指
ここ最近、アカギの父は娘と遊ぶことに執心していた。というのも忙しい仕事がひと段落したからである。学校にアカギを送る時も仕事のことばかり考え、たまに早く家に帰れてもパソコンと向き合う。
やっと本当の休みをとれた父はアカギに質問をする。
好きな食べ物は?
好きな色は?
好きな遊びは?
好きな本は?
_お母さんが作る料理
_紺色
_ないよ
_ミステリー?かな
《お父さんは好きか?》
とは聞けない。今まで仕事に手一杯で我が子に時間を割いたことは両手で数えられる程度だろう。
自業自得で、しかし歩み寄りたかった。妻の我が子を見る目があまりにも優しく、そして我が子が妻を見る目が穏やかで暖かかったから。
除け者にしたのは他でもない自分自身で。
後悔を予知することは出来ない。言い訳を並べてもガラクタ同然で玩具にすらならない。
アカギは父のことを嫌ってはいなかった。むしろ母同様好きである。
しかし時折父の自分を見る視線が苦しそうなもので、痛みを覚えてアカギは父に近付かない。
ゲームは好きか?
音楽は好きか?
学校は好きか?
家は好きか?
お母さんは好きか?
_うん
_うん
_うん
_うん
_うん
_お父さんも、好きだよ
「見えないモノ」たちに背を押されアカギ質問を重ねる父に初めて本音を呟いた。
直後、見開かれる父の目。アカギは失敗を悟ったが、父は目を潤ませてアカギを抱きしめる。
_あったかい
「俺も、好きだ。今まで、ほったらかしにしてごめん」
台所にいた母が近寄ってきて笑顔でアカギごと父を抱きしめるからぎゅうぎゅうと狭さを感じる。
冷たさは存在しなかった。
行ってらっしゃい
母に見送られて父と散歩しているアカギ。大きな父の手と小さなアカギの手では差がありすぎるが手を繋ぐことはやめなかった。
父は鳥をよく見つける。
ほらあそこ
父が指さした先には必ず鳥がいてアカギは目を輝かせる。動物が好きで自然が好き。空が一番のお気に入りなアカギは鳥がいっとう好きだった。
願うならば自分も翔びたい。
週末はすぐ終わるもので。しかし5日過ごせばまたやってくる。アカギも父も、そして母も。3人で過ごせる週末が何よりの楽しみであった。
どこか遠くへ出かけるのもいい
家でゆっくり過ごすのもいい
アカギは「見えないモノ」に感謝をいう。
_背中を押してくれてありがとう
『お父さン、嫌イなノ?』
「嫌いじゃないよ。でも、」
『デも?』
「お父さんが私をどう思ってるか分からない」
『ナンでそウ思うの?』
「私を見る目が、苦しそうで、」
『…あア。なら聞いテみれバいいワ』
「私のこと嫌い?って?無理だよ」
『じゃアこうシましょウ』
あなたの思いを伝えるの。あなたが本音を言ったらきっと本音で返してくれるわ。
どウいたシまして
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