第182話-お礼の品

 ロド王とアズール王子は、マグノラさんの森へ寄り、最後に黒ドラちゃん達のいる古の森へやってきました。ゲルードが案内でついてきてくれたので、いつものように鎧の兵士さん達のガチャガチャと言うにぎやかな音が森に響きます。

 黒ドラちゃんはすぐにその音に気が付きました。

「ねえ、ドンちゃん、ゲルード達が来たみたい。迎えに行ってみよう!」

 そう言ってドンちゃんを背中に乗せると、まっすぐに森の上を飛んで行きます。すぐに、ゲルードを先頭に鎧の兵士さん達が進んでいるのを見つけました。その列の中に見慣れない姿を見つけて、ドンちゃんが黒ドラちゃんに聞いてきます。

「ねえねえ、黒ドラちゃん、あの髭モジャのずんぐりしたおじさんてさあ……」

「ロド王だ!!」

 黒ドラちゃんが叫ぶと、下を歩いていた兵士さんやゲルードが一斉にこちらを見上げます。あわてて下に降りると、ゲルードがいつものようにひざまずいてお辞儀をしてくれました。

「古竜様、ご機嫌麗しゅう。本日はエステン国のロド王とアズール王子をお連れしました」

「えっ!アズール王子!?どこ!?」

 黒ドラちゃんはキョロキョロして王子の姿を探しましたが、見つけられません。その場にいるのはロド王とお連れのドワーフさん数人だけです。


「古竜様、お久しぶりです」


 ロド王の一番近くに居たドワーフさんが、黒ドラちゃんに懐かしそうに挨拶してくれました。その瞳は優しそうなフジュの色、落ち着いた低い声。そうです、間違いなくアズール王子です。でも、わずかな間で体ががっしりとして、髭もさらにモジャっぷりを上げています。背も高いアズール王子は、他のドワーフさんに負けないくらい、いや、それ以上にどっしりした貫禄が付いています。


「ア、アズール……王子?」

 どちらかというと繊細で陰のある感じだったアズール王子が、明るい笑顔で黒ドラちゃんのことを見つめています。


「よ、ようこそ!古の森へ!あの、モッチも喜ぶと思うから、森の奥へどうぞ!」


 ロド王一行を湖のそばの大きな木のそばまで案内すると、ちょうどモッチが森の奥から飛んできました。


「ぶいん?」

 今日はやけに人数が多いね、なんて首をかしげています。

「モッチさん、お久しぶりです」

 アズール王子が声をかけると、モッチはすぐに王子の元へすっ飛んできました。黒ドラちゃんもドンちゃんも感心しています。ゲルードが言いました。

「さすが、アズール王子ファンクラブ第1号、多少見た目が変わろうと惑わされないようですな」

 するとモッチが「ぶぶいん、ぶぶぶいん!」と答えます。

「ああ、なるほど、そうでしたか。これは失礼いたしました」

 ゲルードが何かモッチに謝っています。


 アズール王子が不思議に思ってたずねると、ゲルードが教えてくれました。

「モッチ殿は、自分はファンクラブ第2号だとおっっしゃたのです。勝手に第1号を名乗るような不届き者ではない、と」

「え、じゃあ第1号って……」

 アズール王子の顔が赤くなり始めました。誰かを思い浮かべているのかもしれません。


「ぶぶいん!」

「エステンコーモリのキーちゃんが第1号だそうです」

 ゲルードがモッチの説明を伝えると、アズール王子はあからさまに落胆しました。


「そ、そうか、あの子か。嬉しいな」

 それでもアズール王子は瞬時に立ち直って優しげな微笑みでモッチを見つめます。体だけでなくメンタルもだいぶたくましくなって来たようです。


「うちのコーモリと、こいつが世話んなったって聞いたもんで、お礼の品を持って来たんだで」

 ロド王がそう言うと、鎧の兵士さんたちが後ろの方から手に手に大小の箱を持って現れました。


「木箱?」

 黒ドラちゃんが不思議そうにつぶやくと、ロド王の目が楽しげにキラリッ!と光りました。

「ただの木箱じゃねえど、音色小箱だで。アズールが造った特別製のカラクリだ。開けてみな」

 ロド王の言葉に、黒ドラちゃんは目の前の切り株に置かれた一番大きな木箱を手に取りました。ただの箱にしては、蓋にも美しい模様が彫り込まれています。いったい何が入っているんでしょう?黒ドラちゃんはワクワクしながら蓋を開けました。すると、澄んだ音色が辺りに流れて行きます。

 箱の中を見つめて、何も言わない黒ドラちゃんを不審がって、ドンちゃんが背中から身を乗り出して箱の中を見ました。そこには古の森がありました。森に囲まれた碧の湖のそばに、黒い竜の子どもが立っています。その周りをクマン魔蜂がくるくると飛び回り始めました。一周すると竜の子どもの足元から、切り株に乗った茶色いウサギが現れます。


 黒ドラちゃんの古の森が、まるで魔法のように箱の中に再現されていました。

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