2章*キラキラ王子に会いに行くんだ!の巻

第13話ー王子様って?

 ブランと一緒に北の山の雪を持ち帰った日から、何日か過ぎたある日のことです。


 黒ドラちゃんは、いつものようにドンちゃんと森へお散歩に出かけました。

ブランは今度いつ遊びに来てくれるんだろうね?なんてお話しながら飛んでいると、なんだかガチャガチャと騒がしい音が聞こえてきました。

あれ、騒がしい方からブランの匂いがします。ブランが遊びに来てくれたのかな?と黒ドラちゃんは思いました。それにしてもずいぶん賑やかです。


「ねぇ、ドンちゃん、あっちからブランの匂いがするんだけど、行ってみても良い?」

ドンちゃんにはブランの匂いはわからないので、黒ドラちゃんは聞いてみました。

「あっちって、ガチャガチャの方?」

「うん。なんだろうね、あの音。ブランが何かおみやげ持ってきてくれたのかな?」

「おみやげ?行ってみよう!黒ドラちゃん!」

 背中のドンちゃんがご機嫌で足をタンタンさせました。


 ブランの匂いと音のする方へ行ってみると、ブランの怒鳴り声が聞こえてきました。

「ダメだ!ダメだと言っているだろう!帰れ!」


 なんだか怖い感じです。でも、ブランは向こうを向いているから、黒ドラちゃんたちに怒鳴っているわけではなさそうです。ブランの向こう側を見てみると、いつかの罠の森で見た鎧を着た兵士さんたちと白いマントのゲルードがいました。ガチャガチャした音って、兵士さんたちの歩く音だったんですね。


「ブ、ブラン、どうしたの?」

 黒ドラちゃんが恐る恐る声をかけると、ブランが驚いて振り向きました。


「これはこれは古竜様、お目にかかれて光栄です」

 ゲルードがさっと前に出てきて、お得意のご挨拶をしてくれました。背中のドンちゃんが小声で聞いてきます。

「ねぇ、黒ドラちゃん、ひょっとしてこの白いヒラヒラの人、お姫さ」

「違う!」

 内緒話だったのにゲルードったら聞いていたみたいです。背中でドンちゃんがビックリしてぎゅーっと硬くなったのがわかりました。


「間違えちゃっただけ、怒らないで!」

 黒ドラちゃんがゲルードに言うと

「いえいえ、もちろん怒ってなどいません」

 ってゲルードは言ったけど、そういう割には声がツンツンしていました。



「みんなで遊びに来てくれたの?」

 黒ドラちゃんが尋ねるとブランが嫌そうに言いました。

「僕が北の山を出たら、それを知ってすぐにゲルードたちもついてきたんだ。誘ったわけじゃないよ」

「輝竜殿が強力な魔力を練って雪玉なんぞこさえて山から出てきたので、こちらに向かうのだろうとすぐにわかりました」

 雪と聞いて黒ドラちゃんとドンちゃんの目が輝きました。

「持ってきてくれたの?!」

 黒ドラちゃんがわくわくしながら尋ねると「この間はドンちゃんだったから……」と言いながら、ブランが後ろから何かを出してきました。

 あれ?、この間よりもずいぶん大きな雪の塊です。頭みたいなのがあって、長い尻尾がついていて、背中には羽…?のようなものもあります。そういう形の透明な入れ物の中に、雪が閉じ込められて、くるくると舞っていました。


「黒ドラちゃんだ!!」

 ドンちゃんが叫びました。

「えっ!あたし?」

 ビックリです。本当だ、よく見たら竜ですね、これ。

「あたしを作ってくれたの?」

「うん」

 ブランがちょっと照れながら答えてくれました。

「ありがとー!すっごく嬉しい!」

 黒ドラちゃんはブランに飛びつきました。その途端、ブランの持っていた黒ドラちゃん雪玉から、雪がふわーっと周りに広がりました。

「あ、食べなきゃ、食べなきゃ!」

 黒ドラちゃんとドンちゃんは一生懸命飛び跳ねながら雪をお口に入れました。美味しい美味しいという二匹を、ブランはとてもうれしそうに眺めていました。




 たっぷりと雪を堪能したあとで、黒ドラちゃんとドンちゃんは、さっそくブランと遊ぼうとしました。でも、ゲルードがとても大切なお話があるから聞いてほしいと、しつこくしつこく本当にしつこく頼んでくるので、遊ぶのを我慢してゲルードの長いお話を聞くことになりました。



 この国にはバルなんちゃら言う名前の王様がいて、王様には奥さんであるお后様と、男の子が三人と女の子が一人います。王様の子どもの中で、一番上の男の子(つまり王子様ですね)が次の王様になる予定になっています。

その王子様は小さいころから剣にも優れ、賢くて優しくて、その上しっかりした素晴らしい王子様でした。そして、将来はきっと素晴らしい王様になるに違いないと誰からも思われていました。


 ゲルードは王子様と幼馴染でした。いずれ王子様が王様になった時には、自分が国一番の魔術師として王様とこの国を守るのだ、そうずっと心に誓ってきました。


 だから、王子様と数か月遅れで成人のお祝いをしてもらった時には、一人前の魔術師として王子様に忠誠を誓いました。

 今着ているひらひらの白いマントは、その時に王子様から贈られたものだったんですって。王様からは、白く光る大きな魔石のついた杖を貰ったそうです。


 ゲルードは嬉しくて、それからは常に王子様と一緒にいようとしました。


 ところが、段々と王子様はゲルードを遠ざけるようになったんです。ゲルードだけではありません。国民の前にも姿を見せなくなり、最近ではごくごく限られた家臣としか会わないようになってしまいました。


 遠ざけられたことが悲しくて悔しくて、ゲルードはとても悩みました。


「私には何も思い当たることが無いのです。何かお気に障る事があれば仰ってくださいと何度も伝えていただきましたが、別に何も無い、と」

 ゲルードはちょっと変わってところもあるけど、王子様を思う気持ちは本物みたいです。


 聞いていて黒ドラちゃんたちはゲルードが可哀そうになりました。黒ドラちゃんとドンちゃんが目をウルウル鼻をぐしぐしさせながら話を聞いていると、ゲルードがここぞとばかり言いました。


「何かきっかけがあれば良いのです!王子様がどうしても会ってみたいような素晴らしい方をお連れすれば、きっと私の前に出てきてくださるに違いない」


「素晴らしい方?たとえば?」

 黒ドラちゃんとドンちゃんが二匹で首をコテンとかしげて聞きました。


 ゲルードが悲壮感をたっぷりと漂わせながら言います。

「たとえば、……伝説の古竜の生まれ変わり、とか」

 あれ、今なんか最後の方ニヤってしてなかった?


「でんせつのこりゅう?」

 ドンちゃんが聞き返します。


「ええ、伝説の古竜の生まれ変わりです。ああ、でもきっと探し出すのは無理でしょう!」

 ゲルードはくず折れて両手で顔を蔽いました。長く美しい金髪がカーテンのように垂れて細かく震えています。


「えっえっちょっと待ってちょっと待って……それってひょっとしてあたしのことなんじゃない?」

 黒ドラちゃんがビックリして叫びました。


「えっ、なんですって?あなたが伝説の古竜の生まれ変わり?本当ですか?」

 ゲルードが嬉しそうに立ち上がりました。


「う、うん。多分そうだと思う。っていうか、ゲルードだってこの間そう言ってなかっ」

「ああ!神様!!ありがとうございます!この幸運に感謝します!」

 黒ドラちゃんの言葉をさえぎって、ゲルードがひざまずき大げさに叫んで空を仰ぎました。

 黒ドラちゃん達の後ろの方では、ブランが両足をドシドシ踏み鳴らしていました。周りを兵士さんたちがぐるっと取り囲んで、まるでブランを中心にして踊っているように見えます。


 楽しそうですね。



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