第25話 魔物を狩ったら──

 しばらく休憩していると──



「「「ごぶっ」」」


 ゴブリンが3匹現れる。


「ダリルさん、敵です」


「よしっ、もう動けるだろ? 行けっ」


「吐きたくないんでお願いします」


「コウキ……情けない事を言うな……今こそ戦う時だ! 女の敵を皆殺しにしてこいっ! そして──思う存分吐いて来いっ!」


 ……殺すのに慣れてないんだよ……まだ手に感触が残っていて気持ち悪いからパスしたい。


 しかし、確かに駆逐してしまった方が良いんだろうな。女の敵は俺の敵っ!

 いつか俺の彼女になってくれる人が被害に合うのは許せぬっ!


「そうですね! 未来の彼女がゴブリンに被害に合わないように殲滅しますっ!」


「おうっ、頑張って殺して来いっ! 明日からはゴブリンを毎日10匹以上は狩るから準備運動みたいなもんだ」


 毎日殺すの!? しかも10匹以上!?



「ダリルさんは鬼か何かですか?」


 もう少し優しくしてほしい……。



「いや、俺は九刃だ」


 答えになってねーしっ!



「はぁ……とりあえず行ってきます」


 俺は戦闘に集中する──闘気を纏い、剣を抜いて構える──


 構えると言っても──剣を両手で握って前に出す、正眼の構えだ。


 他にどんな構えがあって、それにどんな意味があるのか全く知らないからな! ぶっちゃけ正眼の構えもなんとなくだ!


「「「ごっぶっ」」」


 ゴブリンは一斉に三方向から棍棒を使って襲いかかって来た。


 ダリルさんに比べてかなり──遅い……目に闘気を込めているのも関係しているのかもしれないが。


 これぐらいなら普通に対応出来るな。


 それにこれは世の女性の安全確保の為と俺の身を守る為だ! 


 俺は剣を横薙ぎに振り──一番近い、ゴブリンの首を切り飛ばす。


 ────!?


 その時──俺は1回目に殺した時に感じなかった出来事が起こる。


 ────


「ぐぅ……これは────許さねぇ……皆殺しにしてやる……」



 血が噴き出すゴブリンに、他のゴブリンが気を取られている内に即座に懐に入り────残りの2匹を斬り伏せる。


「…………やはり──魔物は害虫だ……根絶やしにしてやる……」


 俺は闘気の発動を止める。


 俺の感情は怒りにより高ぶっている。



「よくやった──躊躇わなかったのは褒めてやる……これが命のやり取りという事を忘れるな……もし、躊躇えば──殺される……それが魔物であれ、人であってもだ……ただ──お前の様子がおかしかったが、何かあったか? それと何で泣いている?」


「──!?」


 ダリルさんのその言葉に────涙を流している事に気付く。



「…………ゴブリンを殺した時────記憶が俺の中に入って来ました…………この──ゴミ屑が女の子を犯し、残酷に殺す──そんな記憶が……」


「────! その力は殺しても発動するのか?!」


 俺は頷いて応える。



 首を斬り飛ばした時──あれは確かにゴブリンの記憶だと確信した。


 初めて殺した時は特に何も感じなかった────だが今度は鮮明に残酷な記憶が残る……。


 記憶の流入はキスした時、触れた時──そして、殺した時は起こるのか……。


 キスした時は能力のコツと引き換えに己の記憶が失われ、選んだ記憶を消す時は俺の体に不調が起こる。


 記憶の流入だけなら触れた時、殺した時に見る事が出来る────おそらく、この時に流れ込んで来る記憶は対象が印象に残っている記憶なのかもしれない。


 何でこんな力を俺に剣神は与えたんだ?


 わからない……。



 あぁ──くそっ! 違う事考えていても、女性の叫び声と映像が……今も頭の中に残る……。


 魔物は悪だ……絶対に許さない……無念に散った者達の苦悶の表情が離れない……。


 あんな事──あって良いはずがないっ!


 手の届く範囲で良い……あんな事が起こらないように必ず────殺す!


 少しでも悲しみを減らす──それが俺に出来る事……。



 ────いつか……ダリルさんの言うように……人と命のやり取りをする時が訪れるかもしれない……。


 だけど、覚悟だけはしておかなければならない。


 躊躇えば死ぬ──


 平和な生活を送っていた俺には人の命は重すぎるし、この力の事もある。


 そんな事が来ない事を祈りたい。



「ダリルさん……俺は必ず……強くなります。せめて──俺の手の届く範囲ぐらいは守りたい……」


 全てを守るなんておこがましい事は言わない。


「あぁ、お前が何の記憶を見たのかなんとなく察しがつく────だが、お前自身を守る事も頭の片隅に置いておけ──今日は帰るぞ」


 俺は真剣に頷いて返す。




 ただ──


 命を奪った時──


 俺は確かに心の奥底で──


 ────言葉で言い表せない感情を感じた……。



 あの感情は歓喜? それとも恐怖?



 記憶が流れてきた時の記憶を考えながら、俺は街に戻る為に歩き出す。

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