第272話-雪蜜リンゴとおめでたいお話
「カモミラおーたいしし、ドーテさん、いらっしゃい!」
「ぶふいん!」
黒ドラちゃんがドスンッと降り立つと、鎧の兵士さんがササッと後ろに下がり場所を空けてくれました。カモミラ王太子妃は、黒ドラちゃんの言い間違いを聞いても楽しそうに微笑んでくれています。
「黒ドラちゃん、モッチ、迎えに来てくれてありがとう」
「今日はどうしたの?遊びに来てくれたの?」
黒ドラちゃんが目をキラキラさせながらたずねると、ドーテさんが後ろの鎧の兵士さんからカゴを受け取って、黒ドラちゃんたちの方へ見せてくれました。
「ノーランドのモーデから、雪蜜リンゴがたくさん送られてきたのです。それで、たしか古竜様が大好きだとおっしゃっていた覚えがあったので、ぜひ食べていただきたくてお持ちしました」
ドーテさんが両手でやっと抱えられる位の大きなカゴの中には、ツヤツヤとした雪蜜リンゴがたくさん入っていました。
「うそーっ!ホントに!?こんなにたくさん、良いの?良いの?」
黒ドラちゃんが大興奮でドーテさんとカモミラ王太子妃の顔を代わる代わる見ると、二人は大きくうなずいてくれました。黒ドラちゃんはカゴを受け取って、甘い匂いを思いっきり吸い込みます。モッチも黒ドラちゃんの頭の上から飛び立って、かごの上をくるくると嬉しそうに飛び回りました。
「すごいね!こんなにいっぱい雪密リンゴがもらえるなんて、夢みたい!」
「良かった。古竜様がこんなに喜んでくださったと知ったら、きっとモーデも喜びます」
「うん!ありがとう!モーデさんにもありがとうって、伝えて!」
「はい。古竜様からのお言葉が、あの子にも何よりの祝いになると思います」
「うん!……うん?お祝い?」
「あ、はいっ、すみません、今日はそのこともお話しようと思っていたのです」
「そのこと?」
「はい。実はノーランドにいるモーデが結婚することが決まりまして」
「えーーーーーっ!モーデさんが!?」
「ぶっぶい~~~ん!?」
黒ドラちゃんがびっくりして大きな声をあげると、モッチも驚いてクルクルとせわしなく辺りを飛び回りました。
「ごめんなさい、やはりびっくりさせちゃったわね」
カモミラ王太子妃が、少し困ったようにドーテさんと顔を見合わせてから、話しかけてきました。
「え、え、え、モーデさんは誰と結婚するの?どこの王子様?」
「いえ、古竜様、モーデは王子様とは結婚いたしません」
ドーテさんがちょっととまどいながら答えてくれました。
「え、王子様と結婚するんじゃないの!?」
「ぶぶいん!?」
相手が王子様じゃないと聞いて、モッチも驚いています。
「だって、結婚て王子様とするんだよね?」
黒ドラちゃんがカモミラ王太子妃にたずねると、カモミラ王太子妃は「まあ!」と驚いたように笑ってから答えてくれました。
「黒ドラちゃん、私がスズロ王子と結婚したから、そう思ってしまったのかしら。でも結婚てね、みんながみんな王子さまと結婚するわけじゃないのよ?」
「え、そうなの?」
「ええ、だって、王子様じゃなくてもステキだな、と思う人がいれば結婚する人はたくさんいると思うわ」
「同じように『お姫様じゃなくても可愛いなぁ、結婚したいなあ』って思う人もいるってこと?」
「ええ、もちろんそうよ」
「そっか、そういえばそうだよね。あたしったら、勘違いしちゃった!」
黒ドラちゃんが照れ笑いをすると、同じように勘違いしていたモッチも、どこからか白い布を出して汗を拭いています。
「モーデの結婚相手は、古竜様もご存知のノラウサギ博士、あの博士のお孫さんです」
「え、あたしがノラクローバーを探しに行った時に、一緒に王宮の森に行ってくれたおじいちゃん博士?」
「ええ、博士のお孫さんは、ノーランドで騎士をしております。ひょっとするとその時にもご一緒させていただいていたかもしれません」
「そうなんだ!モーデさんは騎士さんと結婚するんだね。いいなあ。モーデさんのドレス姿見てみたいなぁ」
黒ドラちゃんがつぶやくと、カモミラ王太子妃がちょっといたずらっぽく微笑みながら不思議なことを言い出しました。
「あのね、黒ドラちゃん、モーデの花嫁姿は見られないかもしれないけど、同じくらいにステキな花嫁姿は見られるかもしれないわ」
「同じくらい、ステキな花嫁姿?」
「ぶぶいん?」
黒ドラちゃんとモッチが首をかしげると、なにやらドーテさんが慌てだしました。
「いえ、ちがいます!あ、ちがわないけど、ええと、その」
「ドーテさんどうしたの?」
「あの、そのっ」
何だかドーテさんが赤くなって口ごもっています。横からカモミラ王太子妃がぐっと身を乗り出して、黒ドラちゃんに教えてくれました。
「ドーテも結婚するの」
「ええ~~~~っ!!」
「ぶぶい~~~ん!!」
黒ドラちゃんもモッチもさっき以上にびっくりしました。思わず二匹でドーテさんにぐぐぐーい!と近づきます。
「あの、その、そうなのです。ええと、そんなに驚かれました?」
ドーテさんが逆にちょっとびっくりしながらたずねてきました。
「だって、モーデさんとドーテさんが一緒に結婚するなんて!」
「ぶぶいん!」
「あ、いえ、一緒にというわけではありません。モーデはノーランドで式を挙げますし、私はバルデーシュで式を挙げる予定ですので」
「うんうん、わかってるわかってる!一緒っていうのはね、双子だから結婚する時期も同じなんだね、ってこと」
「ぶいんぶぶいん!」
「あの、時期については、なんとなく、その、モーデの結婚が決まったことで、私とゲルード様の婚約期間も区切りをつけても良いのではないか、ということになりまして」
「ゲルードと婚約してたの!?」
「ぶぶいん!?」
黒ドラちゃんもモッチも、これには本当に驚きました。思わず二匹でポカーンとドーテさんの顔を見つめます。
「は、はい。幼いころから決められておりました」
そう言いながら、なんだかドーテさんの表情が曇っています。
「そっか。そうなんだね……」
「ぶぶいん……」
黒ドラちゃんとモッチは目を合わせると力強くうなずきました。
「大丈夫!あたしたちがきっとドーテさんを助けるよ!」
「ぶぶいん!!」
「えっ?」
いきなりのお助け発言にドーテさんが目を丸くします。
「ドーテさん、あたしがブランに話してゲルードとの結婚は無しにしてもらうから!」
「ぶぶいん『ぶぶ』ぶいん!」
「ね、モッチもゲルードに『ダメ』って言ってくれるって!」
「ええっ!?」
ドーテさんがびっくりして声をあげました。
「ちょ、ちょっと黒ドラちゃんたち、どうしたの?なぜ結婚を反対するの?」
あわてて横からカモミラ王太子妃が黒ドラちゃんにたずねてきます。
「だって、ドーテさん嫌なんでしょ?そうだよね、ゲルードったら見た目はお姫様みたいにきれいだけど、頭の中は魔術とスズロ王子のことしか入ってないもんね!」
「ぶぶいん!ぶいん!」
「そうそう、話し方もおじいちゃんみたいでなんだかわかりにくいし偉そうだし!」
「……ぶいん」
「うん、まあ、良いところもあるけど……」
「ぶぶ、ぶいん!」
「そうだよ、それでも嫌がるドーテさんをお嫁さんにするなんて許せない!」
「えっ」
「まあ!」
黒ドラちゃんとモッチの話を聞いて、ドーテさんとカモミラ王太子妃が顔を見合わせました。
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