第116話-真っ白なモフモフさん
間もなく、蔦がたくさん絡まった木の上に、可愛らしい家が見えてきました。どうやら、王宮の森のノラウサギは、穴ではなく木の上の家に住んでいるようです。
「グィン・シーヴォ殿、居られるか?」
おじいちゃん博士が下から声をかけました。ここにもグィン・シーヴォっていうウサギさんがいるなんて不思議ですね。
「ここには二代目のグィン・シーヴォ一家が棲んでいるんですよ」
黒ドラちゃんの不思議そうな顔を見て、モーデさんが教えてくれます。
ちょっと待っていると、家の扉が開いて、白っぽい灰色のモフモフしたウサギさんが顔を出しました。
「おや、博士、珍しいですな。お久しぶりです。わざわざ訪ねてこられるとは何かありましたか?」
この喋り方、この見た目、間違いなく食いしん坊さんのお父さんでしょう。
「お久しぶりです、グィン・シーヴォ殿」
おじいちゃん博士がゆっくりと木の上の二代目食いしん坊さんにご挨拶します。
「実は息子さんのお知り合いが花嫁の冠のことでノーランドまで見えているのです」
「なんと!花嫁の冠とは、ノラウサギの幸せアイテムの花嫁の冠のことですかな!?」
「ええ、もちろんですよ」
「では、では、ひょっとして息子に花嫁が!?」
「はい。こちらにいる、バルデーシュの古の森の古竜様のお友だちで、ノラプチウサギのドンちゃんという可愛らしい方らしいですぞ」
「な、な、なんと!古竜様のお友だちのノラプチウサギと!そんな素晴らしい相手を見つけるとは!さすがグィン・シーヴォ三世!!」
二代目食いしん坊さんは、なかなか感情表現が豊かなウサギさんらしいです。木の上でのけぞったり両前足を広げたり、踊るように動きまわって喜びを表現しています。
「それで、グィン・シーヴォのおばあ様に花嫁の冠のお話を聞きたいそうで」
おじいちゃん博士が話しかけると、ようやく二代目食いしん坊さんの動きが止まりました。
「あ、ああ、母ですか……。う~ん、お話が出来るかどうか」
「おや、お体の具合でもお悪いのですか?」
「いや、病気とかいうことではないのですが、最近は昼間もほとんど寝てばかりでしてな。たまに起きても話が通じないことが多くて……」
「ふむ。かなりのお歳ですからな……。では、今も寝ておられるのかな?」
「いや、今日は珍しく朝から起きております。ノラウサギの勘で何かを感じたのかもしれませんな」
「もし、よろしければ、古竜殿と会っていただくことは可能でしょうか?」
「ええ、ええ、もちろん!息子の花嫁が決まったことを話せば、必ず話を聞きたがるでしょう!」
しばしお待ちを、と言って、二代目食いしん坊さんは家の中へ戻っていきました。
しばらくして、家の中から真っ白なモフモフさんが現れました。お耳に可愛らしいピンクのフリフリしたリボンをつけています。どうやらこのウサギさんが食いしん坊さんのおばあ様のようです。
「おばあちゃんですよお!ちびグィン、どこだい?あたしの孫はどこにいるんだい?」
いきなり家の外に向かって大きな声で話し始めました。目もあまりよく見えないらしく、後ろで二代目食いしん坊さんがハラハラしながら見守っています。
「ちょっとグィン、本当におチビちゃんがいるのかい?返事が無いじゃないか」
おばあちゃんウサギは首をかしげています。
二代目食いしん坊さんが、おばあ様の耳を持って大きな声で話しはじめました。
「グィンはまだバルデーシュですよ!あちらで花嫁が見つかって、そのお友だちが花嫁の冠のことで聞きたいことがあると、こちらに見えているのです!」
「花嫁?我が家にちびグィンのお嫁さんが来るのかい!」
おばあ様の青い目がキラキラと輝きました。
「いえ、この家には――」
「それなら花嫁を迎える準備をしなきゃ!ああ、あたしがこの間王妃様から頂いた若草色のエプロンはどこだっけ?!」
二代目食いしん坊さんの言葉をさえぎって、おばあ様があたふたと動き始めました。
「それはもうサヴィに下さったじゃないですか!それもずーいぶん前に!」
二代目食いしん坊さんが困ったようにお耳を持ったまま大きな声で言いました。
「えっ!若草色のきれいなやつだよ?……そうだったっけ?えっと、じゃあ、あれは?ほら、あれあれ!うーんとねえ……」
おばあ様はその場で何かを思い出そうとしています。皆でおばあ様の次の言葉を待ちました。しばらく待ちましたが、おばあ様はなかなか“あれ”のことを思い出せないようで首をかしげています。みんなでおばあ様のことを見つめながらそのまま待っていると、目をつぶって考え込むおばあ様の方から、何か聞こえてきました。
ぐーすーっ、ぐーすーっ
おばあ様は寝ていました。
「ちょ、ちょっと母上、起きてください!みなさん待っていらっしゃいますよ!」
二代目食いしん坊さんが耳を持って大きな声で話しかけると、おばあ様はパッと起きました。
「誰が寝てるって!?あたしは思い出そうとしてるんじゃないか!“あれ”を!」
まったくもう、なんて言いながら家の周りをみて、おばあ様はようやく黒ドラちゃん達が居ることに気付きました。
「おや?誰かいるのかい?ああ、博士こんにちは。双子のお嬢ちゃんもいるね。あとは騎士と……ん?珍しい匂いがするよ?」
ほとんど目の見えないおばあ様は、匂いで周りのことがわかるみたいです。そして、黒ドラちゃんの方へ顔を向けて、しきりに鼻をヒクヒクさせました。
「あ、あの、こんにちは。あたしバルデーシュの古の森の黒です、古竜です」
黒ドラちゃんがご挨拶すると、不思議なことにおばあ様にはきちんと伝わったようでした。
「古竜の黒ちゃんかい?ようこそ、ノラウサギの森へ。寒くは無いかい?」
そう言って黒ドラちゃんに優しく微笑みかけました。
「あの、大丈夫です。えっと、おばあ様に教えていただきたいことがあって来たんです!」
「あたしにかい?あたしで良ければ何でも教えてあげるよ?」
そこまで言ってから、おばあ様はいっそう鼻をヒクヒクさせました。黒ドラちゃんの首には、モッチのためのリースがかかったままです。
「華竜様の匂いがするよ!あ、そうだ!思い出した!冠だよ!花嫁の冠が必要なんじゃないかい!?」
「そうですよ!母上、そのことで古竜様は見えられたのです!」
「ってことは、黒ちゃんのお友だちがちびグィンのお嫁さんってことかい?」
「そうです!そうです!ドンちゃんっていうんです!」
いきなり話が一気に進んで、うれしくて黒ドラちゃんも大きな声で答えました。
「はあ~!ついにグィン・シーヴォの家にも竜のお嫁さんが来るのかい。たいしたもんだ!」
あらららら、ちょっと違う方向に一気に進んじゃったみたいです。
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