第141話-これって、あたし?
バルデーシュの国が用意してくれた船は、大きくて豪華な造りになっていました。竜の姿で乗り込んでも耐えられるように頑丈な造りにもなっているそうです。漁師さんが乗るような船を想像していた黒ドラちゃんは、びっくりです。でも、不思議なことに、船には全く人の姿が見えません。羽ばたいて、船の上を見回すと舵の部分の床には魔石が敷き詰められています。
「この船は魔力で動きます。ゲルード様から特別に術を教えていただきました」
リュングが誇らしげに教えてくれました。
「すごいね、この魔石、ブランが用意してくれたんでしょう?」
「ああ、あいつったら黒ちゃんが乗るんだからって、王様に頼んで専用の船を用意させたんだって」
「せんよう?」
「船の先頭を見てみなよ、黒ちゃん」
ラウザーに言われて船首部分に近づいてみると、何か飾りが付けられています。よく見ると、それは羽ばたく黒い竜の木像でした。目の部分は若草色の宝石がはめ込まれ、全体的に優美でとても良く出来ています。
「ひょっとして、これってあたし?」
黒ドラちゃんが照れながらラウザーにたずねると「他にいる?」と逆に聞かれてしまいました。
「そっかあ。あたしってこんなにキレイかな?」
「まあ、黒ちゃんもあと数十年すれば、」
「ノーランド製だそうですよ、それ」
ラウザーの失礼な答えをさえぎって、リュングが教えてくれます。
「えっ、ノーランドで造られたの?」
「はい、王様が船首像を急いで造らせようとしたんですが、さすがに無理だったそうで。そうしたらカモミラ王女様がノーランドで古竜様の木像制作がブームになっていると教えてくださったそうです」
「え、あたしの木像ってたくさん作られているの?」
「何でも、一番人気は花びら入りの籠を持った古竜様像だとか。今ノーランドの土産屋は古竜様グッズでいっぱいだとキャラバンの人も言ってました」
「へ~!でもこんなに大きな木像、良く見つかったね」
「なんでもノーランドの王宮に納める予定だったらしいのですが、話を聞いたノーランド王が船の方を先に、と譲ってくださったそうです」
「王宮に飾る予定だったの!?」
黒ドラちゃんはビックリしてあらためて木像を眺めました。背中の魔石のうろこの部分には、同じような色をした宝石が埋め込まれています。魔石じゃなくてもきっとずいぶん高価なものでしょう。
「すごいね、良いのかな?、こんなのゆずってもらっちゃって」
「ゲルード様の話では、今回のナゴーンへのお出かけが無事に完了したら、像は船から外してノーランドへ返すそうです」
「そうなんだ……そうだよね、こんなに高価なもの、簡単に譲れないよね」
黒ドラちゃんは、ため息をつきながら優美な姿の自分の像をながめました。
「いえ、代わりに船に付けるための船首像は、すでにノーランドで制作が始まっているそうです」
「またわざわざ造るの?じゃあどうして返すの?」
「はい。古竜様が実際に乗った船の船首像となると、ファンにはたまらないお宝扱いになるらしく」
「お宝……」
「もうノーランドでは、戻ってくる船首像のお披露目のために、お祭りの準備が始まっているそうですよ」
まだまだノーランドでは古竜様ブームが続きそうです。
みんなが船首像のことで盛り上がっている中で、一人ラマデイーだけは暗い表情のまま海を眺めていました。ドンちゃんがそっと声をかけます。
「お姉さん、きっと大丈夫だよ。真実の魔石があれば、無実だってわかってもらえるよ」
ハッとしたようにラマディーがドンちゃんに向き直ります。
「ありがとうございます。俺、皆さんのこと騙したりして……。本当にすみませんでした」
「ううん。必死だったんでしょう?こんな広い海を一人で渡ってまで」
「夢中でした。でも、もっとじっくり時間をかければ良かったのかも。座長にも、きっと心配や迷惑をかけてる……」
再びラマディーの表情が曇ります。
「大丈夫、会って話をすればきっとわかりあえる。それが家族ですよ」
食いしん坊さんも優しく声をかけてくれます。
ナゴーンから、姉を助けるためにわざわざ海を越えてバルデーシュまでやってきたラマディー。その必死の行動が、かつて大陸中を命がけで逃げ回った自分たちノラウサギのようだ、と二匹は感じていたのです。
ドンちゃんと食いしん坊さんに励まされて、ラマディーも少しだけ明るい表情になりました。
「会えば、わかってもらえる、ですか。そうですね、もうすぐ会えるんだ」
ラマディーの瞳に強い気持ちがよみがえってきたのが見えます。
ドンちゃんと食いしん坊さんは、仲良く寄り添いながら、ラマディーと一緒にナゴーンへと続く海を眺めました。
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