第15話 お話を聞いてしまった後

 その夜、私の部屋に来たフレデリックは、いつになく機嫌が良かった。

「そなたが王宮内をウロウロしているのも悪くは無いな」

 私の方はお茶を入れながら笑って見せるのが精一杯だというのに、フレデリックは椅子に座って、とてものんきに言っている。


「それで? 俺と別れた後、何かあったのか?」

 あの場には、近衛騎士たちもいたので、報告は上がっているだろうに私に訊いてくる。

「ありました」

 嘘を吐く必要も無いので、素直にそう返事をした。

「一度だけの失敗でビュッセル家に対する処分は酷すぎるって……」


 私は、その後を続けられなかった。

 フレデリックは、にこやかに私の言葉を待っている。

 だけど、怖い。周りの温度が下がった気がしていた。


「一度だけの失敗だと、そう言ったのだね。内容は訊いた?」

「はい。書類上のミスだと」

「それで、そなたはその者に何と言って戻って来たのだ?」

「わたくしの一存では何もできませんので、陛下にご報告します。と、だけ言って戻ってまいりました」

 実際、私には何の権限も無いし、あの場での判断のしようもない。

「まぁ、報告通りだな。すまなかった。試すような真似をして」

 少し空気が和らいだ気がした。


「すまなかったな。そなたを怖がらせるつもりは無かったのだが」

 そう言いながら立ち上がり、私が座っているすぐ横までやって来て、私の手を取る。

「冷たくなってる」

 私の手を自分の頬に当てた。子どもにするような仕草なのに、なんだろう、ドキドキする。

「すまない。仕事の事になると、つい……」

「い……いえ。わたくしこそ、ここ最近ずっとお疲れの様子だったのに……すみません」

 だから手を離して。お顔が近いって……。


「セシリアが悪いのでは無いよ。俺がここに仕事を持ち込んだことが……って、セシリア? 大丈夫か?」

 私は極度の緊張状態に置かれたせいか、ブラックアウトしてしまっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る