第31話ー特別なはちみつ玉

 それだけでマグノラさんには黒ドラちゃんのいる方向が分かったみたいです。ちょっと向きを変えると、どんどん飛んで行きました。


 すると木々の間から黒ドラちゃんがバサッと飛び出してきました。黒ドラちゃんは、手に黒い紐のようなものを持っています。と思ったら、紐のように見えたのはクマン魔蜂さんの列でした。一列になってぶんぶんいいながら黒ドラちゃんの手からずっと続いています。


「クマン魔蜂さんにマグノラさんのことお話したら、ぜひ会いたいって」

「そりゃうれしいね。クマン魔蜂といえば古の森の名物じゃないか」

「あとね、ちょっとだけどはちみつもらったんだ」

 そういう黒ドラちゃんの手には金色の小さな丸いしずくが乗っています。そのまわりをクマン魔蜂さんがぶんぶん言いながら群がって飛んでいました。


「あのね、これって特別な“はちみつ玉”なんだって。とっても甘くて美味しくてお口の中に入れてもなかなか無くならないんだって!」

「ほお、聞いたことはあるけど見るのは初めてだね」

「これ、マグノラさんにあげる!」

 黒ドラちゃんはマグノラさんにはちみつ玉を差し出しました。


「夜中に助けに来てくれたお礼に!」

「え、いや、別に良いのさ。あたしが昼間ちゃんと話しておけば済んだことなんだからさ」

「でも、すごく助かったしうれしかったの!だからもらって!」

 クマン魔蜂さんも、マグノラさんのまわりをぶんぶん飛んで、もらってアピールしているみたいです。

「ははは、それじゃありがたくいただくとするかね」

 そう言ってマグノラさんは、はちみつ玉を受けとろう手を出しました。一匹の特別に大きなクマン魔蜂さんが、黒ドラちゃんの手の上のはちみつ玉を掴んで、そのままマグノラさんの手のひらに降りました。はちみつ玉を手のひらに置くと……ん?飛び立ちませんね。


「あのね、そのクマン魔蜂さんはマグノラさんの白い花の森に遊びに行きたいんだって」

「あたしの森にかい?別にかまわないけど。うちのミツバチたちと仲良くしてくれるかい?」

マグノラさんが尋ねると、クマン魔蜂さんが返事をするように、ぶい~ん!と羽を動かしました。

「よしよし、わかったよ。連れて行ってあげよう」

「ありがとう!マグノラさん。帰りは自分で飛んで帰ってくるって」

「たいしたもんだね」

「この間もお城に連れて行ったんだけど、いつの間にかどこかに巣ごと運ばれちゃって、クマン魔蜂さんだけ後で飛んで帰ってきたんだよ」

「そういえば、そうだったよねー」

 マグノラさんの背中でドンちゃんも感心してうなずきました。クマン魔蜂さんてすごいんですね。みんなで感心していると、心なしかマグノラさんの手のひらの羽音が得意そうに大きくなったような気がしました。


 マグノラさんはそのまま自分の森に戻ると言ったので、黒ドラちゃんは森のはずれまで見送ることにしました。森のはずれに着くと、マグノラさんは背中のドンちゃんを降ろしてくれました。


「マグノラさん、ありがとう。すごく良い香りがしたし楽しかった!」

 ドンちゃんはマグノラさんにお礼を言いました。

「いや、いや、こっちこそ可愛いチビちゃんを乗せて飛ぶのは楽しかったよ。それに冗談抜きであたしだけじゃ森で迷子になったろうからね」

 マグノラさんは優しくドンちゃんの頭をなでました。マグノラさんに撫でられると、ドンちゃんの毛並みがキラキラ光ります。マグノラさんは女の子を見守る竜ですから、何かドンちゃんにステキな魔法をかけてくれたのかもしれません。

「黒チビちゃん、2~3日は夜の間は人間の姿で眠るんだよ。そうすればかゆみはおきないからね」

「うん!色々教えてくれてありがとう、マグノラさん」

「これも竜の常識の一つさ。教えるのは長き者の務めさ」

 そう言うとマグノラさんは自分の森に向かって飛び立ちました。マグノラさんの頭の上には、はちみつ玉を持ったクマン魔蜂さんがしっかり乗っています。


 黒ドラちゃんとドンちゃんは、森の中に戻ってきました。まだお日様はお空の上の方にあります。お散歩をしたり、湖でお魚さんを眺めたり、二匹で楽しく過ごしました。いっぱい遊んで、そろそろ夕方かなという頃になって「あれ、この匂い?」と黒ドラちゃんがつぶやきました。


「どうしたの?」

 ドンちゃんが不思議そうに聞きました。

「ブランの匂いがするの。こんな夕方に森に来たのかな?」

 黒ドラちゃんは不思議に思いながら匂いのする方へ飛んで行きました。途中でドンちゃんをおうちに送ります。あまり遅くなるとお母さんに心配かけちゃいますからね。


 黒ドラちゃんだけになって森を飛んで行くと、ブランが立っているのを見つけました。どうしたんでしょう、すごく焦っているみたいにキョロキョロしています。


「ブラーン!」


 黒ドラちゃんが呼ぶと、ようやく気付いたみたいですごい勢いで飛んできました。

「黒ちゃんっ、!大丈夫っ?」

 ブランが息を切らしながら聞いてきました

「どうしたの?ブラン、なにかあったの?」

 黒ドラちゃんには何が何だかわかりません。

「あのさ、夜中に背中がものすごく痒くならなかった?」

「あ、なったよ!すごくかゆくて本当に大変だったの」

「そうか、やっぱりか、ごめんよ黒ちゃん」

「なんでブランが謝るの?ブランのせいじゃないよ。それにもう大丈夫なんだよ。マグノラさんに色々教えてもらったから」


「えっ!マグノラに!?会ったのかい!?」

 ブランがものすごく驚いた様子で言いました。

「うん、マグノラさんて親切だね。夜中にわざわざ飛んできてくれて一緒に寝てくれたの」

「そ、そうか……マグノラが」

 ブランは何とも言えない表情で言いました。

「ねえ、ブラン、もうそろそろ夜になるし、一緒に洞に戻ろうよ」

「えっ!いや、その、それは」

 ブランはなんだかしどろもどろです。

「あんなに大きいマグノラさんも入って寝られたんだもん、ブランだって大丈夫だよ」

 黒ドラちゃんが目をキラキラさせて誘います。

「うーん」

 ブランはうなりました。

「マグノラさんのこといっぱいお話したいし、もし良かったら今夜はブランも人間の姿になって二人でおしゃべりしようよ」

「えっ!う、うん」

 とうとうブランは洞に行くって言ってくれました。そりゃそうですよ、可愛い女の子の竜に「今夜は人間の姿で二人きり」なんて言われて断れる竜がいるでしょうか?洞に向かって元気よく飛ぶ黒ドラちゃんの後ろを、なんだかふらつきながらブランが飛んで行きました。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る