第34話 休んでる暇なんかない──
記憶の通り、森の中を突き進んだ先にゴブリンの集落を発見した。
「着いた……」
ゴブリンが俺の存在に気が付き叫んで仲間を呼ぶ。
しばらくすると、目の前には軽く100は超えるであろう数がいた。
「お前らは────殺す! 必ずだっ!」
俺は囲まれないように棍棒を持ったゴブリンを次々と斬り捨てて行くが────多勢に無勢。
俺を中心にゴブリンが囲み出す。
残り目の前にいる数は約70匹──
まだだ、これぐらいじゃ──殺された人の無念は晴らせない。
「飛燕」
俺は斬撃を四方に円を描くように飛ばす────
斬撃は密集しているゴブリンを後方まで斬り裂いていく。
目の前にいたゴブリンは斬滅したと思っても──
──ぞろぞろとまた目の前に集まり出す。
今度は剣、槍、杖などの武器を持ったゴブリン共だ……数は20匹ぐらい。
先程のゴブリンより強いのだろう……だが関係ない。
俺は剣に闘気を込め────もう一度、飛燕を使う。
闘気の使いすぎで体に負荷がかかる……胸も苦しいし、息切れもしている。
それでも、止まらない──いや──止まれない。
止まれば脳裏に焼き付いた記憶がフラッシュバックする。
その度に俺の中で憤怒、増悪、快楽などの感情が入り混じる。
さっき大量に狩ったせいで記憶に押し潰されそうだ……このままだと俺が俺でなくなる──
その前に────こいつらだけは絶対に許さない。
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す────
後の事はどうなろうと構わない──
俺の命のある限り────全て殺すっ!
俺は武器を持ったゴブリンを反撃させる間も無く全滅させる。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
限界近くまで闘気を使い息切れが激しくなる。
戦闘音が一旦終わり、少し思考が戻る。
すると今殺したゴブリンから記憶が入ってくる──
────クソがっ……まだいやがるのか……。
記憶の中に大型のゴブリンがいた。
おそらく──ゴブリンキングと言われる個体だろう……。
今の状態の俺では勝てないかもしれない────だが、見捨てられない……。
場所は────
あそこか────
俺は大きな小屋を見詰める。
休んでる暇なんてない──
────拐われたばかりの女の子がいる。まだ手遅れではない。
せめて────逃す。
俺は息を整えながら歩み出す。
「──コウキっ! どこに行くの!? もう終わったんでしょ!? 帰ろう!」
どうやら……エリーさんだけが追い付いたようだ。遠くの方で爆発音はまだ聞こえてくる。ダリルさんとテレサさんが大将と戦っているのだろう。
「ゴブリンキングらしき奴があそこにいる……殺す……」
「────!? ダメよっ! 私達じゃ勝てない……討伐ランクAよ?! お父さん達を呼んでくるわっ! ここで待ってて!」
「……わかった……呼んで来てくれるか?」
「先走ったりしないでね?! 絶対だからね!」
「あぁ……」
俺の返事を聞いたエリーさんは来た方向に戻って走り出す。
これで──邪魔者はいなくなった。
待っている時間は──ない。
この先も、こんな苦しい思いするなら──ここで俺は魔物に挑んで────散る。
もうどうでもいい……。
せめて──せめて、捕まっている子だけは俺が助け出す。
俺は小屋の前に立ち──残り少ない闘気を纏い直す。
「やめてぇぇぇぇっ!!!」
女性の声。
「そこまでだ」
俺は中に入り、そう言うと目に入ったゴブリンキングは止まり──こちらを睨み付ける。
「ニンゲンガナンノヨウダ」
喋れるのか……やはりただのゴブリンキングではなさそうだ……。
俺の言葉も理解しているようだな。
「お前を殺しに」
俺は短く答える。
「ヤッテミルガイイ……クッテヤル……」
ゴブリンキングはこちらに歩きながら、近くにあった剣を抜き、振り下ろす。
俺は足に闘気を込めて──脇をすり抜け、先程叫んでいた女の子の前に立つ。
「動けるか?」
「はい……」
「なら、俺が戦っている間に逃げろ。もうすぐしたら俺の知り合いが来るから保護してもらえ……」
俺は女の子にそう言い、ゴブリンキングに向かい合い抜刀の構えを取る。
刀に比べると剣速は遅いだろうが──相手の力量がわからない……一撃に俺の全てを賭ける。
その間に逃げてくれる事を祈る──
「シネッ」
俺は迫り来るゴブリンキングに対して、闘気を剣に纏い──そして抜く────
俺の──全力だ────
ギンッ
その一撃はゴブリンキングの剣により止められ──お互いの剣は拮抗する。
──ちっ、届かないか……。
俺は女の子いた方向を一瞥する。
まだ逃げていない……。
「がはっ──」
俺はゴブリンキングの拳を腹部に受けて小屋を突き破り、外まで吹き飛ばされる。
体中が痛くて──うつ伏せに倒れた状態から起きる事が出来ない。
足音が聞こえる──立たなければ。
「ぐぅっ……」
回復魔法をかけながら──立ち上がろうとした瞬間に今度は顔面にゴブリンキングの蹴りを喰らい──地面を転びながら吹っ飛ぶ。
「ザゴガ……オマエハ──イキタママクウカ」
「うぅ……」
俺は頭を掴まれ持ち上げられる。
────ここまでか……。
俺は────弱いな……。
女の子が逃げてくれているといいな……。
これで死ぬのは2回目か……不思議と別に怖くはない。
こいつを殺せなかったのは俺の力不足だ。
だけど────なんで、なんで────
最後の最後で────ティナの顔が頭を過ぎる?
ティナ……俺が生まれて初めて一目惚れした人……。
あぁ、もう一度会いたいな……。
「ナニヲワラッテイル?」
ゴブリンキングの醜悪な顔が映る。
「別に?」
俺はニヒルに笑いながら────
「ナ──!? グオォォォッ! キサマァァァッ」
俺は最後の力を振り絞り闘気を指先に集めて────白色の針状にして、ゴブリンキングの目に向けて突き刺す。
────やれば出来るもんだな……夢が膨らむな────次があれば──だが……。
「往生際は悪いんだよ──このカスが……」
「グガァァァァァッ」
俺は頭を掴まれた状態から背部を地面に叩きつけられる。
もう──痛みは感じない。
体も動かない……。
おそらく────放っておいても、そのうち死ぬだろう。
ティナ……お前の顔を思い出せて、少し力が湧いたよ──
────ありがとう。
ゴブリンキングは剣を上段に構えて振り下ろす────
「────シネっ」
俺は目を瞑り、その時を待つ。
……だが、未だに剣が俺に当たった感じはしない。
目を開けると────目の前に赤髪の女性……。
ティナが大斧で俺を庇い防いでいた……。
最後に会えた……。
一筋の涙が俺の頬を伝う……。
俺の意識はそこで途絶えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます