第71話ーずっといやだったの!
白い花の森に着いたカモミラ王女の一行は、目の前に伸びた一本道を進んでいました。と、カモミラ王女は護衛の騎士たちに言いました。
「ここから先は、私一人で行きます」
「いえ、おひとりでと言うわけには――」
護衛の騎士たちは当然反対しました。
「ここは華竜様の森。女性に狼藉を働くような者が立ち入れるとは思いません」
カモミラ王女の一言で、護衛の騎士はその場での待機を決めました。
やがて、一人で進む王女の目の前に花畑が広がりました。花畑の真ん中で、岩のような体を丸めてマグノラさんがお昼寝しています。
「華竜様、私はノーランドの第三王女カモミラと申します」
王女が挨拶をすると、マグノラさの尻尾が大きく揺れました。話してごらん、というように。カモミラ王女は涙ぐみながらマグノラさんにお願いしました。
「わたし、わたし、姉さまたちのように美しくなりたいんです。金の髪に宝石のような瞳に。こんなパッとしない姿じゃ嫌なんです!」
「カモミラ王女、よく聞きなさい」
マグノラさんのガラガラ声がゆっくりとお花畑に響きます。マグノラさんは体を起こし、王女をまっすぐに見つめました。
「金の髪に宝石のような瞳、それは確かに美しい。けれど、それでお前さんは満たされるかい?」
「えっ!?、も、もちろん――」
カモミラ王女がとまどいながら答えました。マグノラさんはその答えを聞いても、ゆっくりと首を横に振りました。
「いいや、お前さんが欲しいのは、金の髪でも宝石のような瞳でも無いんだよ」
「えっ?いえ、そんなことはありません!わたしは本当に、この姿から変われれば、きっと……」
「お前さんが本当に欲しいものに気付いた時、わたしは願いを叶えよう」
そう言うと、マグノラさんはお花畑の真ん中に、またゴロンと丸くなりました。カモミラ王女はしばらくの間その場に立ち尽くしていましたが、マグノラさんがもう動かないことを知ると、肩を落としトボトボと森を出て行きました。
ダンスの練習が終わったドンちゃんと合流して、黒ドラちゃんはドーテさんに入れてもらったお茶とお菓子を味わっていました。今日はもう古の森に帰ろうか?そんな話をしていた時です。カモミラ王女が白い花の森から戻ったという知らせが入りました。ドーテさんと黒ドラちゃんはドキッとしました。王女の髪と瞳の色はどうなっているだろう?と。けれど、部屋に入ってきた王女の姿は、今までと全く変わっていませんでした。ホッとした黒ドラちゃんに、いきなり王女がすがりつきました。
「お願い、黒ドラちゃん。お願いだから、私の髪の色と瞳の色を変えてちょうだい!」
「カモミラ様……」
ドーテさんが悲しげな顔で見つめているのにも、王女は気づきません。
「あ、あたし、カモミラ王女は今のままが良いと思うよ。可愛いもん。わからない?」
黒ドラちゃんは出来るだけゆっくりわかりやすく話したつもりでしたが、王女には伝わらなかったようです。
「わからないわ!私にはわからない!嫌なのよ!、こんなパッとしない目の色も、髪の色も、ずっと嫌だったの!」
王女が叫んだ途端、テーブルの上でガチャン!と音がしました。みんながビックリして目をやると、ドンちゃんがカップを落として、震えながら王女を見ていました。ドンちゃんの茶色のお目々に、今にもこぼれ落ちそうな涙が浮かんでいます。
カモミラ王女は我に返りました。
「ち、違うの!ドンちゃんのことじゃない!ドンちゃんのことを可愛いって言ったのは嘘じゃないの!」
「で、でも茶色の目も毛も嫌なんでしょう?」
ドンちゃんが震える声で聞いてきます。
「それは、それは――」
カモミラ王女は何も言えなくなりました。言い淀む王女の様子を見て、ドンちゃんはタンッ!と勢いよく後ろ足を蹴りつけると走り出し、あっという間に見えなくなってしまいました。
「待って!待ってドンちゃん!」
あわてて黒ドラちゃんも駆け出しましたが、もうドンちゃんの姿はどこにもありません。
「そうだ!食いしん坊さんに探してもらおう!」
黒ドラちゃんが言うと、ドーテさんも「私も探します!」と声をあげました。
「わ、私も探し出して……ちゃんと謝らないと……」
カモミラ王女の声は、さっきのドンちゃんのように震えています。
黒ドラちゃん、カモミラ王女、ドーテさんは、手分けしてドンちゃんを探すことにしました。まず、黒ドラちゃんは食いしん坊さんを探しました。食いしん坊さんは、庭のベンチの前でウロウロしていました。
「食いしん坊さーん!」
「おや、黒ドラちゃん、どうされました?」
「あのね、大変なの!ドンちゃんがビューンって走り出して消えちゃったの!」
「茨の生垣にですか?」
食いしん坊さんが、おやおやという表情をしました。
「違うの!今度はそうじゃなくて、どこに行ったかわからないの!」
「なんですと!ちょっとお待ちください。ノラウサギの魔力を探ります」
食いしん坊さんは、ちょっとの間目を閉じましたが、再び目を開けると「これはまずい!屋敷の外に出てしまったようです」と黒ドラちゃんに言いました。
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