第28話 出口はそこだっ!
「おっと、すまんすまん──コウキの事を忘れてたわい……」
大将がそう言ってくれるが、既に結構な時間が過ぎていた。
でも、大将の方が俺に気を使ってくれている……。
「大将……俺──大将について行きます!」
「ちょっと待てっ?! コウキ、お前俺の弟子になったんだよな!?」
ダリルさんはそう言いながら割り込んで来た。
正直言って弟子になった覚えはないが、教え子の立場は弟子だと言うのであればそうなんだろう。
「仮に師匠だとしても──師匠の師匠であれば別に問題ないでしょう? ダリルさんの訓練だと俺がいつか死にます。今までありがとうございました」
「いや、お前は誤解している──そこのクソ親父の修行受けるとか正気じゃないぞ!?」
「ダリルよ……お前は弟子の信頼を得てないのか……なんとも悲しい奴よな……」
大将は哀れみの視線をダリルさんに向ける。
「あんたに言われたくないわっ! コウキ──考え直せっ!」
何でそんなに止めてくるんだろ?? 大将めっちゃ良い人だぞ?
いや、ダリルさんも訓練じゃなかったら良い人か……。
まさか──
俺は疑問に思った事を大将に聞く。
「大将……ちなみに──さっきの対応策とは?」
「ん? あぁ、ただ────ゴブリンやらの魔物を討伐し続けるだけだな。わしがさっき言った通り、慣れるしかない」
俺は血の気が引いていく……。
ダメだ──この人に訓練を受けたら俺の精神は死ぬ。
「大将……この話は無かった事にして下さい。ダリルさん──俺はやっぱり貴方について行きます。これからもよろしくお願いします」
「おっ、おう……変わり身はえーな……」
「という事で、大将また明日から仕事よろしくお願いします──」
「待てい!」
俺が去ろうとした瞬間に引き止める大将。
「嫌ですっ!」
間髪入れずに断る俺。
「まぁ、聞け……」
「…………」
俺は真剣な眼差しの大将に耳を傾ける。ダリルさんは様子を伺っている。
「わしは元剣聖……ダリルとは親子であり──師弟関係でもある」
「はい、話から察してました」
「つまりだ……仮にでもダリルの弟子であるお前は──わしの孫弟子になるわけだ」
「そうですね……」
「それは──わしの弟子と言っても過言ではない。さっきコウキも言っていたではないか?」
「…………」
痛い所を突いてきたな……確かに俺はそう言った。
「よって、お前には2人の師匠がいる事になる。良かったな!」
何が良いんだよ!?
ダリルさんの話から察するに────それ地獄が2倍以上になるだけじゃね!?
俺が良くねぇよっ!
ダリルさんも確かに!
──みたいな顔するなよ! 脳筋か!?
「いや、ダリルさんだけでいいです」
「大丈夫だ。わしは模擬戦してもちゃんと手加減するし──基本は横から口しか出さん────恋愛のいろはも変わらず講義してやる。それに──嫌なら嫌で言ってくれたら考慮ぐらいするわい」
むむ……大将なりに、かなり譲歩してくれてるのか……。
「わかりました……」
「コウキ、お前ならそう言ってくれると信じてたぞ!? わし暇なんじゃ。良い暇潰しが出来て満足じゃ!」
そこは声に出してほしくなかったな……暇潰しかよ……。
「ちなみに大将は何で剣聖辞めたんですか?」
ダリルさんの話では世間では辞めていない扱いらしいが気になったので聞いてみる。
「ん? あぁ、毎日──鬱陶しい連中から連絡が来て面倒臭いからのぅ」
「鬱陶しい連中ですか?」
「そうじゃ、王族とか貴族とか面倒臭いだけじゃな」
それは面倒臭そうだが、大将パネェな……王族や貴族を面倒臭い扱いか。
昔に国相手に武力で制圧したぐらいだし、そんなものか?
「そうですか。ちなみに先代はどうしたんですか?」
やはり継承されたんだろうか? なんとなく聞いてみた。
「んなもん殺したに決まっとるだろ。弱い奴なんて価値もない」
ドンッ
大将の言葉を聞いた瞬間に────床を踏み込みんだ衝撃音がその場を支配する。
その犯人は────俺だ。
闘気を足に込めてその場を離脱する為に出入り口に向かい走る。
これが────俺の今までの人生で最速だっ!
本能が──大将から逃げろと警鐘を鳴らす。
「「逃すか!!!」」
ダリルさんと大将がほぼ同時に動き出す。
逃げれる可能性は皆無かもしれない────
だがっ!
逃げ切れないとか──そんな事は関係ないっ!
逃げるのを諦めたらそこで全てが終わるっ!
行動を起こすなら今だっ!
俺は────逃げるっ!!!
出口は直ぐそこだぁぁぁぁぁっ!!!
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