って────


「赤髪鬼? ──もしかしてティナ?」



「ん? 知っているのか? Sランク間近のAランク冒険者だ……何で名前をって、まさか──振られた女ってあいつか?!」


 今度は俺の問いかけにダリルさんが答えてくれる。そして、事の顛末を知ってる元恋人だと気付き、驚いた顔をする。


「…………」


 その問い掛けに俺は無言で頷く……。


 そうか……やっぱり、ティナが助けてくれたのか……。


「まぁ……なんだ……あの女より、うちのエリーの方が良いぞ?」


「……彼女の事が────俺はやっぱり忘れられません……死ぬと覚悟した時に思い浮かんだ顔は彼女の顔でした……」


「そうか……エリーも気にかけてやってくれると助かる」


 再度頷いて俺は応える。


「しかし、コウキよ……あれだけ狩ったのだ……。少しは慣れたか?」


 大将が力に慣れたか聞いてくる。


 確かに200匹ぐらいは狩った気がするが──


 ────今でも、あいつらのやってきた事が脳裏に過ぎる。


 だけど──前より少しだけ感情に引っ張られていない気がする。これは慣れたのだろうか?


「…………微妙です……」


 俺は首を傾ける。



「ふむ……しばらく様子を見る事にする……今日はもう一仕事終わったら帰ってゆっくり休め」


 もう一仕事?


「何かするんですか?」


「そうか……コウキは集落の殲滅の経験は────ないか……」


 大将はその先を説明する気はないようで沈黙が支配する。



 ────まさかっ!?



 俺は記憶を手繰り寄せ思い出す。


 この集落には捕まっている女性がいる……それにさっきの女の子もだ……。


「捕まった人達の事ですね……」


「そうだ……今は赤髪鬼とテレサ、エリーが介抱しているはずだ……」


「どうするんですか?」


「────殺す──事になるだろうな……」


「なんでっ!?」


「魔物に強姦された者達は──精神が壊れてしまっている……それに意識がまともにあっても────まともな生活は無理だろう……本人達がそれを望む……見ればわかる……」


 …………そんな……。


「コウキ……これが普通なんだ……だから──お前が気に病む必要はない……」


「ダリルさんっ! なんとかならないんですか!? 大将も何か──何かないんですかっ!?」


 2人は目を瞑り首を横に振る。


「コウキ……とりあえず被害に合った人達を見て来い……あそこにいるはずだ……」


「はい……」


 俺はダリルさんが指差す方向に返事をして向かう。




 近付くにつれて……女性の泣き声や叫び声が聞こえてくる……。


 俺は彼女達のいる場所に足を踏み入れる……。


 ──殺してくれ。


 ──生きたくない。


 そんな言葉が木霊している……。


 俺が助けようとした子もその場いたが、大人しくしている。人数は合わせて3人……。


 俺はその場にいるのが苦痛だ……。


 胸が締め付けられる。



「男はここに来るな……」


 声の主はティナだ……。


「そう……ですね……」


「──お前──よく見たら、あの時の侵入者じゃねぇか! どの面下げてここに来やがったっ! この場で殺してやるっ!!!」


 そんなティナの言葉が更に胸に突き刺さる。


 ────もうティナにとって俺はそんなの扱いなんだな……。


 闘気の込めた拳が俺に向かって放たれる──


「ストップじゃ。コウキを傷付ける事は今は許さん……」


 大将が拳を横から掴み取る。


「レンジ様っ!? 何故こんな奴を庇うのですか! 女の敵は殺して当然っ!」


「────黙れっ。今はこの者達を落ち着かせる事を考えよ……」


 冷たく言い放つ大将はいつもより怖い……だけど、俺と被害者の女性を気遣ってくれる大将に温もりも同時に感じた。



 俺は女性達を眺める──


 彼女達は──辛い目にあった……その事が忘れられない……。


 それこそ、死にたいと望むぐらいに……。


 ────


 俺の力は……記憶を事が出来る?


「──大将……彼女達にゴブリンの子種があった場合は──なんとか出来るんですか?」


「……出来る……この中だと──エリーとテレサが出来るはずだ……」


「……そうですか──なら────」


「コウキっ! お前──「ダリルさん……これしかないんじゃないですか?」──ちっ……」


 そう……これしかない……。


 彼女達の辛い記憶は────そして生きてほしい……。


 これは俺が決めた事……後悔は絶対しない────

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