第99話-ころんころんっ
黒ドラちゃんは手の中の白い石を見つめました。
初めは、グラシーナさんに一番を取ってほしい!とだけ考えていました。ラキ様の気持ち、グラシーナさんの気持ち、初鱗をあげたラウザーの気持ち……花櫛はとても美しくて、もし、美しさだけで競うなら、迷わずグラシーナさんの籠に石を入れたでしょう。でも……
でも、ここに集められた品物は、優れている、というだけではないのです。ここに至るまでのたくさんの想い、その想いの深さ、重さ、懸命さ、純粋さ。台の上に飾られているのは、「想い」そのものなのです。
黒ドラちゃんは、どの籠に石を入れれば良いのか、わからなくなっていました。
「黒ドラちゃん、決めた?」
ドンちゃんがたずねてきました。
「う、ううん、まだ。……ドンちゃんは?」
見るとドンちゃんは石を持っていません。
「えっ!ドンちゃん、もう決めたの!?籠に入れたの!?」
「うん」
ドンちゃんが答えます。
黒ドラちゃんが悩んでいる間に、ぐるっと回って石を入れてきたみたいです。
黒ドラちゃんは、ドンちゃんがどの籠に入れたのか、すごく知りたくなりました。
「ドンちゃん、どの籠に入れたの?」
「あのね、あたしが一番だと思う作品の籠に入れたよ!」
ドンちゃんが元気よく答えます。自信たっぷりでお耳がピーンとしています。
そうでした。“自分が一番だと思う籠に入れる”って決まっていたんです。みんなみんな一人ひとりが自分で選んで決めるのです。そのために、たっぷりとお話を聞くだけの時間も設けられました。
黒ドラちゃんは、グラシーナさんの台を見ました。台の前の籠にはたくさんの石が入れられています。目の前の白い布が飾られた台の籠を見ました。こちらもたくさんの石が入っています。見回して見ると、どの籠にも、同じくらい、たくさんの石。ここにあるものは、どの作品も一番に選ばれるだけの力があります。
ふと、グラシーナさんの台のところにいるラキ様と目が合いました。黒ドラちゃんに向かって、ラキ様が微笑んでうなずきます。そして、白い石を二個とも、グラシーナさんの籠に入れました。
黒ドラちゃんも決めました。白い石をぎゅっと握りしめると、目の前の籠にころんころんっと入れました。すぐに、どの石が黒ドラちゃんが入れたものかわからなくなりました。
「黒ちゃん、行こうか」
ブランが優しく手を引いてくれます。そうしなかったら、黒ドラちゃんがその場を動きそうになかったからです。何度も何度も後ろを振り向いて、それぞれの作品を目に焼き付けました。
その想いを、焼きつけました。
そして、広場に着く頃には、黒ドラちゃんはすっきりとした良いお顔になって、ブランと楽しそうに笑っていました。
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