第51話-コーコーセー、ロータ
黒ドラちゃんに説明できずに固まったラウザーは、ブランの尻尾の一撃で再び動き出しました。横でロータもなんとか動き出せています。黒ドラちゃんの澄んだ瞳で見つめられて、口をモゴモゴさせましたが、ブランに睨まれるとやはり何も言えず目を泳がせました。
「で、どうするんだよ。それで黒ちゃんに何をさせるんだ?」
ブランがラウザーを問い詰めます。その様子を見ていて、どうやらラウザーは無理をしてこの二匹を連れてきてくれたんじゃないか、とロータもうすうす気づきはじめました。
「お、おいラウザー、大丈夫なのか?お前、あいつらにやられたりしないよな?」
ロータが小声で聞いてきます。
「だ、大丈夫だよ!ただ、あの黒髪の女の子の竜の魔力が必要なんだ」
「どうして?」
「――――俺よりずっと強い魔力を持ってるからだよ」
その言葉にロータがラウザーのことを見つめると、ラウザーは自信無さげに目をそらしました。
「ひょっとして、お前俺に嘘ついてたのか?必ず戻れるって言ったじゃないか!自分で戻せるかどうかわからない癖に言ってたのかよ!」
ロータがラウザーに詰め寄ると、とたんにブランがロータの襟首を掴んで倒しました。
「ああ、お前を返すのは大変なことさ!だからわざわざラウザーは親友の僕に嘘までついて、黒ちゃんをここまで連れてきたんだ!」
「えっ―」
ロータはブランの言葉に驚きました。
「ごめんよ、ロータ。本当は俺だけじゃ返せるかどうかわからなかったんだ。で、でもさ、黒ちゃんに魔力を出してもらえば絶対に帰れるって!」
ラウザーはロータの横にしゃがみこみ、いつものように明るい口調で言いました。でも、よく見るとロータの手を握るラウザーの手が震えています。
「ラウザーはこの国の人間たちからも、お前を守ってきたんだぞ。僕たちだってラウザーがこんなに一生懸命じゃなきゃ協力するもんか!」
ブランにそう言われ、ロータはもう一度、自分の手を握るラウザーをじっと見つめました。熱が続いた時、ラウザーが励ましてくれたから乗り越えられました。頭がおかしくなりそうな孤独な時間も、ラウザーが明るく話しかけてくれたから、過ごしてこられたのです。何より、一度は自分自身で望んだからこそ、ここに来てしまった可能性が高いって言うのに……
「ごめん、ラウザー。俺、自分のことばっかり……」
ロータはラウザーの手をぐっと握りしめると、頭を下げました。
「良いんだよ、だってロータは誰も知り合いのいないところへいきなり来ちゃって大変だったろ?俺は大丈夫さ、ブランたちだって来てくれたしさ」
そう言って、ラウザーが嬉しそうにブランを見上げると、ブランはしかめっ面をしています。そして「さあ、早くしよう!ぼやぼやしていると、ゲルードが来ちゃうぞ!」そう言うと海の方へ向かいました。
「で、具体的にはどうやって返すんだ?マグノラは何て言ってた?」
ブランが尋ねると、ラウザーが張り切って説明し出しました。
「マグノラねえさんの話だと、黒ちゃんなら揺らぎを起こすだけの魔力は十分にあるって。だから、あとは想うことだってさ」
「想うこと?」
黒ドラちゃんがコテンと首をかしげます。ドンちゃんはいないので、今は一人コテンです。ラウザーの説明を聞くと、どうやら黒ドラちゃんは強く想うこと、想像する力で魔力を使えるということでした。だから、ロータの話を聞いて、ロータが元の生活に戻れる様子を想像すれば、きっと帰れるんじゃないか、ということでした。
なるほど、とうなずくと黒ドラちゃんがロータにたずねました。
「ロータはどんな生活していたの?どんな木の実を食べていたの?どんな動物がお友達だった?」
「えっと、木の実はあんまり食べてない。動物も家にはいなかった、な……」
ロータの眉がハの字になりました。
「最近は母親と冷戦状態だったからカップ麺ばっかり食べてたし。あとはコンビニの弁当とか……」
「かっぷめん?こんびに?」
黒ドラちゃんには想像もつきません。
「お友達は?」
食べ物のことはあきらめて、お友達の方から想像してみることにしました。
「中学校まですげえ仲の良かった奴は、違う高校になっちゃってしばらく会ってないんだ。それに今は受験一色だから。一応連絡は取りあってるけど、会って遊ぶことはしないな……」
黒ドラちゃんの眉毛もハの字になってきました。
「あ、乗り物は?馬車に乗って移動しない?馬はいるの?」
「馬はテレビでなら何度か見たことあるけど……俺のいたところじゃ電車とかバス、車の方が普通で。馬車って映画とかでしか見たことないよ」
またいくつも知らない言葉が出てきて、もう黒ドラちゃんはすっかり判らなくなりました。
「なんか、ロータの元の生活が想像できないよ~」
森の中で、動物さんや鳥さん虫さんとお花や木の実に囲まれている黒ドラちゃんには、都会で暮らすコーコーセーのロータの生活はとても想像できませんでした。
「何か、同じようにイメージ出来る物ってないかな?」
みんなで考えていると「家は?家はどう?」ラウザーが聞いてきました。
「家は分譲マンションだよ。えっと、四角くて大きな建物で、1階から8階まであって、それぞれ6戸くらいあって、家族が住んでるんだ」
ロータは身振り手振りで説明してくれましたが、黒ドラちゃんの眉毛はどんどんハの字が下がっていきました。
「わかんない」
もう半べそをかきだした黒ドラちゃんにブランが優しく言いました。
「焦らないで、黒ちゃん。きっと何かあるさ。たとえば……あ、魔石はある?」
今度はロータの眉毛がすっかりハの字になりました。
「……魔石、ない」
とうとうロータは座り込んでしまいました。
「だ、大丈夫だよ、必ずあるはずだよ!だって、俺たち色々話せて楽しかったじゃないか!」
ラウザーがロータを励まします。
「そうだよな。楽しかったよな……色々、お互いに……珍しいことばかりで……」
あ、ロータが一段と落ち込みました。
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