ちょっと一息☆ラウザーのひとりごと
第80話 オアシスとピリピリ
さて、陽気でおしゃべりなラウザーが
砦での暮らしをぜひ話したい!
というので聞いてあげることにしました。
ひとりごとなのに、あんまりにもしゃべるので
前後編では収まらず、7~8話になりそうです。
馬鹿な子ほど可愛い、っていう表現がありますが、
馬鹿な竜ほど可愛いです。
一緒にそう思ってくださる方がいたら、嬉しいです。
では、少しの間、お付き合いください。
**********
ええと、おれ、陽竜のラウザー!よろしくよろしく~!南の砦のそばに引っ越してきたんだよ。
砦のみんなで歓迎会ってやつをやってくれて、歌ったり踊ったり、うまいものいっぱい食わせてくれた。やっぱ人が集まってるところは良いよな。
砦では当番制で見張りを決めていて、そいつが何か書いていたので、聞いてみたら「当番日誌」だと言った。俺も、ちょっとはこの国の文字の読み書きは出来る。なので、俺も書いてみたいと言ったら紙をくれた。よく見たらどこかのお店のチラシだった。……どおりで気前良くくれたと思った。その裏に書けば?ということらしい。まあ、良いけど。何かわかんないシミがあるけど、この紙……まあ、良いや。
で、今書いているわけさ。
南の砦の近くに住み始めて2週間ほど経ったんだけど、ここの奴らは若い男が多くて、面白い。
いつも休憩時間になると「腹が減った」とか、「可愛い彼女が欲しい!」とか、そんなことばかり題にしている。ここの若いやつらと話しているとロータのことを思い出す。元気にしてるかな?リア獣にやられていないか心配だ。おっと、あまり考えすぎて、また魔力の揺らぎでも起こしたら大変だ。ロータは大丈夫だと信じよう!
砦の中を色々と見せてもらった。若い男ばかりだけど、けっこう綺麗になっている。砦の支部長が厳しいらしい。見た目はちょっと横に広くてノンビリしてそうだけど、剣の腕もまあまあらしく、砦の奴らはみな尊敬していると言っていた。コレド支部長とみんなが呼んでいるので、俺はコレドさんと呼んでいる。
で、俺は今日も砦の中をウロウロとしている。一番のお気に入りはやはりオアシスだよなあ。長い間決して枯れることの無いオアシスで、周りには木も生えているし草や花もある。
ここで水浴びでもしたいなあ、と思ったが、どうやら神聖視されている場所らしく、コレドさんに止められた。言われてみると、オアシスの周りには綺麗な白砂が敷き詰められている。草花が途切れている部分には、台座になる黒い魔石が置かれ、その上には毎日果物があがっている。一度そこにあげてから、砦の食事に出されるらしい。この上げ下げは、基本的に砦に派遣されている魔術師が日替わりで担当しているらしい。オアシスには何らかの強い魔力が働いているらしいので、近づくのは魔術師だけ、と決めたんだって。
コレドさんの話によると、こことは別に、砦の中にも水が湧き出ている場所があるので、そこでなら水浴びして良いと言われた。行ってみると大人一人分の胴回りくらいの四角い石の囲いの中に水が湧き出ている。覗き込んでみるとけっこうな深さがあった。おそらくは底の方で外のオアシスとつながっているらしいとのこと。なんでも、昔あのオアシスに間違ってボタンを落としてしまった兵士がいて、諦めていたらこの石の水場に流れ出てきたんだって。砦では、ここの水を色々なことに使っていると言っていた。ここの他にも、あと三ヶ所、同じくらいの大きさの石の水場があるらしい。あのオアシスのおかげで、この砦は成り立っていると言っても良いんじゃないかな。
今日は人間の姿でオアシスの木の下のお気に入りの場所を陣取る。と言っても、のんびりオアシスのそばに座り込むようなやつなんて俺くらいだけどさ。
オアシスを覗き込む。
綺麗な水だよなぁ。オアシスってそんなに深くは無いはずなんだけど、ここは底が見えないくらいに深い。冷たい水がキラキラと太陽の光を反射している。ここに潜ったら気持ち良さそうだよなあ。ちょっとだけ、そうたとえば……尻尾の先だけ!……入れちゃおうかな。周りを見渡してみても、俺に注意を払っているような奴は見当たらない。へへへ、じゃあ、失礼しまーす!
オアシスに背を向けるようにして、ポチャンと小さな水音を立て、尻尾を半分ほど水の中に入れてみた。はあ~冷たくて気持ちいい。それになんかピリッとするし―――って、なんでピリッとするんだ?!アレ?っと思った瞬間に、ピリッとがビリリッ!!とになって、俺は飛び上がった。あわてて尻尾を回収してみる。まだなんだかビリビリしているような気がする。ワーオ!これって、大好きな雷雲の中に潜った時みたいだ。
周りを見渡すと、俺のやっていることに気付いている人間は、やはりいないみたいだった。もう一度オアシスを覗き込む。相変わらず綺麗で深い。もう一度背を向けてジャポン!と今度は尻尾を全部入れてみる。相変わらずピリッと……なんてのんきに構えていたら、突然尻尾がグイッと引っ張られて、おれは一気にオアシスの中に引きずり込まれてしまった。
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