久しぶりの再会
待ちに待ったナゴーンの港町が見えてきました。
お忍びだった前回と違って、港町には黒ドラちゃんたちを歓迎するノボリや旗、リボンなどが漁船や建物や木々にたくさん飾られています。
「おおーいラウザー!こっちじゃこっちじゃ!」
「あ、じいさん!元気だったか!」
前回、黒ドラちゃんたちに真珠のお土産をくれたおじいちゃんが、たくさんの人たちと一緒に一行を出迎えてくれました。ラウザーは、ひと足早く飛んで船から下りて、おじいさんに飛びついて喜んでいます。
「すごい歓迎だな!ありがとよーっ!みんな、ありがとよーっ!」
何度も港町を訪れたことのあるラウザーは、周りを取り囲む人たちに親しげにお礼を言いながら、尻尾を大車輪のように回していました。
そこへようやく船を下りてきた残りのメンバーが追いつきます。
「陽竜様、ちょっと落ち着いてくださいね」
リュングが慣れた様子でラウザーの尻尾を踏みつけると、勢いよく回っていた尻尾の大車輪が止まりました。
「みなさま、この度は我々をこのように温かく出迎えて頂きありがとうございます」
リュングが深々とお辞儀をします。
「前回はきちんとご紹介できませんでしたが、こちらがバルデーシュの古の森の主、古竜の黒さまです。そしてバルデーシュ王太子妃の侍従長、ノーランド魔ウサギのグィン・シーヴォ様とドン様、そのお子様の双子のマシルくんとグートちゃんです」
リュングがかしこまって紹介してくれるので、何だか黒ドラちゃんも背筋を伸ばさなきゃいけない気持ちになりました。
と、その時目の前をサッと黄色と黒が横切りました。
「ぶいん!!」
あ、モッチです。そのままリュングの周りをぐるぐるとすごい勢いで飛び始めました。
「あ、申し訳ありません。まだご紹介する方がいらっしゃいました!」
あわててリュングが話し出すと、ようやくモッチは落ち着いてリュングの頭に止まりました。でも、モジャっているので埋もれそうです。飛び上がってラウザーの頭に止まり直しました。
「こ、こちらは古の森のクマン魔蜂のモッチさんです。みなさまがよくご存じのホーク伯爵が大事されているニクマーン型のはちみつ玉ハッチは、このモッチさんが作られました」
ニクマーン型のはちみつ玉の話は、ホーク伯爵領では有名になっていました。今や港町でも知らない人はいないのです。
「ほおっ!あのハッチの生みの親か!」
「へえ、すごいのね。それに大きいわね、羽はあんなに小さくて飛べるなんて」
「ぶぶいん!」
おどろく人々の前で、モッチが得意そうに羽をならします。
そして、どこから取り出したのか鮮やかなピンク色のはちみつ玉を掲げて見せました。
「まあ、キレイ!」
「甘い香りがする!」
「ぶっぶい~~ん♪」
モッチはラウザーと向き合うおじいさんにはちみつ玉を渡します。
「え、これをわしに?いや、でも……」
「ぶいん!」
「もらっとけよ!モッチのはちみつ玉はすごいんだぜ。なめたらきっともっと元気で長生きできるぜ、じいさん」
ラウザーがぐいぐいとはちみつ玉を握らせると、遠慮していたおじいさんもようやくはちみつ玉を受け取る気になったようです。
「ありがとう。嬉しいよ」
周りで見ていた人も拍手しています。おじいさんが港町でとても大切にされているようで、黒ドラちゃんたちは嬉しくなりました。
ラウザーの後ろで優しく見守っていたリュングが、ふと遠くへ視線を移しました。
「陽竜様、どうやら迎えの馬車が来てくれたようですよ。着いて早々にお暇することになってしまいますが、あちらでもきっと歓迎の準備をされているはず。ホーク伯爵領に向かいましょう」
ラウザーにそっとささやくと、今度は少し大きな声で周りに集まった人たちによびかけます。
「みなさま、どうやらお迎えが到着のようです。本当にありがとうございます。こちらは帰りにもぜひ寄らせて頂きますね」
リュングが話すと周りの人垣が少し大きめに広がりました。
そこへ二台の馬車が到着しました。
黒塗りで金の装飾がされた、見るからに高貴な人が乗っていそうな馬車です。そこからホーク伯爵が降りてきました。劇場のゴルド座長も後に続きます。
「ホーク伯爵!、ゴルドさん!」
黒ドラちゃが嬉しそうに駆け寄ると、ホーク伯爵は丁寧に礼をしてくれました。
それから、一緒にいるメンバーひとり一人に目礼をしてくれます。
と、ホーク伯爵の目があるメンバーの前でピタリと止まりました。
「モッチ、殿かな?」
「ぶぶいん!」
一人と一匹で静かに見つめ合います。伯爵がふっと微笑みました。
モッチがラウザーの頭の上から飛び上がり、伯爵の周りを2回ほどクルクルと回ってから、肩にとまりました。どうやらそのまま行くつもりらしいです。
「お迎えにまいりました。劇場ではラマディーたちも待っております」
ごく自然な感じでモッチを肩にとめたまま、伯爵が一行を促すと真っ先に黒ドラちゃんが歩き出しました。
「ラマディー!会いたいよ!」
「劇場は久しぶりですな」
食いしん坊さんたちも続きます。
ラウザーとリュングは二台目の馬車にゴルドさんと乗り込みました。馬車の中から港町の人たちに手を振ります。
港町の人たちに見送られて、一行はホーク伯爵領へと出発しました。
********
「あ、見えてきた!劇場が見えてきたよ!」
「ぶいん!?」
「なんか、前よりも大きくなってない?」
「おわかりになりましたか。古竜様達のご訪問の後、バルデーシュや遠くノーランドからも我が劇場を訪れてくださるお客様が増えたのです。それで、劇場にホテルも併設し建て増しを行いました」
「へ~!ノーランドからも!?すごいね!」
以前見た時には無かった建物がすぐそばに建っています。劇場自体も大きくなったみたいでした。
そのホーク伯爵の劇場前には、たくさんの人が出迎えてくれていました。
馬車から降りてきた一行の前に、ひとりの青年が進み出てきました。背が高くすらっとして、茶金の髪を短く整えた笑顔の爽やかな青年です。
「お帰りなさい。ホーク伯爵様、ゴルド座長。そして再びようこそ!みなさま」
ニコニコと嬉しそうに両手を広げて歓迎してくれていますが、ちょっと見覚えがありません。黒ドラちゃんが困ったようにキョロキョロしていると、人垣の後ろからラマディーのお姉さんのアーマルが現れました。
「あ、アーマルさん!」
黒ドラちゃんが嬉しそうに名前を呼ぶと、目の前の青年が悲しそうに肩を落としました。
「え、アーマルの名前を覚えているのに、俺のこと忘れちゃったんですか?」
「えっと、あの、アーマルさん、ラマディーはどこにいるの?」
どう答えたら良いのかわからなくて、とっさに黒ドラちゃんが会いたかった子の行方をたずねました。
すると、目の前の青年が目を見開きます。
「ここです」
「?」
「俺です、ラマディーです!」
「ええ―――っ!」
黒ドラちゃん、ドンちゃん、食いしん坊さんの声が重なりました。
目の前の青年の肩に、アーマルがそっと手を置きます。
「ラマディー。皆さんがわからないのも無理ないわ。あなたこの2年ですっかり大きくなっちゃったから」
ラマディーと名乗った青年を、もう一度黒ドラちゃんは見つめました。金に近い茶色の髪、整った顔立ち……そう言われてみれば、最初にあった時には女の子と間違えちゃうくらい可愛かったんです、ラマディー。
「ラ、ラマディー?」
「はい!」
青年が心の底から嬉しそうに笑って、その表情に前回の時のラマディーの面影が重なりました。
「本当だ!ラマディーだ!」
「はい!」
嬉しそうに見つめ合う黒ドラちゃんとラマディーの間に、ラウザーがひょこっと顔を出しました。
「ったく心配させるなよな、黒ちゃんもラマディーも」
「っていうか、ラウザーはどうしてラマディーがこんなに変わっちゃったこと教えてくれなかったの!?」
黒ドラちゃんが問い詰めると、ラウザーが不思議そうな顔をします。
「変わった?こいつそんなに変わったかな?」
ふざけているわけでは無くて、本当に不思議そうに首をひねっています。
「古竜様、お許しください。陽竜様は本当にわからないんだと思います」
「えーっ!?」
黒ドラちゃんの疑うような声に、リュングが頭を下げながら続けました。
「陽竜様は、前回の訪れの後にも割と頻繁にホーク伯爵領にも顔を出されていました。段々と成長していくラマディーの様子を見ていたため、2年ぶりに会われた古竜様ほどには、変化がわかりづらいのだと思います」
「そうなの?」
「そうみたいだな~」
まだちょっぴり納得できない黒ドラちゃんに、のんびりとラウザーがこたえます。
「若者の成長はめまぐるしいですからな。特に人は我らと違って早い時を生きる」
食いしん坊さんが感慨深げにつぶやきます。
黒ドラちゃんは、ラウザーと仲良しの港町のおじいさんのことを思い出しました。出会った時は赤ちゃんだったって言うのに、今はおじいさんです……
「ラ、ラマディー、すぐおじいちゃんになっちゃうの!?」
「え、ええ!?」
突然黒ドラちゃんに泣きつかれて、ラマディーが戸惑っているとホーク伯爵が笑い出しました。
「あまり心配されませんように、古竜様」
「でも、でも、」
「我らが皆様よりも早く歳を取ることは必然のこと。けれどさすがに今日、明日どうにかなるほど早くはありませんぞ」
「そ、そうなの?」
「もちろんです!」
黒ドラちゃんの問いかけに、ラマディーがぶんぶんと大きくうなずきました。そして、劇場の前の人垣を振り返ります。
「古竜様ご一行の到着を、みんなでとても楽しみにお待ちしておりました。あれから2年、どうぞ我らの芸をぜひ見ていってください!」
「うん!劇場のみんなにまた会えるのが、あたしたちもすごく楽しみだったんだ!」
黒ドラちゃんが明るい笑顔に戻ると、辺りの雰囲気も一気に盛り上がりました。
ラマディーの案内で、黒ドラちゃんが劇場へ向かって歩き出します。
ラウザーとリュング、そしてホーク伯爵と一緒に食いしん坊さんたちが続きました。
「今日は劇場で特別な催し物を予定しております」
そこでいったん言葉を切ったホーク伯爵は、食いしん坊さんとドンちゃんにウィンクをしました。
「何しろ特別ゲストもお呼びしておりますしね」
「!」
食いしん坊さんとドンちゃんのお耳が嬉しそうにピーンと伸びました。
ぜひノラウサギダンスを披露して欲しいと言われたも同然です。
食いしん坊さんが胸を張ってマシルとグートに話しかけました。
「いいかい、今夜はママとパパで素晴らしいものを見せてあげるからね。楽しみにしているんだよ」
「いずれ、あなたたちもきっと、一緒に踊る相手に出会えると思う。だから、しっかり見ていてね」
ドンちゃんも二匹に言い聞かせるように語りかけました。
新婚旅行で訪れたホーク伯爵領。
今度は家族旅行で再びの訪問です。
(ノラウサギダンスの名を、その素晴らしさをこの子たちに、そしてナゴーン人々の胸に刻むんだ!)
食いしん坊さんとドンちゃんは、力強くうなずき合うと、劇場へ向かって歩き出しました。
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