6章-了 ステキなおくりもの

 夏祭りからしばらく経ったある日のことです。 黒ドラちゃんは、ドンちゃんと一緒にマグノラさんの森に遊びに来ていました。 森の中の一本道を進んでいくと、奥にお花畑が見えてきました。いつものように、赤茶色の大きな体が真ん中で丸くなっています。


「マグノラさん!」

  黒ドラちゃんとドンちゃんが大きな声で名前を呼ぶと、マグノラさんがゆっくりと顔をあげました。そのまま大きくあくびをします。


「久しぶりだね、黒チビちゃんたち。元気にしていたかい?」


 ドンちゃんが嬉しそうにマグノラさんの背中をどんどん登っていきます。


「ドンチビちゃんも元気だったかい?って、おやおや元気いっぱいだね」

 マグノラさんが笑いながら、ドンちゃんを乗せたまま背中を揺らしました。ドンちゃんはきゃあきゃあ言いながら楽しそうです。ひとしきり遊んでもらった後で、ドンちゃんはマグノラさんの背中から降りてきました。


  「あのね、マグノラさん、この間の夏祭りに来なかったでしょ?だからお土産持ってきたの」

 ドンちゃんが斜めにかけていたポシェットから、ポロポロと色々な物を取り出しました。古の森で採ったたくさんの木の実にラキ様からもらった雷玉が混じっています。


「あっ、あのね、ラウザーのいる南の砦にね、ラキ様って言うとっても綺麗な女神さまがいるんだよ!」

 ドンちゃんが雷玉を1個マグノラさんの前に差し出します。


「見て見て、これね、中に小さな雷が入ってるんだって。ラキ様がくれたの!」


 マグノラさんは楽しそうにそれを眺めています。それからそれから、とドンちゃんはどんどんポシェットの中を探します。下の方に何かを見つけたようです。


「あった!」ドンちゃんがうれしそうに声をあげました。


 それは、マグノラの花をかたどった、綺麗な貝がら細工のペンダントでした。グラシーナさんが作った藤の花の櫛のように、綺麗な虹色の貝がらで飾られています。


「おや、螺鈿細工かい?こりゃ綺麗だ」

 マグノラさんに褒められて、ドンちゃんがお耳を得意そうにピンッ!としました。

「そうなの!……ら、らでんざいくなの!」


 へえ、そんな名前だったんだ、と黒ドラちゃんが感心している横で、ドンちゃんはますますお耳をピンッとさせながらマグノラさんの言葉を繰り返しています。ドンちゃんが金の鎖を持つと、それはグーンと伸びてマグノラさんにぴったりなサイズになりました。

「これ、あたしと黒ドラちゃんからの贈り物。鎖はね、食いしん坊さんに魔力を注いでもらったの」

 ドンちゃんが背伸びをしてマグノラさんの首にペンダントをかけます。


「あのね、貝がらはラウザーが集めてくれて、台になっている石はブランが用意してくれたの!」

 黒ドラちゃんも一緒になって説明します。


「あたしも黒ドラちゃんも、貝がらを細かくしたり薄くするのを手伝ったんだよ!」

 ドンちゃんが得意そうに鼻をひくひくさせました。



 本当はグラシーナさんに作ってもらおうと思っていたのです。でも、テルーコさんのお店は、今とにかくいそがしくて、とても頼める雰囲気ではありませんでした。ブランとラウザーと、リュングにも手伝ってもらって、なんとか完成させたのでした。


「マグノラさん、夏祭りに来れば良かったのに。マグノラさんのくれた種からとれた綿で、とても素敵なおくるみが出来たんだよ?」

 黒ドラちゃんが言うと、ドンちゃんも続きました。

  「そうそう!すごくふわふわで良い匂いがして、優しい気持ちになれるおくるみなの!」

 思い出しながら、黒ドラちゃんもドンちゃんも「ふわ~」っていう表情になりました。


「夏祭りって色々なお店が出てたんだよ?マグノラさんともお買い物したかったな」

 ドンちゃんがつぶやきます。

「そうだよね、一緒にお店を覗いて、何か可愛いもの買って、マグノラさんに贈りたかったな」

 黒ドラちゃんもつぶやきました。するとマグノラさんが満足そうに微笑みながらこう言いました。

 

「いいや、あの日はあたしもステキな贈り物をもらったよ」


「えっ、誰から?」

「誰からもらったの?!」

 黒ドラちゃんもドンちゃんも、お目めをまあるくしてキョトンとしています。マグノラさんはそんな様子を見ながら、ガラガラの大きな声を優しく響かせ答えました。


「双子の赤ん坊から、元気な産声を聞かせてもらったのさ」


「わあ!それってペペルの赤ちゃんでしょ!?」

「無事に産まれたんだね!」

「良かったねえ!」

「良かったね!本当に良かった!」

 黒ドラちゃんとドンちゃんは、お花畑をピョンピョン飛びまわりました。


「ほら、今だってもらったよ」

 マグノラさんが機嫌良さそうに尻尾をゆらゆらさせます。


「えっ!?今!?誰から!?」

  黒ドラちゃんとドンちゃんが同時に声をあげてキョロキョロしました。



 マグノラさんはニッコリ微笑んで言いました。



「可愛いおチビちゃん達から、ステキな笑い声を聞かせて“もらった”よ」



  黒ドラちゃんとドンちゃんは、一瞬顔を見合わせてから、いっせいにマグノラさんに抱きつきました。


「ありがとう!マグノラさん!」

「大好き!マグノラさん!」

 マグノラさんが両手を広げて黒ドラちゃんとドンちゃんを包み込みます。



 こんなにもらっちゃって、良いのかねえ?

 両手にいっぱいの想いを受け止めて、マグノラさんの嬉しそうなつぶやきが、森の中にとけてゆきました。





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