第14話-お城にいきたい

 結局その日は、黒ドラちゃん達はブランとはほとんど遊べませんでした。

 代わりにゲルードから、なんだか山ほど色々なことを教え込まれました。


 王様やお后様に会った時の挨拶の仕方や、王子様の好きなものや、機嫌の悪い時に出る癖などなど。


 頭の中がいっぱいいっぱいでわけがわからなくなって、黒ドラちゃんが目を回しそうになった時、とうとうブランが氷の塊を吐き出してゲルードにぶつけました。

 そのまま、イライラするブランに追い立てられるように、ゲルードは「今日のところはこれで」とかなんとか言いながら、兵士さんたちを引き連れて帰っていきました。


 気付けばもうすっかり夕方です。ドンちゃんは一番星が光る前におうちに帰らなきゃお母さんに叱られちゃいます。

 ドンちゃんを背中に乗せると、黒ドラちゃんはドンちゃんちの穴に向かいました。


「ドンちゃんごめんね。全然遊べなかったね」

「ううん、あたし面白かったよ。まじゅつしって『よくしゃべる人間』ってこと?」」

「そうかもね!」

 ドンちゃんが楽しかったなら良かった、と黒ドラちゃんはホッとしました。


 ドンちゃんのおうちに着くと、穴からお母さんが心配そうに顔を出していました。


「お母さん、ただいま!遅くなってごめんね」

 ドンちゃんが言うとお母さんはドンちゃんの匂いをふんふん嗅いでから「おかえり」と言ってくれました。

 良かった、怒っていないみたいです。

 ドンちゃんが黒ドラちゃんをちらっと見ました。そこで、黒ドラちゃんはお母さんにお願いしてみることにしました。


「あの、あの、ドンちゃんのお母さん、今度森の外に行く時はドンちゃんを一緒に連れて行っても良い?」


「森の外?うーん、この間は我慢させたから、あまり遠くじゃ無ければ良いけど……どこに行くの?」


「お城!」

 ドンちゃんが大きな声で答えました。


「お城!?まぁ、本当に?」

 お母さんが驚いて黒ドラちゃんに聞いてきます。


「そうなの。王子様に会ってほしいって、今日頼まれちゃって」


「黒ドラちゃんがね、自分だけで行くのは怖いから、一緒に来て!って」


「ふーん。黒ドラちゃんがねぇ……」

 お母さんがドンちゃんの顔を覗き込みます。


 ドンちゃんがさっと目をそらすと、今度は黒ドラちゃんに尋ねてきました。

「竜の黒ドラちゃんはともかく、野ウサギがお城へ行って大丈夫なのかしら……」


「大丈夫!ずっと一緒にいるもん、ね?ね?」

 黒ドラちゃんがあわてて言うと、ドンちゃんもうんうん頷きます。


「そう、じゃあちょっと考えてみましょう。とりあえず今日はおうちに入りなさい」


 お母さんは、なかなかすんなり「良いよ!」とは言ってくれませんでしたが、それでも絶対にダメって言っていた前回よりは行ける感じです。明日またお話をすることにして、とりあえず黒ドラちゃんも洞のおうちに戻りました。


 翌朝、黒ドラちゃんはドンちゃんが遊びに来る時間よりも早く出かけて、ドンちゃんのおうちに行きました。

 穴に着くと、ちょうどドンちゃんが出てくるところでした。


「ドンちゃん、おはよ―!」


「あ、黒ドラちゃん迎えに来てくれたの?」


「うん。お母さんどう?行っても良いって?」


「うーん。昨日の夜、まじゅつしの話とか王子様の話とかしてみたんだけど、考えてみるってところから進まない……」


「そっかぁ……」


「ねぇ、あたしも一緒に行くのって、本当に大丈夫かなぁ」

 ドンちゃんが不安そうです。


「大丈夫、大丈夫だよ、あたし絶対ドンちゃんと一緒に行くんだもん!」


 黒ドラちゃんが大きな声で言った途端、お母さんが穴から顔を出しました。


「おはよう、黒ドラちゃん、本当にうちの子がお城に行っても大丈夫かしら?」


「大丈夫!あたしがずっと一緒にいるから!」

 黒ドラちゃんがあんまり一生懸命言うもんですから、とうとうお母さんもドンちゃんがお城に行くことを許してくれました。ドンちゃんも黒ドラちゃんも大喜びです。



 ドンちゃんと一緒にお城に行けることになったので、黒ドラちゃんは嬉しくてブランに報告したくなりました。ブランがまた森に来てくれないかなー?と期待しながら、何日か過ぎました。


 お城に行けるって、本当なのかな、と不安になり始めた頃、またガチャガチャした音が聞こえてきました。


「黒ドラちゃん、ひょっとしてまじゅつしが来たのかも」


「そうだね、そうしたらブランもいるかも!」


 黒ドラちゃんは、ドンちゃんを背中に乗せると、この前と同じ場所を目指して飛んで行きました。

 あ、やっぱりです、ブランの匂いもしてきました。いました、いました。白いヒラヒラを着たゲルードと鎧を着た兵士さんたち、その少し後ろの上空をブランが飛んでいます。


「ブラーン、ゲルード!」

 黒ドラちゃん達がゲルード達のところに行くと、ブランも降りてきました。


「黒ちゃん、ドンちゃん、おはよう」

 ブランが挨拶してくれます。今日もキラキラして綺麗です。


「ブラン、お城に行ける話って本当だよね?今日はお迎えに来てくれたの?」

 黒ドラちゃんは嬉しくて目を期待でキラキラさせながら尋ねました。


 すると、ブランが答えようとする前に、ゲルードがささっと出てきてひざまずきました。

「お城へお連れする話は本当です。ただ、今日は別な用事で参りました」


「別な用事?」

 黒ドラちゃんがたずねます。


「先日は私のせいでお時間を奪ってしまい申し訳ございませんでした。それで、お詫びと言ってはなんですが、古竜様に捧げものを、と思いまして」

 ゲルードが後ろを振り返ると、鎧を着た兵士さんが二人ずつで箱を持って進み出てきました。兵士さんたちが運んできた箱は、全部で5つ。


「なになに?なんだろう?」

 黒ドラちゃんとドンちゃんはワクワクしながら箱の前に立ちました。


 一つ目の箱を開けると、中には小さな女の子が着るようなフリフリのドレスが入っていました。スミレ色の生地に、濃い紫色の大きなリボンの飾りが付いています。リボンにも裾の方にも小さなキラキラしたビーズが縫い付けられ、可愛らしくて華やかです。


「わあーかわいいねー!まるでお姫様のお洋服みたい!」

 黒ドラちゃんとドンちゃんは大はしゃぎです。


 二つ目の箱には靴が、少し小さめな三つ目の箱には髪飾りが、それぞれ入っていました。どれも濃淡のスミレ色でまとめられていて、ドレスと合わせたらすごく可愛い感じです。


 四つ目の箱はもっと小さくて、開けると中には指輪とネックレスが入っていました。それぞれ綺麗なエメラルドグリーンの宝石が使われています。そこまで見て、はじめて黒ドラちゃんは気がつきました。


「ブラン、これってブランのおうちにあった魔石じゃないの!?」


「そうだよ、気付いてくれた?」

ブランはとても嬉しそうです。


「うん、よく見たらビーズも全部魔石なんだね」


「そう、こんな風に飾りとして使うこともできるんだよ」

 ブランはちょっと得意そうに言いました。


「でも、でも、まさかあの大きな岩の魔石使っちゃったの?」


「うん。でも少し削っただけだよ。まだまだ大きなままだから大丈夫」

 それを聞いて黒ドラちゃんはホッとしました。


「でも、このドレスは誰のなの?」


 黒ドラちゃんが尋ねると、ブランが答えようとする前に、またまたゲルードがささっと出てきてひざまずきました。


「すべて古竜様のものでございます」


「え?あたしの?」

 黒ドラちゃんとドンちゃんは顔を見合わせました。だって、ドレスは黒ドラちゃんが着るには小さすぎます。黒ドラちゃんが着ようとしたら、すぐにビリッと破けちゃいそうです。



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