第42話 ソーマ・ピクトリアン国王との謁見

 公の場としての外交は、中立を保っている国で行われた。

 議題は主に『クリストフ・ピクトリアンの処遇』についてである。

 当然だが、大罪を犯してしまったクリストフはもう自国には戻れない。


 ピクトリアン王国で犯した罪は、血のつながった妹リオンヌとの近親相姦。国外への脱走。

 アルンティル王国での罪は言わずと知れた、二度に渡る毒草使用。城下町王宮共に中毒患者、死者を多数出した事による国家損失及びリオンヌの東の建物からの逃走補助。


 どちらの国が捕まえたとしても、現場処刑である。

 そして、この問題はいかなる決着がついても、『国家間の問題にはしない』そう結論付けられ、同意書も交わした。

 もちろん、公式記録も作られ、双方の国で保管されることになっている。


 公式外交の会談後、あちらの外交官から私と非公式に会談をしたいと言われ、ピクトリアン王国に連れて来られた。

 入国できるのは、ピクトリアンの血を受け継いでいる私だけだと言われた。


 

 そして、今である。

 私は、白い空間に座っている。

 何もない訳では無く、会談を行う部屋ではあるので、ちゃんと重厚なテーブルと椅子はあるのだが……何もかもが、白い。


 音もなく。空間からいきなり背の高い男の人が現れる。

 何と言うのだろう、幾重にも布が重なったような白く長い服を着ている。頭から布を被っているのでお顔も見えない。

 後ろの文官……だろうか、男の人が数名。クリストフ・ピクトリアンの服装に似てる服を着ていた。


 私は思わず、椅子から立ち上がりその場に跪いた。国王陛下だ、この方は。本能的に分かってしまった。


「私は、ソーマ・ピクトリアンと言う。この国の国王だいひょうをしている。そなたがシャルロットの娘か?」

 どうしよう。発言の許可が下りていない。このまま答えても良いのかわからない。

 私が跪いている前にソーマ・ピクトリアン国王が来たのが分かる。そして、私に目線を合わせるように座り込んだ。


「しゃべれぬのか?」

「いえ……発言の許可が」

 ……なんだか、フレデリックに似ている。容姿がではなく、態度が。

「そんなものいらぬ。身内ではないか。名は何という?」

「セシリア・ピクトリアン・グルダナと申します」

「ああ。まだアルンティル王国の者になっていないのだな」

 何か、目の奥が光った気がした。


「あの、ピクトリアンの名前を使って外交をしてしまって、すみませんでした」

 ダメだわ。何だか子どもみたいな言い方になっている。

 ソーマ・ピクトリアン国王がフッと笑ったのがわかった。

「使ってはないだろう? セシリアは、自分の名前を名乗っていただけ。違うか?」

「そうですが……」

氏名フルネームに母親の出身国名を入れるのは、グルダナの慣例だ。シャルロットを嫁がせるときに、我が国も許可を出したことだ。それに、相手が勝手に勘違いするのは、もうそなたの所為では無いのではないか?」


 ソーマ・ピクトリアン国王から私の方に手を差し伸べられる。私は自然とその手を取って立ち上がった。そうして、私を元座っていた椅子に座らせてくれた。

 なんだろう。緊張感がなくなるこの感じ。何か、そういう薬草を使われているようだった。


「さすがに気付いたようだが、あらがわないで、くれないだろうか」 

「はい」

 ソーマ・ピクトリアン国王が私のあごに手を添え、瞳を覗き込まれた。

 長い時間だったのか、一瞬だったのか。私はその間、無抵抗で受け入れていた。

 長い溜息を吐かれる。


「残念だ。そなたが理不尽な扱いを受けていたり、アルンティル国王の事を少しでも嫌っていたりしたら、このまま連れ去ろうと思っていたのに」


 はい?


「そういう話だったのだよ。今回の外交会談はそういう条件付きで実現したのだ」

「な……んで?」

「教えない。自分で考えなさい」

 私の顔をまだじっと見ている。私もまだ、緊張感無くお顔を見上げていた。




注)このお話のソーマ・ピクトリアンと、『賢者の愚行 ~見た目は17歳、中身は12歳の悪役令嬢 番外編ピクトリアンからの姫君』のソーマ・ピクトリアンは同一人物です。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054892875580/episodes/1177354054894609246

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